漆
翌日もおれは弟の携帯を手にしていた。
ここには弟の思い出が詰まっている。
一番幸せだった時間が、この中に止まったまま残っている。
彼女からのメールを読むごとに、二人の気持ちが痛いほどに伝わる。
彼女の外見から判断して、弟は遊ばれてるだけ、利用されてるだけかと思っていた。
だけど、文章から伝わる気持ち。彼女も本気だった。
弟も苦しかっただろう、あんなにかわいい相手だから。
内心では、いつも心配してたに違いない。会って自分の姿を見せるのも不安だったはず。
だから、進路はちゃんと考えるように言ったんだろう。
できたら会わないまま、ずっと心の支えのままでいたいと。
だけど、同じくらい今の彼女も苦しんでいる。
今、この間にも次から次に彼女の叫びが送られてくる。
着信も……いつ寝てるのか、わからないくらい朝も昼も夜中も絶えずあった。
今日でもう三日目。
おれは胸を締め付けられる思いがした。
そして、決断した。
このままにしていては、2人とも心が死んでしまう。
弟の心はまだ生きてる。
おれが2人を繋げてあげるしかない。
たとえその先に悲しみが待っていようと……
彼女なら今の弟を救えるかもしれない。いや、救えるなら彼女しかいないんだ。
事実を知るのはつらいにちがいない。
だが今の苦しみもきっと同じくらい悲しく、辛いもの。
なら、素直に事実を知らせよう。
また携帯が鳴った。
画面には、綾瀬澪、と出ている。
おれはゆっくりと受話ボタンを押した。




