逢海寛人 7月9日 午後10時28分 渡良瀬第三中学校 校舎内
前回のが不完全燃焼で終ってしまいましたが、次にやりますのでご心配なく。
久々のメイン主人公です。まあ響夜もそうですが。
「……ん……?」
僕は夢の中から眼を覚ました。
暗い天井が広がっている。確かここは……。
「目ぇ覚ましたか?」
雅人の声が唐突に聞こえた。
「あれ……ここは?」
「寝惚けるなよ。それとも遂にボケたか?」
僕は状況を整理する事にした。
今ここはコンピューター室。何故ここにいるのかは、ゾンビが現れて、逃げて、立て篭もって・・・。
状況は実に単純だった。要するに閉じこめられて居るのだ。
「あれ?鈴は?」
「ああ、鈴さんならトイレだ。直ぐに戻るって言ってたぞ」
「一人で行かせたのか?」
雅人は頷いた。僕は不安の色を顔に浮かべた。僕の表情を見た雅人はなにやら勘違いをしたらしい。とても嫌らしい笑顔を見せた。
「どうした?彼女が心配なのかな?まあ魅力的だものな……」
「うるさい!でも……ちょっと見てくるかな」
「行って来いよ。覗くんじゃねえぞ?」
「…………」
僕は黙ってコンピューター室を後にした。
廊下は静まり返っていて、奴らゾンビは居ないようだ……と思ったらいた。女子トイレに入っていくゾンビを僕は確認した。
鈴が危ない。咄嗟にそう思った僕は走り出した。その間にもゾンビは中に入っていった。続いて悲鳴。
「鈴!!」
僕は叫んでトイレに押し入った。鈴の第一声は、
「変態!何、女子トイレに入ってんのよ!」
「うるさい!」
僕は怒鳴り、そいつの頭を金属バットで殴ろうとした。そこで気付く。
「ヤベ、バット忘れた……」
そいつは唸りながら、標的を僕に変えたようだ。よろめきながらこっちに向かってくる。僕はゴミ箱を拾い上げ、そいつに投げつけた。
しかし所詮はプラスチック。期待した僕がバカだった。ゴミ箱はそいつの頭にヒットしたが、そいつも無反応だった。
「わああ!」
飛び掛ってきたそいつは僕を押し倒して、喉笛に喰らいつこうとした。口が寸前まで迫り、死を覚悟する。その時、そいつの後頭部に箒の柄が食い込む。勢いでそいつはコンクリートの壁に頭がめり込み、砕けた。
ぐったりしたそいつの体の下からどうにか抜け出す。
「助かった……」
鈴は僕を立たせるかと思いきや、突然、
「何やってるのよ!情けない男ね!」
「ごめん……申し訳ありません……」
「まあ、いいわ。大目に見てあげる」
何様のつもりだ?
そう思いながら、僕はコンピューター室へと戻った。
「お前等、トイレに何処まで行ってたんだ?」
「いや、ちょっと……」
「何でもないわよ」
二人が同時に答える。
雅人も真剣な顔で頷き、
「まあ、個人のプライバシーだからな。俺はお似合いだと思うぜ」
「何言ってるの!?こんな情けない奴、御免よ!」
「ま、落ち着け。いいか?今からこのカーテンを使ってロープを作る。手伝ってくれ」
僕と鈴は頷いた。
「分かった。でもどうやって?」
「そうだな。まずカーテンを全部外して、結ぶんだ。ここは三階だが、何とか怪我をしない高さまで降りられるだろう」
鈴は黙ってカーテンを引き剥がし、僕を睨んだ。
「あんたも早くしなさいよ!」
それと同時にドアを叩く音と唸り声が聞こえた。
「時間が無いぞ!急げ!」
雅人が叫び、作業に取り掛かった。僕もカーテンを引き剥がし、鈴の持っていたものと結ぶ。
数分で六メートルほどのカーテンが出来上がった。雅人はそれを窓枠に結びつけ、下に反対側を垂らす。
「さあ、早く行くぞ!」
ドアが破られ、奴らが入って来た。僕は雅人を先に行かせ、鈴に向かって叫んだ。
「行け!僕が時間を稼ぐ!」
僕はバットを先頭の奴の脳天に振り下ろした。リーチの長い武器は便利だという事が実感出来た一瞬だ。僕は次の奴の顔面に叩き込んだ。いやな音と共に顔面は潰れ、壁にぶつかる。
「どうした?手ごたえがねぇぞ?」
僕は次々に入ってくる生徒のゾンビを潰していく。生々しい感触がバットから腕に伝わる。僕は寒気を感じ、少し下がった。
「寛人!早く!」
鈴の叫びで僕は窓際に向かって走った。そして刹那のスピードでカーテンを掴み、窓から身を乗り出す。子供の頃、よく遊んだ公園の遊具を思い出し、その要領で下に降りる。
僕が降りきった時には既に二人は走る準備をしていた。
「行くぞ!奴らも降りてくるかも知れない!」
「行くって何処に?」
「ああ、律明学園を知っているか?あの名門私立だ。あそこなら敷地も広いし、防犯システムもしっかりしているから中に生存者がいるはずだ」
「私も賛成。行きましょう」
「でも……その前に一ついいかな?」
雅人と鈴が僕を見る。僕はおずおずと切り出した。
「腹減ったんだ……」
二人の冷たい視線。
どうやら僕はKYのようだ。
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