↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

そんなわけで妹になりました  ~ お姉ちゃんなんだから婚約者を譲ります ~  

掲載日:2026/10/30

読んでいただきありがとうございます。

きゃー。ようやくよ♪


今シーズン最後の大きな夜会。


ホールの真ん中で、私は妹を連れた婚約者と向かい合っている♪


さあ。リチャード様!叫んで頂戴。


「オルコット公爵令嬢 カノア!本日をもってお前との婚約を破棄し、シャーロットと婚約を結びなおす」


「はい!喜んで」


私は、大きく右手を上げて返事をする。


「わー。お姉さま、私に殿下を取られたから、強がってますのね~。」


いやいや、ひとつも強がってなどいないけど。


シャーロットが、私の婚約者のリチャード殿下を欲しがるのは分かっていた。


今までも、ウサギのぬいぐるみ、お気に入りのリボン、おばあ様がくれたイヤリング他にも沢山。


お気に入り全部を、シャーロットは欲しがり、お母様もお父様も味方につけて、すべて奪っていく。


私の赤みのある髪と、ターコイズブルーの瞳を欲しがって、髪を引きちぎられそうになった時は、さすがに両親も止めたけど。


「そんなお姉さまには、リチャードから、国外追放のプレゼントがあるのよ~。」


「おいシャーロット、カノアには側妃になってもらわねば困る。シャーロットは、王妃教育を何も受けていないのだぞ」


「リチャード様、お姉さまにできることなど、この私にも他の者にも、誰にだってできますわ」


「しかしだな」


リチャード殿下が、ちらりと私の方を見てウインクする。


うー。背中が寒い。


リチャード殿下は、なにしろ女子が大好きで浮気性だ。


その上、私を都合よく働かせようとする、計算高くて腹黒いところも持ち合わせている。


好きじゃないのよね、そういうところ。


計算高いところは、国王になるには必要な要素なのだろうけど。


「はいはい。国外追放で全然問題ありません」


私は両手を上げて、問題ないことをアピールする。


シャーロットは絶対に私を追い出すと思っていた、なにしろ私の不幸が何より好物なのだから。


そしてそんな私は、婚約破棄と国外追放を見据え、ちゃんと準備をしてきた。


個人資産で、隣国に大きな商会を運営しているし、そこに行くまでの手配も万端だ。


「いや、婚約を結びなおすとはいえ、今まで国に尽くしてきたカノアを、国外追放などできない、俺の側妃になってくれ」


キャー。姉妹両方とも手に入れようなんて…………気持ちわるい。


近づいて来るリチャード殿下と、距離を取りながら後ずさる。


「リチャード殿下、先ほど未来の王妃になられる、シャーロット様が、皆の前で国外追放だと宣言したのです、もう取り消すことはできませんわ」


…………くぅ~。なんなのよ、さっさと私を開放しなさいよ。


ダン!


ホールの大きな扉が勢い良く開き、一時退席されていた、国王陛下がお戻りになった。


ま まずい!国王陛下がお戻りになる前に、逃げようと思ってたのに。


「何をしているリチャード!」


「父上、私はシャーロットと婚約を結びなおし、カノアを側妃に迎えたいと思います」


……………………。


国王陛下は厳しい表情のまま、リチャード殿下を睨みつけている。


「はあ。お前は馬鹿ではないと思っていたのだが、親の欲目だった様だ」


国王陛下が、家臣に耳打ちをする。


私は、今のうちにこっそりと…………。


そっと、そっと後ずさり。


「皆様、今の王太子殿下の宣言は、今シーズン最後の夜会での、イベントでございました、お楽しみいただけましたでしょうか」


会場が大きく騒めく。


「まあ、イベント?それではカノア様が王太子妃のままですのね、良かったわ」

「本当だよ、あの次女じゃな~。」

「イベントとはいえ、婚約破棄なんて趣味が悪いですわね」

「ごまかしたんじゃないの?」


「皆様、少し時間は早いですが、本日の夜会はこれで終了です、気を付けてお帰り下さい」


「なお、オルコット公爵家の皆さんは、お残り下さい」


騎士達に追い出されるように、ホールに居た貴族たちが、出口に進む中、シャーロットがリチャード殿下に掴みかかる。


「ちょっと、イベントってなによ?リチャードは、私と結婚するんでしょ~。」


まだホールから出ていなかった、貴族たちが一斉に振り返る。


わー。頑張れシャーロット!いいぞ!


