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現実逃避死にたい病  作者: 都宮京
2/2

Second/ 冷めてしまった

第2話です。

はっきり言おう。私は女という生き物が嫌いだ。

同族嫌悪とはよく言ったものだ。

そんな私だが、高校生になるまではそこらへんのみんなとなんら変わりはなかった。

わかり易く、端的に説明すると、私は高校生になったとき、15歳の子供ながらに今の生きている環境に冷めたのだった。

その話はまた後に。

まず最初に、私が女として女が嫌いな理由をいくつかあげよう。


まず私の知っている限りでは、女は群れをなさなくては生きていけない奴がほとんどである。

これは私がこの16年と数十日を過ごした日々の経験から導き出した結論である。

小学校に入る頃からもう既に、女同士の戦いは始まっていた。

私は生まれた頃から性格がねじ曲がり、社会で生きていくための処世術のようなものを既に持っていた為故に、どこのグループにも所属することはなく、グループを組まされる度、日々違った種類のグループへと入れてもらっていた。

そんな義務教育時代を過ごしてきて、私が中学2年になった頃の話である。

「真由のこと千代がうざいって言ってたよー」

仲が良くも悪くもないクラスメートが私に言った。

ちなみに私の名前は滝沢真由タキザワ マユである。

「そう」

私はこれだけしかその子に相槌を打たなかったが、内心かなり失望していた。

自分のことを悪く言った子はもちろん、その話を私に伝えてきた子にもだ。

はっきり言って、そのことを私に伝えてきた子の方が失望の色は濃ゆかったかもしれない。

その子はもともと、その私の悪口を言っていた子と仲が良くて、同じグループに所属していたから。

そんな子が友達の悪いところを人に話すのは如何なものかと、私は無表情ながらに思ったものだ。

こんな出来事が、私を含まない場所で起こっているのを見たこともある。

その時は、悪口を言われた子が怒り、その子を仲間外れにするという、何とも周りからしたら迷惑なことが起こってしまった。


悪口を言う人が悪い。

悪口を伝えた人が悪い。

悪口をいわれる人が悪い。


考え方は人によって様々だろう。

ただ私は、大してすごくもないこの世界でこんなくだらない事を展開させようとする女たちを、少なからず軽蔑していた。

もう一つ女が嫌いな理由を上げるとしたら、それは母親のせいでもあるだろう。

私の母親は私の反面教師そのものである。

まず男に惚れやすい。

父がいるにも関わらず、父のいない家に何度も違った男を引き連れてはヘラヘラと頬を染めて笑っていた。

しかも男と遊ぶ金は父の給料からというのがなんとも解せない。

また家事も滅多にしない。

そりゃそうだろう、男と毎日のように遊んでいるのだから。

キッチンよりも鏡の前にいる時の方が居座る時間の多いあの女が、私はどうも嫌いだった。

だからあの女は私の反面教師な訳だ。

人にあまり好意は持たない信じない。

自分の事は自分でする。

反面教師ほど優秀な教師はいないと私は思っている。

もちろん、軽蔑はするけど。

とまぁこんな感じに、私は女というものが嫌いになったわけだ。


黒板の板書を写し終わると、聞きなれたチャイム音が耳に入り、私の睡眠を邪魔した男がまた終わりの号令をかけ始めた。

「滝沢さん。この課題のノート運ぶの手伝ってくれるかしら? 」

私の嫌いな女教師がまた私の名前を呼び、嫌悪感が現れそうな心に蓋をして、「はい」と返事をする私はもっと嫌いだな、とたまに実感する。


ここで、私が15歳の子供ながらに今の環境に冷めきってしまった話をしよう。

その原因がそれこそこの女にある。

国語担当の女教師 水嶋ミズシマ 春佳ハルカ23歳。

彼女は一度話したとおり、私の父の元浮気相手である。

愛人と浮気相手の違いは知らないが、まぁ既婚者の父に手を出したのがこの女というわけだ。

父は唯一、だらしない母から生まれた私がここまでまともに育ってきた保護者の、第一人者である。

私の父の名前は晃正アキマサ

とある大学の教育学部の教授をしている。

当時その学生だった春佳は、良く言えば父に純粋に恋していた。悪く言えばストーカーをしていた。

父はだらしない母を更生させようと、私が中学一年の時に実家に帰らせた。

あんなクズみたいな女だったけど、もとは根は優しく、明るい女だった。

だから父はそんな性格だった母を見捨てることができなかったのだろう。

母とは打って変わって、父は真面目な人だった。

浮気しない。ギャンブルもしない。お金使いも荒くない。

私の一番尊敬する人だった。

でもあるとき、それは私が中学2年になったとき。

あの女が父の周りをうろつくようになった。

かなりのおじさんであるはずの父にここまで恋情を抱くなんて考えものだが、世の中はわからないことだらけな訳だ、そんな事があっても可笑しくないだろう。

