二章
人とは新しい環境に放り出されると周りを挙動不審に見てまわる。しかし、次第に自分との接点、類似点を見つけることによりその環境に溶け込み、自分の新たな空間をそこに見出すのだ。
入学式が終わり教室に戻ってくると式中にでも仲良くなったのだろうか、周りでクラスメート同士で楽しそうに話していているのが目に入る。少なくとも1年はこのクラスでやって行くのだ。初日から友達を作っていくのはいい事だ。まあ、こんな行為も長くとも2週間は続かないだろう。こんなものは時間が経つに連れて似たもの同士が集まりいくつかのグループが出来るのだ。俺は平和に過ごせるならどのグループだって誰とだっていいさ。それに、救いとして中学からの知り合いもいるしな。
「タカ、タカってば」
ふと、小杉に呼ばれているのに気づく。すまないな小杉よ。ついさっき俺の救いなんて言ってたくせにそれを無視してしまってたぜ。危うく天使からのご加護を受け取らず一人で質素な生活に励んでしまいそうになってたぜ。
「タカ、何ボーッとしてるの」
「すまんすまん。式典での校長の話が長すぎてマインドコントロールされてた。あれはもうどこぞやの教祖様だね。」
我ながらでたらめなことがすぐに思いつくもんだ。
「確かにあれは長かったね。僕も寝そうになっちゃったよ。」
俺のふざけた話に付き合ってくれるか。お前は俺の教祖様だ。朝はてきとうにあしらってすまなかったな。これからはお前の扱いを改めることにしよう。
俺と小杉が雑談をしながら過ごしていると、教室のドアを開けて萌え系新米教師が戻ってきた。
ドアに黒板消しをセットしといたら見事にヒットしそうな感じだな。今度誰かをけしかけてやらせてみようか。怒られても俺は関係を全否定して逃げさせてもらおう。
そんなことを考えているとすでに教師の話は始まっていた。どうも自己紹介を始めるようだ。自己紹介は凄く大事だぞ。これで俺の印象が決まってしまう。いっそのことテレビのアニメなどに出てくる都会のラッパーのようにでも自己紹介してやろうか。
「じゃ、次は佐倉隆君」
色々と考えていると早くも俺の番が回ってきてしまった。覚悟を決めるか。俺のフロンティアを開拓してやる。
「えっと、佐倉隆です。東中から来ました。よろしくお願いします。」
現実はいつも酷いものだ。高校に入っていきなりキャラを変更なんてできるわけがない。普通が1番なんだ。俺は自分にそう言い聞かせてやるさ。
俺の自己紹介が終わると後ろの席の女子が椅子を引いて立ち上がった。
「橘あかねです。西中から来ました。以上です。」
女の子の透き通った声がクラスを包む。なんの変哲もない自己紹介のはずなのに妙な空気を残しクラスの雰囲気を一変させた。
俺も気になってしまい後ろを振り向き顔を確認した。ほお、こらまたこのクラスでは飛び抜けて可愛い容姿をした子じゃないか。しかし、なんとなく不機嫌そうなのは俺の気のせいなのか。
自己紹介もひと通り終わり今日のホームルームは終わりとなった途端、周りは動き出しさっそうと帰る者、クラスメートと話をする者など様々であったが俺は後ろの席の奴が気になった。
周りの奴らもそうだったのだろう。何人かの集団が俺の後ろの席へと集まってきた。
俺も少し気になるしこいつらの話でも聞いてみるか。
集まった集団は再び自己紹介をしその少女に色々と質問しているみたいだ。
「人気者はすごいね」
どこからともなく小杉が俺の席へと来てそう放った。
まあ、どこにでもいるだろ。ひときわ目立って周囲の目を引く奴も。それがこいつなんだろうよ。
「でも、綺麗な顔立ちをしてるよね。こりゃこのクラスの中心になること間違いなしだね。」
そうだろうよ。しかしな小杉よ、人の興味なんてそんなに続かないもんなんだよ。こいつらだって1ヶ月もすれば落ち着くだろうよ。
しかしそれはあまりにも早くやってきた。
「ウザイ」
俺の聞き間違いか。入学初日からクラスメートに対して暴言を吐く奴なんているだろうか、いや居るはずがない。じゃ、今聞こえたのは何だ。俺の野次馬に対する気持ちか。
だがそれは幻聴でも、俺の心の声でもなかった。そう野次馬共の中心にいる、奴の声だった。
「いちいちどうでもいい事ばかり聞いてこないで。どんだけ暇なのよ。」
もうこれはあれだ。どっかのお城で育ち、外界を知らないプリンセスだ。
悪魔の囁きのような暴言がクラスを漂う中、彼女は席を立ちさっそうと帰って行った。
この物語のメインヒロインの登場でした。