肆
彼からのメールがなくなったとき、わたしは飛んでいきたかった。
わたしはもう自由なんだよ。
でも、わたしはあなたの住所を知らないまま。
受かったら教えてくれるって言ってたのに……
携帯だけがつながりだった。
だから連絡してそれを聞きたかった。
メル友なんて所詮、バーチャルみたいなもの。
最初は単なる暇つぶしだった。
家の苦しい空気を忘れたい。それだけだった。
募集するとすぐにたくさんメールが来た。
でも内容は、会いたい、とか、写真を見たいとか……
こんなのやめようと思ったとき、彼のメールを読んだんだ。
他と違ってとっても長い文章だった。
自己紹介から始まって、自分も同じくらいのころ辛かったことが書かれていた。
いつもお兄ちゃんと比べてしまう自分が嫌いだったこと。
そんな自分がいやで悩んでたけど、誰にも話せなかったこと。
そんな自分でも今、こうして大学に通うことができていること。
だから、みおちゃんも今は辛くても受験さえ乗りきったらきっといいこともあるから。
神様はちゃんと平等なんだよって励ましてくれた。
バイトで塾講師してるから、できる限り受験のアドバイスもしてあげたいし、
力になりたいとも言ってくれた。
手書きでないのに、そのメールの文章がまるで手紙のようにわたしの心に伝わったんだ。
そのメールに救いの手が見えたんだよ。
そして、はじめての電話。
ドキドキした。いたずらだったらどうしようとか、怖い人だったらどうしようって不安もあった。
最初の電話は英語のわからないことを聞きいて、それを教えてもらったんだったよね?
でも全然、頭に入らなかった。
緊張や不安もすぐに消えた。あなたの優しい声、暖かい口調、すべてに包まれていく感じだった。
それからは、たくさん電話もしたね。
いつも何時間も話しても飽きなかった。
あの声が好きだったから。
わたしを笑顔にしてくれた。心から笑えた。
わたしこんなに笑えるんだな。
気づかなかったよ。
心が喜びで満たされてく。
同じ波長ってこういうものなの?
二人はほんとに他人? そう思い始めたとき、
「神様がほんとにいるなら、神様がこんなに離れたあなたに会わせてくれたのかな。わたし、一人じゃないって教えてくれたんだよね?」って聞いたら、
「当たり前だよ、ぼくたち二人は分身なんだからね」って笑顔で答えてくれた。
わたしは決めた。
この人に会いたい。
あなたはわたしの分身。
二人が出会って初めてひとつになれるんだって。