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逢海寛人 8月22日 午後13時33分 渡良瀬市 私立律明学園

大変お待たせいたしました。

約一ヶ月ぶりの更新で御座います。今後はもうすこしペースアップをしていく予定ですので、応援宜しくお願いいたします。


 僕は未だに目の前の状況が理解出来ていない。


 隣には僕と同じように苦笑いを浮かべた響夜さんがいるが、この状況であまり頼りになるとは思えない。それよりも気がかりなのは目の前で仁王立ちをしている女性陣の方々だ。


 理由を説明しよう。


 僕は数分前まで、廊下を当ても無くぶらぶらと散歩していた。雅人は警備室の機械いじりに夢中だし、鈴や洋一たちもそれぞれの仕事で忙しい。僕は物資調達などに行ったので、あまり校内での仕事はなく、正直に言って平常時はとても暇だった。


 この間、西園寺家の屋敷から食糧(+僕の主人?)を回収し、食料問題は解決されていた。校内の治安も、響夜さん達のお陰で不良が沈静化したので大分向上した。今の所、問題もなく平和な生活を遅れている。


 でもきっと、その油断が今回の事態を招いたのだろう。


 事の発端は僕が散歩の途中で、家庭科室の前を通った事だった。


 家庭科室の前はなにやらいい匂いが漂っていたのだった。この匂いは誰かが料理を作っているのだろうと思って、僕は想像を張り巡らしてしまった。


「うん。きっと、誰か可愛い女の子が手料理でもしてるんだろうな。いいね、ご馳走になろうかな?」


 僕は愚かにもホイホイと足を踏み入れてしまった。そして――





「現在の状況があるんだ」


「誰に説明してんのよっ!!」


 僕は頭を鈴に木刀で小突かれた。つーか、何で料理に木刀持ち込んでるんだよ!?


 僕は心の中で目の前で木刀を握っている鈴にツッコんで、響夜さんを見た。


「寛人、この方々は一体、俺たちに何をさせたいんだ?」


「僕だって知りませんよ。直接、聞いてみたらどうですか?」


 僕は再び目の前の女性陣を見つめた。


 現在、この家庭科室に居るのは鈴と優香子、浅代さん、前に僕と響夜さんが助けた道祖本絢音。それに西園寺雫、阿久津さん。そして絶対にここに居てはいけない、我等が秘密兵器「島原和泉」。


 そして僕と響夜さんはテーブルの前にこさえられたパイプ椅子に座らせられていた。


「で、俺は何をすればいいんだ?」


「僕も気になります。なんで拘束されてるんですか?」


 僕らの質問に鈴が、


「くっふっふっふふ!!よくぞ聞いてくれたわね!これから始めるのは手料理のコンテストよっ!」


 嫌な予感しかしないが敢えて突っ込まない。


「今回、コンテストに参加する選手はここに居る女性全員。そしてアンタ達は審査員よ!」


 勝手に話が進んでいくが、どうやら突っ込んではいけない空気らしい。とりあえず僕は呟いた。


「どうしてこうなった……」


 しかし呟いたところで状況は変わらない。


 響夜さんはもう諦めているようだ。僕も諦めるとするか。


「ではでは、まずはトップバッター、阿久津風禰ぇぇ!!」


 どうしてそんなにテンションが高いんだろう。鈴、何か嬉しい事でもあったのかな?


