拾弐
彼女に向かって、おれはいきなり土下座した。
「嘘はたしかにいけない。でもこいつのメールはぜんぶ本心、そんなやつだったんだ。だから、こいつのためにももう一度、大学ちゃんと考えてあげて欲しいんだ。もちろん、みおちゃん自身のためにも。弟もそれを願ってるはず。だから、お願いします」
彼女はそれには答えず、しょうの頭に手を伸ばして髪をそっと撫でる。
「やっとあなたに出会えたんだね」
ひとり言のようにつぶやいた後、おれに頭を下げて家を出ていった。
それ以来、彼女からの連絡は一切なくなった。
数日後、弟はまた目を覚ました。
「ぼく、今度はどれくらい寝てた? 今日って何日かな?」
すぐにわかった。彼女のことが気になったんだろう。
おれは弟にあったことをすべて話した。
さっきまで不安そうだった弟の顔が少しだけ微笑んだように見えた。
「そっか、さっきまで今まで頭にあったことの、夢と現実とがうまくわからなかったんだ。みんな長い夢の出来事みたいな錯覚をしてたけど、彼女との時間はちゃんと現実だったんだね」
そして、何度もうなずきながら、
「なら、よかったんだよ。これでよかったんだ。ぜんぶすっきりしたんだから。彼女の人生をまた戻してくれて、お兄ちゃんありがとうね。ぼく、安心したよ」
そう言い残して弟はまた眠りについた。
弟は笑っているように見えた。
だけど、その目からはうっすら涙が光っていた。
本章はいったんこれで終わります。続く終章まで少しお待ちいただけたら、と思います。