あの子が注目を集めているうちに…………。


こっそりと庭に降りたところで、私は王妃様に掴まった。


「カノア。どこに行くつもりなの?悪いようにはしないから、一緒に来てちょうだい」


王妃様に連れられて、ホールに戻ると、貴族たちの姿は無く、国王陛下とリチャード殿下、騎士に押さえつけられているシャーロットと、青い顔で何とか立っている、お父様とお母様。


王妃様が、国王陛下の隣に並ぶと、陛下が口を開いた。


「これは国王としての決定だ、不服申し立ては受け付けない」


回りの者が、ごくりとツバを飲む。


「国王陛下は、ゆっくりと皆を見回し、リチャード殿下で目を止めた。


「リチャードお前は、その娘と((シャーロット))結婚し、オルコット公爵家に婿に行け、それが嫌でも王席にお前の席は無い」


「父上、なぜです。父上に子供は私しかおりません、誰がこの国を継ぐのです」

「んーーー(私は)ーーー。んーーーー(王妃になるのよ!)ー。」


騎士に口を押えられている、シャーロットは、んーんー叫び、リチャード殿下の顔はもう真っ白だ。


「少なくともお前ではない、私も王妃もまだ若く健在だ、お前以外に跡継ぎを儲けることも可能だ、授からなくとも、血縁の中から優秀なものを選ぶ」


リチャード殿下が、がっくりと膝を付く。


国王陛下は、お父様に目線を向ける。


「オルコット公爵、私の息子を押し付けて悪いが、今回の件はそなたの娘にも原因がある。十分な支度金を持たせるので、リチャードを頼む、そして今までの子供たちへの自身の関りを振り返るといい」


王妃様が、そっと国王陛下の腕に手を添えた。


「オルコット公爵、私達もリチャードを、王太子としてしっかり教育できなかった罰は、役割を果たした後、ちゃんと受けるつもりです」


凄い、盛り上がってますけど、私はどうしたら。


ん…………。やっぱり隣国に逃げよう。


私が後ろに足を引くと同時に、国王陛下が、私に向き直る。


「カノア。リチャードが申し訳ないことをした」


国王陛下と王妃様が頭を下げる。


「いえいえ、私はひとかけらも、傷ついておりませんので、謝罪は要りません。希望が叶うのであれば、オルコット公爵家とは縁を切り、この国を出たいと思っております」


「まあ、カノア。そんなにまで」


王妃様が目を潤ませて、私を優しく抱きしめる。


王妃様…………出て行きづらくなりますので、そんな顔しないでください。


「カノア。オルコット公爵家と縁を切ることは、国王である私が認めよう、しかし国を出ることだけは、考えなおしてくれ」


「国王陛下、私のことは心配いりません、一人でも隣国で生きていけますから」


「カノアに出ていかれると、国が困るのだ、ロッソ辺境伯に私の甥がいる、23歳と少し年は離れているが、やさしい男だ、カノアには、私か後見人となるから、是非嫁いで欲しい」


「いえいえいえ、国王陛下の後見などとんでもない」


国王陛下の申し出を断ると、陛下は黙って手を上げた。


近くで見守っていた第一騎士団長が、敬礼する。


「は!私が責任を持って、カノア様をお連れします」


んあ?


「カノア、先ほど言った通り、これは国王命令で、不服申し立ては一切受け付けない」


国王陛下が、にやりとほほ笑んだ。


!!!


えー。それは、シャーロット達だけじゃないの?私もなの?


騎士団長は驚く私を担ぎ上げ、大股でホールを進む。


「いやー。王妃様助けて~。」


「カノア。リコスはいい子だから大丈夫よ~。」


えー。だって辺境伯って、ゴリラみたいな大男じゃないの?


私は、すらっとした、色白メガネが好きなんですけど~。


「降ろして~。」


私の叫び声もむなしく、私はロッソ辺境伯に連行された。




✿ ✿ ✿




二日間馬車に揺られ、私はロッソ辺境伯に到着。


自然が多くて素敵な所、王都より少し南に下っているためか、見たことのない果物や、鳥もいる。


私は二日間馬車に揺られて、少しだけ前向きになった。


「はあ~。自然豊かで、良いところね~」


ここなら、隣国にある私の商会も近いし、まあここで暮らすのもいいかも、リコス様も、いわくつきの公爵令嬢を押し付けられて迷惑でしょうし、契約結婚の申し込みをしてみようかしら。


そんなことを考えながら、ロッソ辺境伯領を進んでいると、大きな門が見えて来た。


ロッソ辺境伯の住まいは、古城を使用しているようで、見上げるほど大きい、そして、屋敷までのストロークが長い。


馬車は門前で止まり、私は馬車を下りた。


屋敷の玄関まで行ってくれないの?


