第二話『初登校』
「で、結局その格好はなんなの?」
素に戻った俺の姿を見た途端、マジ泣きしていた母はコロリと態度を変え、朝飯であるトースターを用意してくれ、俺の目の前に座っている。あれから15分くらい経ってしまった。埼玉県にある我が家から、都内にある学校まで約1時間。現時刻は7時。今日の登校時刻は9時だからまだギリ間に合う。飯は食えるな。
「言ったでしょうお母様。悠樹は今日から真面目になります」
母の眉間に皺が寄る。・・・マズイ。
「やっぱりラリって・・・」
「ないからお袋」
結局素で喋らなきゃいけねぇのかよ・・・ッタレが!
「じゃぁなんで急に『真面目になる』なのよ?!」
コーヒーカップをテーブルに勢いよく叩きつける。プラスチックのカップだから割れはしないが、ガラス製のテーブルは割れるんじゃないか?
「・・・どうでもいいだろ?お母様」
「やっぱり――――」
「しつけぇよ!!」
朝から疲れる・・・ハァ。
愛すべき築5年の我が家は、駅から1キロも離れていないところにある。閑静な住宅街ではあるが、時たま線路を走る電車の音が耳障りなのが玉にキズだ。Yシャツの上に親父のスーツの上着を勝手に拝借して羽織り、中学時代に先輩から譲り受けた(戦利品)スクーターで駅に向かう。細い道の割に、駅から近いせいか裏道として利用する車が多いが、走り慣れた道なので問題ない。
―――待て。真面目な悠樹様は無免許運転などしてはいけないのでは?
いや、今日は不可抗力だ。あのお母様のせいで遅刻しかねん状況だ。お母様愛用チャリじゃ予定している電車に間に合わない可能性がある。なんとしても7時34分発の急行に乗らなくては遅刻だ。次から無免許は止めよう。
それにしても、この時間の駅は人が多い。出勤時のサラリーマン、女子高生、部活をやってそうな男子高生ってところだろうか?まだ本格的に学校が始まってる所は無いはずだからな。なぜ、学校がないのに女子高生が制服で電車に乗るのかは考えてもわからんから考えない。
―――ん?あの昇り龍の刺繍は・・・
駅の改札の目の前で人が多いのにも関わらず、一人で突っ立っている少し幼さの残る顔。でかいとは言えない身長。時代遅れのボンタン。そして・・・史上最強・鬼人降臨の金色の文字に挟まれた昇り龍・・・おいおいぅをい!なんかこっち見てるぞ!めっちゃガン飛ばしてるぞ!
「ぅをい、クソガキ・・金出せよ?あぁ?!」
カツアゲっすか坊やぁ・・・声変わりしきってないから迫力ないですよ坊やぁ・・・
「てめぇダセェ七三しやがってクソガキぃ・・・こっちこいやてめぇ・・・」
クソガキぃはあんたですよ坊やぁ・・遅刻しちゃうだろうが坊やぁ・・・
―――ん?待て。こいつ今ダセェ七三って・・・
「誰の頭がダセェ七三だゴラァ!!」
馬鹿な後輩、龍也に怒りの鉄拳をかました後、俺は改札を走り抜け、電車に飛び乗った。
―――今朝の犯罪(現時点で)―――
・無免許運転
・暴力
・無賃乗車
・駆け込み乗車
にしても、あいつ・・・こんな所で何やってたんだろ?