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橘響夜 8月31日 午前10時10分 渡良瀬市 私立律明学園

大分、間が空いてしまいましたが大丈夫です。生きていますから。

漸く新章というわけでちょっとストーリーやプロットなどを考えていたんです。


 2xxx年 八月三一日。

 

 世界中で人を喰い殺す暴徒が初めて確認されてから、二ヶ月近くが経過していた。

 今や、世界六十五億人の人口は三分の一の二十二億人にまで減少していた。三分の二は力尽きたか、奴らの仲間になったのだろう。

 感染が激しい地域では、住民が既に逃亡し、奴らの住処となっている。大都市圏などでも同様、感染が爆発的に起こったので、軍警察も対応仕切れずに、敗走を喫した。民間人の避難誘導を断念し、政府の要人のみを安全地域まで護送。中には、上層部の指揮下から抜けて、分隊規模で各地で略奪行為を行う部隊まで出た。

 それでも何とか、統制を維持している軍警察及び政府機関は臨時政府を設け、対応していた。

 しかし今、各国は暴徒相手に対する戦闘を断念し始めていた。

 それよりも、弱体化と混乱を喫している他国を攻撃することに政略の重点を置いた。

 もちろん、表立っての侵略行為は認められないため、皆が共通の理由を並べるのだ。『暴徒の侵略に遭っている他国を救う』のワンフレーズを。


 そして八月三一日。

 この日、遂に初の核攻撃が行われた。

 これは新世界の幕開けか、それとも旧世界の終焉か。




「今日はパーティでもやろうか」


 俺は唐突に呟いていた。


 俺は今日、朝から学園の大会議室に十人ほどのメンバーを集めて、今後の方針について話し合っていた。議題はもちろん今後どうするかだ。


 食糧は十分にある。あと、数ヶ月は余裕で持つだろう。水も雨水など加熱し、殺菌することで半永久的に手に入れることが出来る。ただし、雨が降らない日が続くということが弱点だ。


 それよりも差し迫った問題は、学園で生活している生徒や子供の精神面メンタルだ。


 何時までも奴らに囲まれた学園で過ごす事は、かなりの精神的重圧を与えるものだと俺は思う。外に出ることは出来ず、限られた空間でしか行動できない。そして何よりも教師が初日で大勢死亡しているため、充実した授業が行えないことはナンセンスだ。


 今のところ、生き残った教師や大人が生徒たちに簡単な授業を行っているが、やはりそれも不足している。時間的な意味でも、人材的な意味でも、内容的にも。


 そして生徒たちの間では、救助が来ないことに対して、疑念を抱き始めているものもいる。中には、外に出て安全地帯まで逃げようという、過激な発想を漏らしている高校生もいた。


 そんな窮屈な環境な中で、俺が思いついたのはその案だった。


「いやいや。唐突にパーティってなんなんですか?」


 寛人が、俺の顔を困惑した面持ちで見つめて尋ねた。


 会議室に集まっている阿久津さんや松下洋一、準一や鈴など他のメンバーも同じような表情をしている。


「ほら。今日ってアレな日だろ?」


「「アレ?」」


「アレといったらアレだ。八月三十一日と云えば、世間一般では夏休み最終日じゃないか」


「そういやぁ、そうだな」


 洋一が口笛を鳴らし、独り言のように呟く。


「で、どうして夏休み最終日だとパーティなんです……か?」


 阿久津さんがかなり真剣な顔で尋ねてきた。これは真剣に答えねば。


「お前等、よく去年や一昨年を思い出してみろ。今日という日にロクな思い出があったか?分かりやすい例を出せばな、『やべー夏休みの宿題終ってねー』とか、『うわー夏休み今日で終わりとか悲しいー』とか、『宿題終ってねえのに恋人役?』とか、『なんかいきなりアステカの魔術師が襲ってきたー』とか色々な不幸イベントが起こる日だろうが」


「最初の二つはともかく、最後の二つはおかしいですって!!」


 寛人が勢いよくツッコミを入れてくる。


「まあ、あれだ。とにかく皆を元気にするのには一番、手っ取り早い方法だろ?」


「否定は出来ませんね」


「肯定もしないのな」


 俺は素早く切り返し、立ち上がった。


「というわけで実行だ。料理が出来る奴は今から下ごしらえ始めとけー。他の奴らは体育館のセッティング。あのわっか作んの忘れるなよ」


「わっか……、ってあれ?」


「あれだよ。パーティで天井とかに吊るすわっかだ」


「ああ、分かりました」


 寛人が素直に頷いて、隣の阿久津さんに、学校の備品の中に折り紙が無いかを確認している。他にも料理の打ち合わせを浅代とするとかで、佐倉鈴や阿久津さんを除く女性陣が出て行った。あ、和泉は厨房に立ち入り禁止を伝えないとな。