門番と共に現れた、銀髪で細身、色白で黒ぶちメガネの男性が騎士団長に頭を下げる。


あら、素敵。


「第一騎士団長様、長旅ご苦労様です」


わあ。声もいい。


この人は誰かしら、書類を抱えているし、事務官の人かしら、それとも参謀?


私がじっと彼を見つめると、銀髪メガネさんは、恥ずかしそうに目をそらした。


団長さんは、銀髪メガネさんと、何やらこそこそ話した後、私に向かって大きく手を上げた。


「では、カノア様!頑張ってくださいね」


団長さんは、満面の笑みを残して帰って行った。




✿ ✿ ✿




リコス・ロッソ辺境伯 視点




「第一騎士団長様、長旅ご苦労様です」


「リコス様、お久しぶりです、お元気でしたか?」


「ああ、変わりないが、王家は何を考えている、先触れも昨日届いたばかりだ」


「いや、手紙の通り、リチャード殿下がついにやらかしたんですよ、婚約者であったカノア様を、隣国に逃がさないため、リコス様に白羽の矢が立ったのです」


「はあ~」


俺はため息をついて、連れてこられた公爵令嬢に目を向ける。


令嬢は、真直ぐなキラキラした瞳で俺を見ていた。


全く目をそらさない令嬢に、恥ずかしくなり自分から眼をそらす。


…………なんて奇麗な瞳だ。


「や、しかし王都暮らししか知らない公爵令嬢が、貧しい辺境伯の地で過ごすなど、無理ではないのか」


「まあ、ご自分の眼で確かめてください、カノア様はただの公爵令嬢ではありませんから」


「ただの公爵令嬢ではない?なんだ武術に長けているのか?」


「いえいえ、直ぐに分かると思いますよ」


騎士団長はそう言って笑うと、令嬢に向けて大きく手を振る。


「では、カノア様!頑張ってくださいね」


団長は満面の笑みで馬車に乗り、帰って行った。


改めて令嬢と向き合う。


この小柄で華奢な令嬢の、どこがただ者ではないのだ…………。


まあ、この坂道を歩いたら直ぐに音を上げて、帰りたいと言うだろう。


既に帰りの馬車は、玄関先に準備してある。


「ご令嬢、ここから屋敷までは、歩いていかなければならないが、夜会用の靴では無理であろう、このまま……」


「はい!」


令嬢は、俺の言葉を遮り、真っすぐに手を上げた。


「実は、私夜会で妹が暴走するだろうと思っていたのです、ですので…………。逃走用に、靴はペタンコの歩きやすい靴を履いておりました」


令嬢は、ドレスの裾を少し上げ、俺に靴を見せる。


なんと細い足首だ。


「なので、お気遣い無用です、屋敷に歩いて向かいましょう」


令嬢は、ドレスを少しだけ持ち上げ、さっそうと歩きだす。


「いや、大丈夫なのか?」


「まあ、優しいのですね、私はこう見えて、体も鍛えていますからご心配なく。それより、銀髪メガネさんは、ロッソ辺境伯の参謀なのですか?」


「ま まあ、その様な者だ」


「そうですか、でしたら少しだけ、いろいろ教えていただきたいのですが、来る道筋は殆どが葉の生い茂る雑木林ばかりでした、いざ戦闘となった時、森に紛れた敵に襲撃されかねませんし、平時も野盗などの隠れ家になってしまいます」


「しかしあの街道は…………。」


「そうですよね、森が無いと土砂崩れや、地盤の脆弱化につながります。ですので植える木を、ちゃんと整備するのはどうでしょう。アオダモやオリーブがおすすめです」


「アオダモやオリーブ」


「アオダモやオリーブは枝が細く、葉も生い茂らないですからある程度見通しも効くし。ん~、オリーブは落葉樹じゃないですけど、葉は細いし、実がなります」


令嬢は自慢げに人差し指を立ててにっこり笑う。


「オリーブの実は潰してオイルを作ったり、実を塩漬けやオイル漬けにして食べることも出来ますから、やっぱりオリーブが良いかな、手入れをする人が頻繁に立ち入れば、不届き者も住みつきませんし」


