人物紹介と前作あらすじ
『水面の月を抱く国』に既出の人物の紹介、および簡単なあらすじです。
このまま本編をお読み頂けますが、『水面の~』の方にもお目を通して下さると嬉しいです!
<人物紹介>
リリンス : オドナス国王の末娘で、唯一未婚の王女。母親は平民の女性であり、八歳まで市中で育った。好奇心が旺盛で怖いもの知らずだが、自分の立場を弁えている。優しく朗らかで、時に物凄くシビアなことを言う。
ナタレ : オドナス王国の従属部族であるロタセイの王太子。留学生という名目の人質として王都へ招かれ、国王侍従に取り立てられた。優秀だがやや内向的。リリンスには借りがあって逆らえない。
アノルト : 国王の長男で正妃の子。南洋に面したドローブ港の総督を務めており、普段は王都を離れている。リリンスを可愛がっていて、妹と親しいナタレを目障りに思っている。
セファイド : オドナス王国の現国王。王太子であった異母兄を倒して王位に就いた。国を急速に拡大・発展させた明るい名君。漁色家だが、色事に関しては鉄のマイルールを持っているらしい。
タルーシア : 国王の正妃であり異母姉。アノルトの生母。十代の頃から国策の道具にされ続けた苦労人で、自らの立場を固めるためにセファイドと結婚した。目下の気掛かりは、息子が世継ぎに選ばれるかどうか。
キルケ : オドナス王国随一の歌手。通称『オドナスの黒い歌姫』。解放奴隷で、背中に焼印を押されている。国王に片想い中。趣味は年下の綺麗な男の子を泣かせること。
シャルナグ : オドナス王軍の最高責任者である将軍で、国王の友人。厳つい髯面の大男だが、中身は真面目でお人好し。妻と死別後、男やもめ状態。キルケに求婚するも、三度断られた。
フツ : ヒンディーナ国の王族の末席。ナタレと同じく人質として王都に滞在する。ナタレを気に入っていて何かと世話を焼いている。人懐っこく開けっぴろげな性格。
キーエ : リリンス付の侍女。リリンスのお転婆に苦言を呈することもあるが、基本的によき理解者。
エンバス : 国王侍従長。先の国王の代から仕えている古株で、ナタレを含め若い侍従たちの教育係でもある。
エムゼ : 王宮の女性スタッフを取り仕切る女官長。もとタルーシア付の侍女で、彼女に対しては忠実。いつもリリンスを厳しく叱り飛ばしている。
ユージュ : 王都の祭事を統括するアルハ中央神殿の女神官長。現国王に拾われた放浪の一族の長を、若くして務めている。神官は仮の姿で、国王の技術顧問が本当の仕事。失われた東方の島国、が故郷。
カイ : ユージュの副官。穏やかで少し気の弱い青年。医療が専門。
リヒト : 神官の一人。気が強く少し喧嘩っ早い。
ゼン : 最年長の神官。自分たちを『第一世代』、ユージュたちを『第二世代』と呼ぶ。
ハザン : ナタレの異母兄。父王の死後、弟に代わってロタセイの地を守っている。
サリエル : ある日突然王都に現れて、そのまま宮廷楽師になった旅の異国人。不思議な弦楽器を演奏する。年齢国籍経歴すべて謎。卓越した語学能力の持ち主。王宮内の秘密に通じているが口は堅い。ユージュたちの一族とは過去に繋がりがあるらしい。
<『水面の月を抱く国』あらすじ>
広大な砂漠を統一したオドナス王国。東西交易の富で潤うこの国の王都は、月神アルハから授かったとされる豊かな湖の畔で繁栄を極めていた。人々は月神を篤く信仰し、その心に背かぬよう教えられていた。月神は常に夜空から人間を見詰めており、彼らが堕落した時には湖を砂に沈めてしまうと伝える神話が、この国にはあるのだった。
即位以来、周辺諸国を次々と平定し、オドナスを大国に育て上げた現国王セファイドは、強さと寛大さを兼ね備えた名君と謳われていた。だが彼には異母兄を謀殺して王位に就いたという過去の秘密があった。にもかかわらず月神の神罰が下らなかったことから、彼は神の不在を確信するに至った。ゆえに彼は王都の中央神殿に放浪の民であった謎の一族を登用して、特別な知識と技術を取り入れ、王国の強さをさらに確たるものにしたのだった。
砂漠の東方で半農半牧の生活を送る部族ロタセイもまた、オドナスに平定された国だった。王太子ナタレは祖国の自治権と引き換えに人質として王都へ送られた。オドナスの華麗で先進的な文化と自らのプライドとの間で煩悶しながら、彼は鬱々とした日々を送る。だが王女リリンスとの出会いや、学友との交流、また楽師サリエルとの再会を通して、徐々に自らの世界を広げてゆくナタレ。リリンスの兄であるアノルトには蔑まれていたが、闘技会で剣を交えたことにより、劣等感を前向きに捉えられるようになっていた。
そんな折、建国祭で沸く王都に、ロタセイの武装蜂起の知らせが入ってくる。ロタセイ王の急逝に乗じて、ナタレの異母兄ハザンが反乱を起こしたのだ。一時は自害を覚悟したナタレであったが、リリンスの説得により、兄を止める決意をする。セファイドもその決断を認めて、将軍シャルナグの率いる王軍の師団とともに帰郷を許した。
東部知事府に籠城したハザンと対決したナタレは、兄を斬ることも辞さない覚悟で、ようやくその真意を聞き出した。今回のロタセイの反乱が知事の度重なる横暴に耐え兼ねての抗議行動だったと知り、ナタレは兄を含めて祖国を守ると宣言して王都へ帰還した。
ナタレは知事の背任の証拠を持って直接セファイドに告発し、自らの生命と引き換えに知事を裁くよう迫った。彼の真っ直ぐな訴えを無下にできなかったセファイドは、従兄である知事を罷免して、ロタセイに対しては自治権の剥奪と王権の停止を命じた。
王都に留め置かれることになったナタレは、安堵するとともに、今はオドナスの支配を受け入れるしかないと悟った。ここで学び共存し、その上で自国の独自性を守るしかないと。そして、そんな自分の変容を悪くないと思うようになっていた。