 とりあえず、阿久津さんが頬を紅潮させながらも、僕らの方にやって来た。手には二人分の料理がある。あれを食べて、批評すればいいのか。


「え、えーと。恥ずかしいんですけど、とりあえず煮込みハンバーグです……」


 煮込みハンバーグか……、結構、美味しそうだぞ。


 僕は目の前に置かれた湯気を立てている料理を見つめた。見た目はいい。問題は味だが……。


「「頂きます」」


 僕と響夜さんは同時にナイフとフォークを取り、ハンバーグを切り分けた。その欠片を口に含む。その味は……、


「普通に美味しいですね」


「美味しくて突っ込むところもないな。凄いじゃないか」


 響夜さんもパクパクと口に運んでいく。僕からしても、十分に合格点をあげられるくらい美味しかった。


 鈴は僕らが煮込みハンバーグを大体、食べ終わったのを見て、明るい声で叫んだ。


「では、審査員に判定をして頂きましょう!一斉にどうぞ!!」


「十点満点で記入するんだよ~」


 絢音もテンションが高い。ま、小さい子だしね。


 僕は手元の紙に十点満点で点数を記入する。


 僕は八点。響夜さんも八点だ。阿久津さんは少しだけ顔を輝かせて、嬉しそうに拳を握り締めた。


「おっと、中々の高得点だっ!さて、お次は天下無敵のお嬢様ぁ!西園寺雫だっ!」


 僕は全身に鳥肌が立つのを感じた。ああ、これが蛇に睨まれた蛙の心情か。目の前の雫は僕を明らかに見下している。


「品目は豚キムチよ。とくと味わいなさい」


 そう言って、僕と響夜さんの前に平皿が置かれる。中にはよく定食などで見かける豚キムチが盛られている。見た目はまあまあ、ってとこだ。


 繰り返すが問題は味だ。


「頂きます」


 僕は静かに呟き、箸で肉を摘んだ。そして口に運ぶ。肉の感触が伝わったと同時に、例えようの無い激痛が口を走った。


「ぼぐぉあっ!!がっ……はっ!!何だよこれ!辛すぎだろ!!」


「……」


 響夜さんは無言で口に運んでいる。辛い料理は好物なのかも知れない。


 それよりも問題なのは雫だ。今の僕の反応を見た彼女は、冷たい笑みを浮かべている。目に光は灯っていないのが、また怖い。


「――へえ、そうか。寛人は私の料理は食えないって言うんだね。そうかそうか」


 そう呪詛のように呟いて、腰につけていたある物を手に持つ。


 ちなみに今、学園内では武器の所持が認められている、有能な人間は銃器を持っていて、その他の人間も刃物や鈍器を持ち歩いているのだ。


 雫が持っているのは鉈。父親の愛人を殺すのに最適なアレだよ。


 僕は当然、謝るしかない。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 うん、どこかで見たことがあるね。


 雫は冷たい目を僕に向けたまま、静かに料理を下げた。


 やべぇ、怒鳴られるより怖ぇよ。


 響夜さんは手元のナプキンで口を拭き、コップに注いである冷水を一気に飲み干している。


「あの、さっきの豚キムチ、よく食べれましたね。もしかして辛い食べ物が好きとか?」


「……さっきのは辛すぎる。口が痛いんだ」


 僕の予想は外れていたらしい。別に響夜さんは辛い物が好きな訳ではないようだ。


「でも、平気で食べてましたよね」


「……特殊部隊では対拷問用の訓練もやるんだよ☆」


 なんかキリッと返された。


 僕は突っ込もうとしたが、それを遮るように鈴の声が響いた。


「さあて、色々とトラブルはあったものの、コンテストは終っていない!さあ、判定をお二方にして頂きましょう!」


 僕は躊躇せず、一点と紙に書いて放り投げた。響夜さんは何を思ったのか、三点だ。


「合計点数は四点。意外と低い結果みたいね、どう思う雫さん?」


 後ろで控えていた雫は実に朗らかな笑顔で、


「後で覚悟しておいてね、寛人」


 受けて立ってやるさ。僕は奴隷じゃないんだからな。


「では、お次の選手。ご当地アイドル、長谷川瑞穂ぉ!」


 鈴の合図で料理を持った瑞穂さんがやってくる。うん、やっぱアイドルは違うな。可愛すぎるだろ。


「品目はビーフシチューだけど、勘違いしないでねっ!別にアンタたちに食べさせるために作ったんじゃないんだからねっ!」


 何、そのツンデレ? もしかして素? 可愛いからいいけどね。


 僕と響夜さんは同時にスプーンを取り、目の前に置かれたビーフシチューを口に運んだ。


 口の中にまろやかなコクと風味が広がり、あっというまに僕の脳内は幸福に満たされる。


「美味しい!さては、隠し味にすりおろした玉葱を入れてますね。そして多分、この風味は醤油。まさに洋と和の織り成す傑作です」


「うん。これはかなり下ごしらえがしてあるな。もしかしてこの日のために昨日から寝かしておいたんじゃないのか?」


 僕と響夜さんはそれぞれの批評を口に出す。


 それほど瑞穂さんのビーフシチューは美味しかった。


(注意、この物語はあくまでもゾンビの蔓延する世界で生き残ろうとする人々の物語です。決して、料理小説ではないのであしからず。)


