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プロローグ
「決心はついたのか」
黒のジャケットとジーンズを身に纏った中肉中背の男、岡崎慎司は椅子に座って俯いている男に尋ねた。
薄暗い独房のような部屋には裸電球と鼠色の机と二組の椅子だけが置かれている。
男はしばらく沈黙して赤い床の染みを眺めていた。額には汗が滲んでいる。そしてそのままの姿勢で答えた。
「ああ」
ただその一言だけ。それを聞いて慎司はもう一言だけ確認した。
「全部でいいんだな」
男は頷いた。それを聞くと慎司は立ち上がり足の立たない男を支えて部屋を出た。そして、先に小さな光が漏れている黒い廊下の先へ消えていった。