玖
翌日、待ち合わせ場所に行くと彼女はもうそこで待っていた。
写真で見たままだ。
目立つから、すぐにわかった。
彼女がこちらを見た。
おれは思わず目を反らす。
コツコツと足音が近づいてきて……
「しょうさん!」
彼女が嬉しそうに言う。
ん!?
なんで?
顔を上げて、彼女を間近に見る。
「やっぱり〜、写真のまんまだね。わたし、すぐにわかったよ!」
写真?
「それだけかっこいいし、頭もいいんだからモテて当たり前だよね」
しょう、でなくて兄のりょうだとつい口走りかけた。
あいつ、おれの写真を使ったんだな。そういうことか……
弟は彼女をだましていたんだ。
自信がないのはわかるが、それはしてはいけないことだろ。
弟にはかわいそうだが、その時点で優しさも思いやりもすべて消されてしまう。
嫌われて当然な運命ってこと。
だとしたら、おれがこのまま嫌われたら? その思いがふと頭をよぎった。
笑顔の彼女に言った。
「みおちゃん、他の大学にも受かったんだよね?」
「うん、そうだよ!」
「なら、よかったら、そっちにしたら?」
彼女の顔が一瞬で曇った。
「いまさら、どうしてそんなこと言うの? やっぱり嫌いになったんだ?」
「いや、そんなんじゃない。ただ、調べてみたら地元の大学のがレベルも高いみたいだし、みおちゃんの将来のためにもそっちのほうがいいんじゃないのかな?」
彼女が下を向いて呟く。
「しょうさん、なんか、変わったね。やっぱり好きなひとできたんだ」
おれは言った。
「みおちゃんには隠しごとはできないね。うん。気になる人が、いるよ」
彼女の身体がぴくっと震えた。
「おれたちにはメル友の関係が一番いいんだと思う。それに、みおちゃんみたいに可愛い彼女だといつも心配してしまうし。おれ、こう見えてかなり嫉妬深いんだ。だから、メル友のままでいない?」
彼女は無言のまま。
「ねっ? それでも二人はつながったままにかわりないんだし」
おれはあわてて付け加えた。
彼女は小声で……
「まただね。また、嘘ついてる」
どきっとした。
「あなたは、しょうさんじゃない」