父が最近疲れたようにため息を吐くものだから、「どうしたの?」と聞いてみれば、「最近ちょっと困った生徒がいてね」と嘆いていた。

そして事件は起こったのだった。

私が受験生になった秋頃のこと。

父の住所を調べた女が、いきなり家に来た。

そして

『私を抱いてください』

父に頭を下げてきたのだ。

馬鹿だと思った。

子供のいる目の前で、こんなことを言い出すのだから。

彼女は必死だったのだろうが、それが大人として判断した結果なのだろうか。

恋とは辛い。醜い。汚わしい。

父にすがりつく女を、私はずっと睨みつけていた。

父はこんな姿を子供に見せるのはいけないと思ったのか、女と二人で外に出た。

そしてその日。父は朝まで帰ってこなかった。


朝起きて、瞬時にあの女を抱いたんだな。と理解した。

父がそんなことをするはずがないと心の中で否定しながらも、どこか冷静な自分もいた。

きっとあの女は「抱いてくれるまで帰りません」とでも言って父を脅したのだろう。

汚らしい大人め。

気持ち悪くて反吐が出そうだった。

夕方、女を抱いた父と対面した。

私の冷たい瞳に、父は動揺し泣いていた。

父が泣くのを初めて見た。

そして父を嫌いになれない自分がいることにも気づいてしまった。

父が私たちのために女を抱いたこともちゃんと知っていた。

それが私の父だから。

彼は優しい人だから。

私は静かに泣く父にこう言った。

「あの女を抱いてもいいんだよ」

これがその時の私の本心だった。

父は顔をあげ、何を言っているんだと顔を歪めた。

当たり前の反応だろう。私もそれ以外の反応だったら父を殺していたかもしれない。

「私は父さんにいっぱい迷惑をかけたから。父さんが正しいと思うことをやればいい。父さんがあの女と寝ようが心中しようが、私が尊敬しているのは、ずっと父さんだけだという事実は変わらない


だから、私のことは気にしなくていい」


その言葉を聞いて、父は嗚咽を漏らした。

娘に見捨てられたと勘違いされてしまったかもしれない。

でも私はそんなつもりはなかった。

これが、ねじ曲がった私なりの父への愛だった。

好きにさせてあげること。

解放して上げること。

迷惑をかけないこと。

これが私の愛だった。

その日父は帰ってきたばかりだというのに、家から出ていった。

大学の研究に没頭するようになった。

そんな父を私は密かに見つめていた。

在学中のあの女との関係も続いていた。

何度かホテルに入るところを目撃したこともある。

そして季節は冬になり、私の高校受験が決まり、春休みに入ったとき。

父が久しぶりに家に帰ってきた。

今まで父はお金をたまにポストに入れるだけで、ほとんど家に近づかなくなった。

そんな父が、家に帰ってきた。

インターホンがなり、戸を開けると俯いた父がいた。

「おかえり」

といつもどおり言うと、父は

「すまなかった」

と言って静かに謝った。

謝る意味がわからなかった。私は父を少しも怒ってはいないのに。どうして?どうしてなの?そんな疑問が頭を支配した。

父はその日から女と一切連絡を取らなくなったらしい。

女は大学を卒業し、教師になった。

父もいつも通りの生活を私と一緒に戸惑いながらもしていた。

またいつもの日常にピースが収まり、私は高校に入学したのだ。

だが、人生というのはやはり理不尽なようで。

入学して入ったそこには、新任教師として赴任してきたあの女がいた。


クラスの人数分のノートの重さを手に感じながら、パタパタとスリッパと廊下が打ち付け合って鳴る音を響かせながら、まだまだ若い女の背中を見つめる。

普通はこのまま職員室に行くところだろうが、女はそのままあまり使われることのない資料室へと足を踏み入れた。

習って私もそこに入る。

別にこれが初めてじゃない。

良くあることだ。

資料室を埋め尽くす多くの古本の臭いを鼻に入れながら、私はノートの束を机の空いているスペースに下ろし、開いたままのドアを閉めた。

私は女を視界に入れることなく、複数の地図が縦並べられた一点をジッと見つめた。

「滝沢さん···あの···晃正さんは···どうしているかしら?」

もうこの質問にも慣れた。

何度も何度も何度も何度も。この女は父の娘である私に構うことなく、図々しくも聞いてくる。

だから慣れた。こんなことに慣れるのも嫌だけど。

でも、この嫌いな女と同じ空間にいるほうがその3倍嫌な私は、いい慣れた機械的な台詞を口にする。

「別にどうもしていませんけど。」

この時ほど"死にたい"と思うことはない。

いや、"死にたい"という感情より"死ねばいいのに"という感情のほうが正しいかもしれない。

この女はまだ私の父が好きなのだ。


真由「·····やっと名前が出た」

作者「すみません」

真由「謝ってとか言ってないじゃん」

晃正·作者「(···怖いよこの子)」


To be continued.☆by Kei Tomiya(♡˙︶˙♡)

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