「てか、皆随分と素直だな。ふざけんなって言われると思ったんだが……」


 俺は残ったメンバー、準一と寛人と阿久津さんに向かって呟いた。


 阿久津さんは小さい声で笑いながら、


「きっと皆さんもお疲れなんだと思います。ハメ外したい時だってあるんですよ」


「僕はパーティ、いい考えだと思いますよ」


 二人はどうやら俺の計画を一応、推してくれているらしい。


 俺自身も、このパーティで皆が元気を取り戻してくれればいいと思う。救助は必ず来るし、無事に生き残る事をただ信じているだけで、心持ちは大分変わってくるものだ。


 俺が楽観的な思考に耽っている中、


「おい、響夜さーん。ちょっといいか?」


「あん?」


 見れば、先ほど出て行った松下洋一が居た。なにやら、周りの幼女が居る。まさか……、いや、まさかとは思うがな。


「おいおい。俺を性犯罪者のような目で見るのは、やめろよな。それより重要な話があるんだよ」


「重要な話?」


 俺は思わず聞き返してしまった。洋一は彼の周りにいる幼女を促す。


「どうした?そこの怖いお兄ちゃんが悪戯(性的な意味で)してくるのか?」


「テメェ、ぶっ殺すぞ」


「すまない。で、なんだ?」


「どうやら、寝てる時に――」


「ムラムラしてくると?」


 やっぱぶち殺す、と鉄パイプを握り締めた洋一を、俺は刹那のスピードで宥めた。


「それで、続きを頼む」


「寝てる時に隣の部屋から妙な物音がしてくるらしい。呻き声というか、人が歩くみたいな。で、俺は校内にもしかしたら……本当にもしかしたらだが、奴らが侵入してる可能性があるんじゃないかと思ったんだよ」


「呻き声に足音、か。嫌な予感がビンビンだな。で、そこの幼女が寝ているのは何処だ?」


「西棟の一階。初等部、一年四組の教室だ。隣の部屋が問題なんだけどな」


「一年四組……隣は、循環室か」


 循環室とは、この学校にとって欠くことのできないシステムだ。下水や校内の水道管、空調や換気システムなど、校内における循環システムが集まっている。強いて云うならば、校内で一番重要な部屋だけあって、侵入ももちろん容易ではない。特に元々、隣が初等部の教室だということもあり、セキュリティは万全なはずだ。


「確かに、まさかの話だな。あそこに忍び込めるような奴らが居るんだとしたら、俺は素直に賞賛してやる」


「じゃあ、放置って方向か?」


 そこは重要な問題だった。確かに可能性は少ないとして、放置しておくのも気が引ける。


「おっし。折角のパーティやるわけなんだし、不安要素は取り除かないとな……準一!」


「どうした響夜」


「一時間で終わらせよう。探査隊を至急、呼んで来い」


 準一は黙って頷き、部屋から出て行った。


 俺はさっさと終わらせてパーティの会場準備でもしないとな、ぐらいの認識でベルトからナイフを抜き、磨いた。



 急遽、集められた探査隊のメンバーは十五人。ほとんどが中高生で、大人は俺と松山位のものだ。

 

 実はと言うと、探査隊自体は前々から編成していた。そして、初仕事がこれ、と言うわけだ。探査隊の中には、寛人の友人である堺怜汰やいつぞやの不良に苛められていた眼鏡の少年――高崎たかさき邦彦くにひこも居る。