「確かにそうだな…………そのオイルや、実の加工品は産業にもなるか?」


「もちろんです、雇用にもつながりますし、領内の産業が一つ増えますね」


令嬢は、息を切らすこともなく、あんなにしゃべりながら、俺と同じスピードで進む。


鍛えてるとは言うのは、嘘ではないようだ。


「あーーー。」


令嬢は道端に生える、白いビラビラしたキノコに駆け寄る。


ドレスが汚れるのも気にせずに、ビラビラをむしり取り、匂いを嗅ぐ。


「おい、知らない植物に、安易に触れない方がいいぞ」


「これはハナビラダケというキノコですよ、隣国では好んで食べられています」


「なに?これは食べれるのか?」


「もちろんです、バター炒めや卵とじ、スープなんかにも入れますね、こりこりした食感で、美味しいですよ」


令嬢は、裾が汚れたドレスで、ハナビラダケを両手に握り、ニコニコ笑っている。


頬の土汚れを気にすることなく笑う彼女に、俺も笑顔になった。


「頬に土がついたぞ」


「あら、どちらですか?」


彼女は、キノコを持ったまま自分の頬を拭い、土はさらに広がった。


「ははっはははは、カノア嬢は、本当に王都育ちなのか?」


思わず、声を上げて笑う。


「はい、王都でしか暮らしたことがありませんが、両親は妹ばかりかまっていましたので、私は自由に好きなことをして過ごしていました」


俺は、ハンカチを取り出して、カノア嬢の頬を拭う。


「名乗らずにすまなかった、そしてカノア嬢のことを知りもしないで、決めつけていたこと許してくれ、俺はロッソ辺境伯当主のリコスだ」


カノアは、眼を大きく見開いてから、ハナビラダケを自分のハンカチに包み、地面に置いてから、綺麗なカーテシーをした。


「私こそ、見た目で参謀様などと決めつけてしまい、すみませんでした。この度王命にてリコス様に嫁がせていただくことになりました、カノアと申します。どうぞよろしくお願いします」


「頭を上げてくれ、カノア嬢。こちらこそよろしく頼む」


俺が手を差し出すと、カノアは、ドレスでパンパンと自分の手を払い、頬を染めて、俺の手を握った。


小さくて暖かな手だった。


それから俺は、カノアに王都の問題児を押し付けられたと思っていたこと。


王都の令嬢など、少し歩かせれば直ぐに根を上げて、帰りたいと言うだろうと勝手に思い、玄関先に帰りの馬車を準備していたこと。


ペタンコの靴を履いていて驚いたことなどなど、すべて素直に話した。


「私も、辺境伯様に向かって、名乗りもせず、聞きもせず。その…………銀髪メガネさんなどと、お呼びしてしまい。そしてあのあの、私も辺境伯様は、ずっとゴリラみたいに大きくて、乱暴者だと勘違いしておりました」


