弐
それは突然だった。
実家から連絡があってすぐに帰ってこい、と。
おれはバイト先の店長に謝って、実家に戻った。
「ただいまっ」
声をかけるが返事がない。
居間に両親が並んで座っている。
「バイト中にいきなり、どうしたん?」
両親は答えず、うつむいたまま。
理由はすぐにわかった。
目の前にある布団。その中に見える人の姿。
弟だった。
おれは両親の隣に座る。
眠ってるようにしか見えない。
「……どうして」
両親は無言のまま。
信じられなかった。
「どうして死んだん!」
父親は小さく首をふった。
「いや、死んではないんだ。ただ起きないんだよ。何をしても」
そんなバカなことが……
弟の身体を揺するが、反応はない。
「無駄だ」父親が続けて話す。
「ずっと寝たままで、2日めにさすがにおかしいと思って医師にみてもらった。体にはまったく異常はないらしい。医師は最後に付け加えて、もしかしたらクラインレビン症候群かもしれない、そう話してた」
「なに、そのなんとか症候群って?」
「睡眠障害のひとつみたいで、寝てしまったらいつ起きるかわからない病気、原因もわからないらしい。
医師は、何らかの悩みやストレスがあったのかもと言っていたが、いまは本人にしかわからないな」
母親が弱々しく呟く。
「きっと何かあって現実から今は逃避したいだけ、楽しい夢の中にいたいのよ。死んでないんだもの。ただ起きるのをみんなで待っててあげましょう、冬眠してると思って……」