 しかし、彼はあの時の彼ではない。


 高崎はあれから銃の手ほどきを受け、今では拳銃を扱えるようになっている。もう、昔の弱々しさはどこにもなかった。


 そして今回、特別に阿久津さんが同行する。理由はこの学園の生徒会長であり、構造については詳しいからだ。


 俺は循環室の前に集まった全員を見渡し、告げた。


「よし。お前等、今日は初仕事だ。これからこの循環室内をチェックする。じゃ、阿久津さん、説明を」


 俺の言葉を受けて、阿久津さんが一歩前へ出た。


「皆さん、循環室の中はその……、暗いので気をつけてください」


「以上だ」


「「え?」」


 みんなが同時に呟くが、俺は軽く無視する。


「中ではお互いの間隔を二メートル以上空けるな。それと、単独行動は慎むように。では突撃」


 阿久津さんが俺の言葉が終わったのを見て、循環室のドアを開けようとする――が、俺はそれより先にドアを蹴り開けた。


「ええっ!?」


 驚きの声を上げるが、ドアの向こう側に何がいるか分からない以上、のんびりとドアを開けることが出来ない。本当なら蹴破るところだが、そこは手加減だ。


 内部はやはり暗く、状況はちっとも掴めない。


「俺に続け。警戒は怠るな。重火器を持っている奴は前面へ、小火器は少し下がっていろ。行くぞ、松山」


「了解です」


 俺と松山がまず、突入する。ライトを点け、まずは天井、側面などをくまなく観察する。


「異常なし……、入れ」


 続いて、ベネリM1を構えた怜汰が突入した。


 ベネリM1はどちらかというとマイナーな散弾銃だ。ベネリM3の後継種に劣る点も多々あり、最近では市場から姿を消しつつある。しかし未だに日本に対する輸入は行っているので、お目にかかれないわけではない。


 その後に続いて、次々と探査隊のメンバーが入ってくる。各々、散開して警戒に当たった。


 小さなライトで照らされているだけの範囲を見る限り、横幅はそれほど広くはない。左右に教室があるので、横幅には限りがある。なので奥行きを深くすることでスペースを増やしているようだ。窓がないため、昼間だというのに真っ暗で、湿っている。不気味なのは、あちこちに走っている配管やパイプ、巨大な装置だ。低い音を立てるボイラーは、その音を聞いているだけだ精神を削られていくような感覚を覚える。


 隣の松山が呟いた。


「もしかして声の正体って、この音じゃないんですか?」


 しかしそれは違うと、俺は断言できる。


「ボイラーは夜には止めてある。つまり声の正体は、ボイラーが停止してから行動すると考えた方がいいだろう。つまり夜行性ってわけだ」


 二十メートルほどで、俺は反対側までたどり着いた。奥には、一際大きな機械が存在していた。どうやら音源はこれのようだ。俺は近づき、ライトで辺りを照らして観察を始める。松山は別の機械の隙間などを調べている。


「これだけデカイと電力凄い食うんだろうな……」


 くだらない呟きを漏らした俺はふと気づいた。


 俺のすぐそばのパイプに液体が付着している。ライトで照らしたぐらいでは色は分からないが、水ではない気がする。


(この違和感は何だ?)


 俺はパイプに近づき、液体を観察した。どうやらそれは、付いているといったより、こびり付いているの方が表現として正しい気がする。


 俺はその液体の落ちる先を見た。パイプの切れ目から垂れている様子を見ると、大分粘性があるようだ。昔に見たエイリアンの映画に出てきたエイリアンの卵の液体を想像してしまう。


 俺は上を見上げる。


 液体は天井のパイプが絡まりあった空間から垂れているようだった。


 俺は急に悪寒を感じ、振り返ろうとした――――瞬間、


「あぁぁあああぁあぁあああああああッ!!!!!」


 大絶叫が暗い閉鎖空間に響き渡った。


 俺は咄嗟に89式小銃を構えなおし、


「どうした!?報告しろ!」


 叫ぶが、既に隊列は乱れ始めていた。唯一、異変を感じれるのは地面に投げられたライトのみだ。


「全員後退しろ!背後を見せるな!」


 俺は叫び、松山に合図を送り、悲鳴があった場所へと向かう。


 そこには茫然自失といった感じで腰を抜かしている一人の中学生が居た。拳銃を床に落とし、ガタガタと震えている。


「何があった?」


 少年はゆっくりと指し示した。その先には蓋が開けられたマンホールのような穴が口を開けていた。


「アイツが……高崎がやられたんだよ!!」


「落ち着け。何があったんだ?」


「わっかんねえよ!アイツがマンホールを覗き込んだら、突然引きずり込まれたんだよよくわかんねえけどやられたんだよ!!」


 錯乱している。話を詳しくは聞けなさそうだ。


 俺はいつの間にか集まってきていた全員を見渡した。


「聞いたとおりだ。高崎が連れ去られた。かといって、見捨てるわけにもいかない」


「どうするんですか?」


 松山が俺に尋ねた。


「決まってる。俺が連れ戻してくるんだよ。もし、四十分経って戻ってこなかったなら、俺は死んだと思って、ここから脱出してくれ」


 そう言い、俺はマンホールを覗き込んだ。


「阿久津さん、ここは何か分かるか?」


「恐らく下水かと。水は分かりません」


 そうか、と俺は頷く。


 それを合図にして、漆黒の空間へと飛び込んだ。

 

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