「ははは、では、お互い様だな。カノア。私のことは名前で呼んでくれ。来てくれた令嬢が、カノアで良かった」


「はい。私もリコス様が好みのタイプで良かったです」


「な!」


見目が良いことは自覚していたが、面と向かって好みのタイプなどと、言われたことは初めてだ。


しかも、むちゃくちゃかわいい笑顔で…………。


俺が顔を赤くすると、カノアも自分の発言に気がついたようで、みるみる顔が赤くなる。


気がつけば、俺はカノアの手を握ったままだ。


男ばかりの中で育ってきて……女の子は直ぐに泣くし、キャーキャーうるさいし、苦手だった俺は、家族以外の令嬢とのかかわりを避けて過ごしてきた。


どうする?手を離した方がいいのか、何と言って離せば…………。


とにかく彼女には気に入られたい。


見目はタイプらしいが、中身も頑張らねば。




✿ ✿ ✿




カノア 視点



「はい。私もリコス様が好みのタイプで良かったです」


「な!」


!!! 私ったらなんてことを。


顔が熱い。


今すぐ両手で顔を覆いたいけど、右手はまだリコス様と繋いだまま。


むちゃくちゃ、がっちり握られているけど、どうすればいいの。


しばらく手を握ったまま、ふたりとも真っ赤な顔で立ち尽くしていると、遠くからリコス様を呼ぶ声と、足音が聞こえる。


「おーい。リコス!何してるんだ」


坂の上から、まさにゴリラみたいに大きな男性が、駆けおりてくる。


「なんだ真っ赤で手をつないでるぞ!」


ゴリラさんの声で、漸くリコス様は、私の手を離す。


「いや、シグナス!これはだな」


ぷっ。


こんなに強面なのに、白鳥さん。


「あー。奥様!俺の名前で笑いました?」


私にシグナス様の顔が、グンと近づくと、リコス様がシグナス様との間に割って入った。


「おやおやおや」


シグナス様が、ニヤニヤした顔でリコス様を見る。


「初めて会う令嬢に対して、お前は距離が近すぎるんだ!」


「はいはい。喧嘩でもしたら仲裁に入ろうと思ってきたんだが、余計なお世話だったみたいだな」


シグナス様は頭をガシガシと掻いてから、背筋を伸ばし、私に礼を取る。


「奥様、お初にお眼にかかります、ロッソ辺境伯で参謀を務めます、シグナスと申します。以後お見知りおきを」


ゴリラさんが参謀…………。


「あー、カノア。シグナスは私の母方の従妹で、こう見えて、勘もいいし頭も切れる」


リコス様の話を聞いて、頷いた私は、シグナス様の挨拶に応える。


「王命で参りましたカノアです。これからよろしくお願いします。それと奥様ではなく、私のことは名前で呼んでいただいてもいいですか?」


「畏まりました、カノア様。お疲れでしたら俺が担いで、屋敷までお運びしましょうか?」


シグナス様が私に手を差し出すと、リコス様が私の腕を引く。


「カノアは鍛えているから、シグナスに抱えてもらう必要はない、ここまでも俺と変わらぬペースで歩きながら、雄弁に領地運営の話をしながら来たのだぞ」


睨むリコス様を見て、シグナス様がお腹を抱えて笑う。


「ははははは、やー。良いもの見せてもらった、こんなリコス初めてだ、カノア様は、ただ者じゃないな」


「いえいえ、ただの令嬢ですよ、でもご縁があってリコス様に嫁いだからには、この領地を繁栄させるため、最善を尽くしますわ」


「お。いいね~リコスにどんな提案をしたんだい?」


私は、足元に置いたハンカチを拾い上げて、シグナス様に差し出す。


覗き込んだシグナス様から変な声が出る。


「ぎょ…………キノコじゃないか、俺苦手なんだよ、その上これは毒キノコだろ?」


「いいえ、食べれます。隣国では好んで食べていますから、領内にたくさん生息しているなら、隣国に売ることもできますね、この国の王都に出るより、輸送も短く済みますから」


私は、周囲をきょろきょろと見回す。


さっき確か…………あった。



「あの、黄色の実が地面に沢山落ちている木は、マルメロですか?」


「ああ、あれは先々代が、棘がある木だから屋敷の防衛にと植えたみたいだが、大きくなったら棘は無くなるし、実はぼそぼそした食感で不味いときたもんだ」


「マルメロの実は、生では美味しくないですけど、シロップ漬けにしたり、ジャムにしたりすると美味しいですよ。果樹酒にも使えます」


「おう。カノア様は物知りだな、そしたらその加工品なんかも作って売ったり領地で使えるな、隣国に売るとすれば、商会が手を貸してくれるといいんだが…………。」


「はい」


私は、大きく手を上げた。


「もしかしてカノア、隣国の商会にも伝手があるのか?」


「コーカノア商会は私の商会です」


ふたりの眼が零れ落ちそうなほど、大きく開く。


「隣国で一番大きな商会が…………。」


「カノアの商会なのか…………。」


「ええまあ、なのでリチャード殿下に婚約破棄してもらったら、隣国に逃げようと、何年も前から準備していました」


ニッコリ笑う私の顔に、今度はリコス様の顔が近づく。


うぅ~。好みの顔が近すぎる。


「…………この愛らしいカノアの中に、どれほどの能力が詰まっているのだ」


美丈夫。近距離。誉め言葉!


