拾陸
涙声になりながらも、彼女は話を続けていく。
「わたしだって外見は気になる。人の目が気になって仕方なくて、いつもメイクして自分をごまかしてたの。でも、それじゃだめって気づいた。メイクは中身を隠すもんじゃないって。しょうさんも外見とかあまり気にしないで。お兄さんと比較されて辛かったかもしれない。だけど、お兄さんとしょうさんは違うんだから」
一瞬、彼女はおれのほうを見て、
「しょうさんは世界にひとりだけなんだよ。わたしはあなたの暖かい優しい中身を知ってる。だから、
きっとあなたにしかない、あなたの生きてる意味を見つけることができるはず。もう5月なんだよ。そろそろ冬眠からさめないと」
そして、彼女が弟の手に携帯を渡した。
弟が携帯を開く。
そして呟いた。
「5月。20日」
それはさっき彼女が耳元でささやいた数字。
弟の口がゆっくりと動く。
「19才の、誕生日、おめでとう、みおちゃん」
涙を流していた彼女の顔が、みるみる笑顔になっていった。
涙は止まらないままだったが、今、流しているその涙は嬉し涙のように見えた。
「やっぱりしょうさんの心は、身体はちゃんと覚えてて起きてくれたんだね。わたしの誕生日を必ず祝ってあげる。19年間で一番思い出になる日にしてあげる。そう約束してたもんね。わたし信じてたんだ。
ほんと、よかったぁ」
そうか、今日は彼女の誕生日だったのか。その約束を夢を見ながらも弟は覚えていたんだ。
「でも、写真と違って少しがっかりしたでしょ?」
彼女が笑いながら言うと、弟は首をふった。
「メールや電話で感じていたイメージそのまま、だよ。みおちゃん、らしいね。だから、ぼくにはすぐわかった」
今、弟はしっかりと彼女の顔を見ている。
彼女もまた弟の目を見て笑顔で応えていた。
まるで彼女が母親で、弟が息子であるような優しい2人のやり取りを、おれは横でじっと見つめていた。
「しょうさん、早く冬眠からさめて、一緒にキャンパスを歩こうね」
彼女が、小指を差し出した。
弟もゆっくりと手を伸ばして、彼女の指に小指を絡ませた。
そして、弟の手がゆっくりと下に落ちていく。
弟はまた眠りについた。