 一通り、食べ終わった僕らを見て、鈴は再びマイクで叫ぶ。


「さあ、様々な好評が飛び交った!果たして判定は?」


 僕は何のためらいもなく、九点を出した。響夜さんも同じだ。


「おおっと!?最高得点が出ました!しかし何故か、満点には至らなかったようです」


「もう少しとろみが欲しかった。でも、十分美味しかったぞ」


「僕も同感です」


「ありがとうございました!それでは次の選手です、浅代華恋っ!」


 その叫びと同時に浅代さんがお盆を持ってこちらにやって来た。なにやら品目が多いようだ。


「和食のフルコースです。有り合わせなので味は保障出来ませんが、どうぞ召し上がってくださいね」


 そう告げ、料理がテーブルに置かれる。


「「うぉおおおおおお!!」」


 思わず同時に感嘆の叫びをあげてしまった。


 盆には茶碗蒸やお吸い物、和菓子など様々な和食の楽園が広がっていた。


 これで有り合わせとか凄すぎます、浅代さん!


 とにかく僕は箸を手に取り、鯛の煮付けを口に入れた。


「お、美味しすぎるだろぉぉおおおお!!」


「……これはプロ級の腕前だな。褒める言葉も見つからない」


 響夜さんも素直に賞賛している。


 それほど浅代さんの料理の腕は凄かった。これは優勝確定だな。


「さあ、得点をどうぞ!」


 僕は迷わず十点を記入する。響夜さんも同じく十点だ。


 なんやかんやでこのメンバーでいるのは楽しいのかもしれない。確かにこの先、世界がどうなるのかは分からない。でも、僕は確かにこの瞬間を楽しいと思えている。


 今はこの危なくて、不安定で――だけども楽しい生活を守っていきたい。


 そしてここに居る皆の笑顔を守っていきたい。


「おーい、寛人君?判定聞いてた?」


 鈴の声が、完全に自分の世界に入っていた僕の耳に届いた。


「あ?う、うん。聞いてたけど」


 もちろん嘘だけど、ここで聞いてなかったと答える理由がない。まあ、浅代さんの優勝は確定だろうし。


 しかし。


 僕は最重要人物の存在を忘れていた。そして今、鈴によってその人物の声が高らかに述べられた。


「では、ラストバッター!島原ぁ、和泉ぃぃ!!」


 僕は戦慄した。


 どうして気付かなかったんだろう。初めに参加者の中にいたじゃないか!?


 本人はまったく悪気がないようだから、恥ずかしそうに笑っているが冗談じゃない。アレを喰ったら、死ぬ。


「ちょ、ちょっと待ってください!もうお腹いっぱいですよ!」


「お、俺も満足できた。それに満腹の時に料理を食べても、本当の美味しさは伝わらないと思うぞ?」


 僕ら二人は必死に言い訳をする。


 でも、世界は自分にだけ優しいわけではない。


 和泉さんは悲しそうな顔、それこそ捨てられた子犬のような表情で、


「も、もしかして……前の卵の厚焼きは不味かったんですか……?」


 おい、逢海寛人。男にはな、絶対に下がれない時ってのがあるんだぜ?


「う、嘘だッ!!」


 僕は絶叫していた。しかしそんな僕に構わず、事態は進行していく。


「ええっと、品目は炒飯チャーハンです。ど、どうぞ」


 和泉さんの料理が僕らの目の前に置かれた。


 ほくほくと湯気を立てるそれは……、


(あれ?意外と美味しそうだぞ?)


 炒飯はまったくもって不味そうには見えない。むしろ、あれだけの品目を食した後だというのに、空腹感が僕の脳髄に走った。


 そりゃ、そうだ。和泉さんだって何時も兵器を製造している訳じゃないよな。きっと、この間は何かを間違えたんだ。


「「い、頂きます」」


 僕と響夜さんは同時にスプーンを手に取り、それに突き刺した。


 そして湯気が上がっているその炒飯を口に運んだ。


 パクリ、と。


「…………………………――――――――――――――――あ」





(※逢海寛人と橘響夜がログアウトしました)


ご意見・ご感想お待ちしてます。

誤字脱字などのご報告もどうぞ。

※これから章ごとに分けることにしました。

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