拾肆
ふたり並んで弟の前に座る。
彼女は前のときと同じように弟を見つめていた。
そして、弟の耳元に顔を近づけて何か数字をささやいた。
「ね、今なんて言ったの?」
「それは言えませんねー。あえて言うなら、おまじない、かな?」
すぐに、弟の身体が小さく揺れた。その揺れが次第に大きくなり布団から手が伸びてきた。
「も、もしかして目を覚ました?」
どうやら携帯を探しているようだった。
彼女は置いてあった携帯を取ってそっと隠す。
「お兄ちゃん、携帯は?」
寝ぼけ声で弟が言う。
彼女の言った通り弟が本当に起きた。
それから、弟は彼女に目をやった。
素っぴんでもすぐにわかった様子で、弟は布団をかぶってあわてて顔を隠した。
その態度を見て、彼女が厳しい口調で言った。
「もう逃げないで! 隠れたりしないで! わたし、嘘は一番きらい!」
弟の動きが止まる。
「その嘘をあなたはついた。それは消せない事実。わたしの記憶からは消えない。でもね、あの一年間、メールしたり電話してた時間はわたしにとって意味あるものだった。あれは嘘じゃなかった」
弟はじっとしたまま、布団の中で聞いていた。
「それに嘘をつかせたのは、わたしにも責任あったのかもしれない。わたしが写真なんか送ったから。そしてあなたの写真も見たいって言ったから。でも、それは顔が見たかったわけじゃない。あなたの存在を目で確かめたかっただけ。わたしもあなたと同じくらい不安だったんだよ」
布団が小刻みに震えるように動いていた。