弐拾
わたしは翌日、手紙を出して卒業式に向かった。
懐かしい風景、懐かしい街をゆっくりと見ながら歩いていく。
もうこれで見納めなんだ。
大学の正門に着いた。
スーツに着物、袴姿の人たちでいっぱいだった。
人混みをかき分けて前を進む。
と、そこにぽっかりひとの輪ができていた。
誰か立っている。
こちらを向く。
りょうさんだった。
「りょうさん!」
わたしは小走りに近づいていく。
近づくにつれて、りょうさんの手元に何か見えた。
あれは……
車椅子?
わたしはあわてて覗きこんだ。
そこには眠ったままの、しょうさんがいた。
「こいつ運ぶのなかなか大変だったわ〜」
お兄さんが笑いながら言う。
「でも、きっとみおちゃんの卒業する姿を見たいだろうって思ってさ。寝たままだけど、きっと心には伝わってるはず、だよね? みおちゃんなら、きっとわかるよね?」
わたしはしっかりと頷いた。
そして膝を曲げて、寝ているあなたの顔を見た。
外の光のなかで、はじめて見たしょうさんの顔。
色白の顔に光が射し込み、キラキラとまぶしかった。
目尻が垂れ、薄めの口元が緩んでいる。
穏やかな寝顔。
きっと夢のなかで、一緒にわたしの卒業を祝ってくれてるんだね。
涙が出そうだったけど、ぐっと耐えた。
卒業式は今からなんだ。
わたしは二人に見送られ会場に向かっていく。
そのとき、
(澪ちゃん)
たしかに聞こえた。
あのころ何度も電話で聞いた優しく暖かい声。
わたしは振り返った。
そこに見えたんだ。
車椅子から降りて、ちゃんと立って……
わたしに笑顔で手を振っているあなたの姿が。
誕生日のときに指切りしたあの約束を覚えててくれたんだ。
はじめて一緒に同じキャンパスに立てたんだよ。
笙さん、夢は信じてたら叶うんだね。
(またきっと会えるよ)
わたしは、小さく頷いて会場に歩きだした。
二話にわけたために、読みにくいとの意見をいただきまして・・・ひとつにまとめておきました。読んでいただきありがとうございました。




