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橘響夜 7月10日 午前1時08分 渡良瀬市 私立律明学園

漸く全員が合流です。

 俺はバスから降り、目の前の学園を見つめた。

 学園自体の規模も相当なものだが、それよりもこの塀の高さでは奴らも入れないだろう。俺は素直にそう思った。


「白鳥、山縣。この門を開ける。手伝ってくれ」


「はい」


 白鳥と隊員の山縣やまがた省吾しょうごが門に手を掛けて、上り始めた。向こう側に下り、門の鍵を針金で開ける。

 その後は三人で何とか門を開けることに成功した。バスを中に入れ、今度はもう一度門を閉めるという作業を行う。正直言って、とても疲れた。


「よし、生存者を探す。俺と準一で先行する。白鳥と村上も着いて来い。後はここで待機しろ」


 俺は銃を構え、校舎へと歩みを進めた。

 校舎に入ると直ぐに二人の子供が目に入った。一人は気絶しているようだが、もう一人は俯いている。


「おい。生存者か?」


 俯いていた少年はゆっくりと顔を上げた。その目は酷く虚ろなものだ。


「ああ……あんたら、軍人?」


「そうだ。生存者が他にもいるのなら、会いたいんだ」


「ここには腐るほど生存者がいるぜ……でも関係ない。もう俺たちはここで死ぬんだからよ……」


 俺は頷き、準一を呼んだ。

 準一は少年を怪訝そうな表情見つめている。薬でもやってるんじゃないか?恐らくそう思っているんだろう。


「少年よ。代表と話がしたい。どこに居る?」


「代表?上に行けば会えるぜ……だからもう俺に話し掛けるな」


「……そうか。ありがとう」


 俺は少年を置いて、中に入った。もちろん土足でだ。というよりこの状況で靴を脱ぐ奴がいるとも思えないが……。

 廊下に目をやると、数人の人影が目に入った。先頭は女性らしい。


「貴方方ですか?外にいた兵士達というのは」


「ああ。お前が代表か?」


「そうです。私はここで教頭を務めさせて頂いている、刈谷渋子と申します」


「そうか。俺は対特殊災害派遣先行部隊、「翡翠隊」隊長、橘響夜だ。早速だが話がある」


 刈谷という女教頭は仕草でこちらに来い、と言った。

 俺と準一は素直にそれについて行く。刈谷は俺と準一を連れ、二階へと向かった。

 二階の廊下には少年たちが十人ほど屯っている。そして呻き声がここまで響いてきていた。


「まさか、感染者がいるのか?」


「ええ。化け物化した生徒たちは椅子や柱に縛り付けています。定期的に食事を与え、水なども与えておりますので、ご心配なく」


 俺は刈谷を睨み、何も言わずに教室のドアを開けた。

 突然入ってきた俺の姿を見て、生徒たちは驚いていたが、そんな視線に構わず俺は教室を見回した。感染者が確かに椅子や柱に縛り付けられている。


「退け。邪魔だ」


 俺はドアの前に立っていた生徒を押しのけ、黙って腰からH&K2000を引き抜き、一番近くにいた感染者の額を撃ち抜いた。続いて教室内の感染者を順番に撃っていった。

 直ぐに教室内の感染者は一掃された。準一が後から入ってきて、他の生徒が感染していないかを確認する。

 刈谷が銃声に驚いて、室内に入ってきた。教室内の光景を見て、叫ぶ。


「貴方、撃ったんですね!この人殺し!」


「弘子が!どうして……」


 教室内で我に返った生徒たちが、死んだ(正しくはもう死んでいる訳だが……)友人に涙を流している。


「人殺し!」


 教室内でも叫び声が巻き起こった。

 俺は黙らせるように天井に向かって、威嚇射撃を行った。教室は直ぐに静まる。


「俺が今、撃った奴らはもう人間じゃない。殺されたくなかったら、殺せ」


「貴方は生徒を撃ちました。これはれっきとした殺人です」


「いいか、刈谷さんとやら。殺人というのは人を殺した場合に適用される。そして奴らはもう人間じゃない。よく聞け、奴らに噛まれた人間は奴らの仲間になる。それは嫌だろう?」


 生徒たちはお互いに顔を見合わせ、騒ぎ始めた。

 あちこちから死にたくない、などの声が上がっている。


「分かったか?死にたくない奴は俺に従え。俺たちには武器もある。お前たちを守ってやる。だから……」


「響夜……」


 準一が静かな声で俺を呼んだ。俺は話を区切り、準一がしゃがんでいるところまで行った。

 準一は二人の女子高生の内、背が小さい方の傍らにしゃがみ、深刻な顔をしていた。


「どうした?」


 俺は準一の横にしゃがんだ。

 準一が少女の腕を持ち上げる。そこには噛み傷があった。


「感染者か。全員から隔離しろ」


 準一が少女の腕を掴み、立ち上がらせた。そして教室の端に連れて行く。少女はじたばたともがきながら、叫んだ。


「嘘!!私は感染してないわ!これはガラスで切ったのよ!」


 少女は傍にいた友人を見て懇願した。


「ねえ、助けてよ!私は噛まれて無いわよね?」


 しかし別の少女は答えなかった。じりじりと後ろに下がっていく。他の生徒も少女から遠ざかる。

 別の少女は小さい声で呟いた。


「貴方も化け物になるのよね?私は見たくないわ……」


「そうだ!」


「殺せ!」


 生徒たちは口々に叫び始めた。少女は目を見開いて、生徒たちを見つめた。そして準一を振り払い、生徒たちの方へ走っていく。


「嫌!見捨てないで!」


 生徒たちは悲鳴を上げ、迫ってくる少女から逃げようとした。刈谷と男性教師は何も言わなかった。

 俺は迷わず、H&K2000で少女の足を撃ち抜いた。少女がバランスを崩して転ぶ。

 少女は足を撃たれたことによる痛みと恐怖で、必死にもがいている。俺はH&K2000を構えたまま、ゆっくりと少女に近寄った。


「悪く思うな。これも皆が生き残るためだ」


「や……撃たないで……死ぬのは嫌……」


 俺は躊躇わず、引き金を引いた。少女の頭の一部が吹き飛んで、少女の体は地面に倒れた。

 俺がこの町に来て、初めて”人間”を殺した瞬間だった。


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