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芽生え  Ⅲ

 ティアールが家族に、愛する弟の死の真相を語っている頃。ラヴァリスは、ファリエと副官であるラウールを伴い、ヒュベリアのイクラシオン大神殿にいた。


「ラヴァリス閣下」

「何だ」

「一体、なんで自分が大神殿ここにいるのでしょうか」

「そりゃあ、オレが連れてきたから」

「いえ、そうではなく」

 ラウールは、上官の悪い癖が出たと眉間を押さえつつ、重ねて問う。

「何の目的があって、自分を連れてきたのでしょうか」

「お見合い」

「はあ!?」

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまったラウールに、非はない。突然連行された上、場所が大神殿である上に、その理由が「お見合い」などと斜め上な発言が帰ってきたのである。これで素っ頓狂な声を上げない人間がいたら、お目にかかって見たいものだ。

「誰と!?」

「少なくとも、オレじゃない」

「それはわかっています!!」

 この上官は、時折、確信犯的にボケをかます、悪い癖の持ち主だ。

 容姿端麗にして、武勇に優れ、楽器を奏でさせたら玄人はだし。それだけでも世のご婦人方の心を虜にし、もてない野郎共の 妬みを買うのに十分すぎるのだが、その上、父はアクリジェントでも指折りの大国の国王であり、母は海の女神とくる。ここまで出揃うと、もてない野郎共ですら、怒りや妬みなどの感情は抱けない。

 悪感情を抱けないのには、もうひとつ、大きな理由がある。


「どんなにすごい肩書き背負ってても、もれなくカヴァール卿と言う苦労の種がついて来るんだから、むしろ、マイナスだよね」

 

 と、言う、男共の感想が全てを物語っている。


 ラウールも、普段は世の男共とまったく同意見なのだが、この上官が彼に対し確信犯的にボケるのだけは止めて欲しいと常々思っているのだ。


「ラヴァリス、そなた、いい加減にその手のボケを止めたらどうじゃ」

「母上には言われたくないですね」

 (何故か大神殿にいる)シエラの言葉に、ラヴァリスは辛らつに言い返す。

「何故じゃ?」 

「母上の場合、素でボケますからねえ」

 息子の嫌味に、母親は不思議そうに首を傾げる。

「そもそも、何だって、母上が大神殿ここに?」

 もっともだが、今更な息子の疑問に、母親は不思議そうな表情のまま問い返す。

「わらわが居ては、なんぞ不都合でも?」

息子ヒトの疑問に、疑問で返さないでいただけますか? 母上?」

 ラヴァリスの言葉に、母は更に不思議そうな表情になる。

「何故?」

「…ああうん。母上にこの話題を振った、オレが馬鹿だった」

 ラヴァリスは、母との会話をサッサとあきらめ、父の妹であるファリエの母に向き直った。

「叔母上。お望みどおり、マールの結婚相手に相応しい男を連れてきましたよ」

「ありがとうございます。ラヴァリス様」

 カメリアは、甥の言葉に、深々と頭を下げる。

 ラヴァリスは、確かに彼女の異母兄の息子だが、れっきとした王子。

自分はもと王族とは言え、公爵家に降嫁した身。ふたりの間には、身分の壁が存在する。それだけではない。ラヴァリスは神の血を引いているのだ。身分の壁どころか、種族の壁すら存在している。

「ラヴァリス閣下!?」

 ラヴァリスの思いがけない言葉に、ラウールは仰天する。

「お前とマールなら、似合いの夫婦になると思ったんだがな」

「何だって、こんなに突然」 

 ラウールのもっともな問いに、ラヴァリスとファリエ、そして、カメリアは、そろって渋い表情になる。

「ホーキンスが、王都に来ている。マールの両親と、丸め込まれたサルヴァトーレ国のイルサーナの神官も一緒にな」

 イルサーナは婚姻を司る神にして、イクラシオンの娘のひとりである。

「それで、わたしにマール殿と結婚しろと?」

「強制はしない。だが、ホーキンスは身分を振りかざしたがる。イクラシオンの女神官とは言え、マールの地位はそんなに高くはない。その上、両親おやが代理とは言え、書類に署名してしまっているんだ。法的には、ふたりの婚姻が成立したも同然」

 ラヴァリスの言葉に、ラウールは少し考え込んだ。

「マール殿」

 名を呼ばれた赤毛の女神官は、憔悴しきった顔を彼に向ける。

「あなたは、どうなのです? 突然、結婚相手をつれてこられて。いくら求婚者から逃げるためとは言え、結婚しろなどと乱暴なこの話を受けるのですか?」

「わたしは、あの男と結婚など、考えたくもありません! あの男と結婚するくらいなら、死んだ方がましです。それに私は…」

「それに?」

 マールは、ほんのりと顔をあかくしてうつむいた。

「ラウール様のことを…」

「マール殿…」

 思わず、こちらもつられて顔を朱くしてしまうラウールである。


 そんな副官の様子に、ラヴァリスは満足げにうなずいた。

「ちゃっちゃと、結婚してしまえ。オレと母上が立ち会うんだ。文句は言わせん、いや、いっそ、連中の目の前で我々を立会人にして、式をあげる、と言うのはどうだ」

「あら。それは素敵ですわね。ラヴァリス様、シエラ様」

「結婚式じゃな。花嫁衣裳なら、わらわに任せよ。すぐにでも手配しよう」

 なんだかノリと勢いでとんでもないことになりそうなのだが、肝心のふたりの耳には届いていない。

 ふたりとも、そろって頬を染めてうつむいているのであった。








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