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「もしもし?」


携帯に出たが声はしない。

すすり泣く声が小さく聞こえてくる。


「もしもし、みおちゃん、だよね?」


しばらく間があって彼女が涙声で、

「うん」とささやいた。


これから、なんて説明するべきか。


そう考えていたとき……



「しょうさん、元気だったんだね。よかった。ほんとに、よかった」


しょうさん?


彼女は弟と勘違いしていた。


兄弟だからたしかに声は似ている。でもきっと今の彼女の精神状態では区別つかないんだろう。


今の彼女は普通の状態ではない。今は言えないな。


おれは、このときだけ弟になりきった。


「心配かけてごめんね。大学、受かったんだね。おめでとう」


だが、彼女からの声が途絶える。


「みおちゃん? どうしたの?」


「わ、わたし、捨てられたと思ってた。いつも、困らせて、わがままばかり、言って」


涙声で聞き取りにくかったが、彼女の弟への気持ちが余計に伝わってくる。


「そ、そんなことないよ。みおちゃんを捨てたら二人は半分になるんだし。そんなことありえない」


メールの内容を思い出して慰める。いまは彼女を落ち着かせるのが大事なんだ。


「ちょっと携帯壊れてたんだ。修理に時間かかって心配させたね、ごめん」


また彼女は少し黙る。


「……そんな嘘くらいわかるんだから」


おれは弟みたいに賢くないかっ。やってしまった。


「でも、そんなこといいの。何があったかなんて関係ないし、言わなくていい。いま、話せてるんだから。つながったんだから。二人はまだつながったままなんだよね?」


それは間違いないこと。

眠ってる弟の夢の中は今も彼女でいっぱいなはず。


「そんなこと当たり前さ」


「なら、よかった」


そして、おれは言った。


「もう春休みなんだよね?」


「うん、受験も全部終わったよ。親に言われて仕方なく受けた地元の大学も受かってた」


「みおちゃん、すごいね!」


おれは覚悟を決めた。


「突然だけど、明日こっちに会いにこれないかな?」


彼女の声色が変わる。


「ほんと! ほんとに会えるの! うん、会いたい!」


「ちょっと遠くて大変だと思うけど、早く会って話したいんだ」


「そんなこと全然ないよ。今すぐにでも会いに行きたいくらいだもん!」


おれは待ち合わせ場所を知らせて、携帯を切った。


彼女の嬉しそうな最後の声が頭に響いたままだった。


だけど、会ってすべてを話そう。

おれを見たらすべてばれるはず。でも、いつまでも隠すことはできない。


弟のためにも早くすべてを話さないといけない、そう決心した。


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