初めての出来事に、私の胸はバクバクと踊り出し、クラっと眩暈がした。


私の体がぐらりと揺れると、リコス様は、書類をシグナス様に押し付けて、すかさず私を抱き上げる。


「すまない、カノアが鍛えているとはいえ、長い馬車旅の後に無理をさせた、直ぐに屋敷に向かう」


くー。そうじゃないんです、リコス様。


リコス様の、洗練されたお顔のせいです。


んーーーーーー恥ずかしい。


何気に触れた、リコス様の胸板は、こんなに細身に見えるのに、がっしりしている。


思わずポンポンと叩いて確認すると、私を見下ろすリコス様と眼があう。


リコス様は、真っ赤になった私の顔を、隠す様に自分の胸に抱き込むと、凄い勢いで走り出した。


あっという間に、屋敷の玄関にたどり着くと、そこには仁王立ちする女性の姿。


「リコス様!シグナス!せっかくいらしてくれたカノア様に、何をしてるの!追い返す馬車なんて私が許さないからね!」


女性は、リコス様に抱えられた、土汚れのついた私を見て、シグナス様の横腹にパンチをお見舞いする。


「ウガ!」


「あんたがついていながら、どうしてこんなことになってるの!」


鬼の形相でシグナス様を睨みつけた女性は、くるりと私に振り返り、にっこりと微笑んだ。


「カノア様。ちょっとお顔を見せて下さいね」


そう言うと、女性の暖かな手が私の頬を包み、首元に触れてから、眼の下を引いて確認する。


「取りあえず大丈夫そうね」


女性は、私から一歩下がり、綺麗なカーテシーをする。


「急な無礼をお許しください、私はシグナスの妻、エルダです。今日からカノア様の身の回りのお世話をさせていただきます」


「あ。あのエルダ様、こんな格好ですみません、リコス様に嫁ぐことになりました、カノアです。よろしくお願いします」


「まあ、かわいい♪カノア様歩けますか?お風呂を準備していますので、まずは体をほぐしましょう」


「はい。先ほどめまいがしてしまって、リコス様に抱えていただきましたが、もう大丈夫です」


私が、リコス様の腕から降りようと身じろぐと、リコス様の腕に力が入る。


「倒れては大変だ、俺が連れて行く」


「「ははははは」」


私を離さないリコス様を見て、シグナス様とエルダ様が声をそろえて笑う。


「なー。こんなリコス見るの、初めてだろ」


「あらあら、まあまあ。とにかくカノア様に、休んでいただける様にするのが最優先よ」


エルダ様の号令で、私は準備していただいたお部屋に運び込まれ、エルダさんにピカピカにしてもらった。


ゆったりとしたワンピースに着替えた後、エルダさんが深緑色の暖かな飲み物を持ってやってきた。


「カノア様、私はロッソ辺境伯家の薬師でもあるんです。これは少し苦いですが、疲労回復と貧血に効く煎じ茶ですから、残さず飲んでくださいね」


私はこくりと頷いて、コップに口をつける。


「ぬぅ。…………苦いですね」


「ふふふ、でも効果は抜群ですから」


エルダ様は、私の隣に座りそのまま私を抱き寄せた。


「こんなに若くて、王太子の婚約者だったのに、どうして貧血と栄養不足なのです、どんな苦労をしてきたのです」


そう言いながら、エルダ様は抱き寄せた私の背中を摩る。


「ここでは、一人で頑張らなくていいのですよ、男たちが頼りなくても、私が守ってあげますからね」


エルダ様の言葉に、自分でも気がつかなかった感情が溢れだす。


ボロボロと、あふれる涙が止まらない。


小さな頃から、オルコット公爵家では、シャーロットばかりが優先されて、私の居場所は無かった。


両親は、私がおとなしくさえしていればよくて、無関心。


身の回りの物も、食事も与えては貰ったが、好きなものはシャーロットに奪われ、一緒に食べる食事は、味がしない。


美味しくないから、たくさん食べられず、いつも私は空腹だった。


リチャード殿下との婚約が決まった後は、シャーロットがリチャード殿下を欲しがることを利用して、婚約を破棄し隣国で暮らすことだけを希望に頑張り続けた。


王都では、誰も頼れる人が居なかった。


溢れだした感情に、私は声を上げて泣いた。


エルダ様は何も言わず、私が泣き止むまで、背中を摩ってくれて、涙が治まると、煎じ茶を飲み干す所を確認して、エルダ様は部屋を出て行く。


その後も、エルダ様はこまごまと私の世話を焼いてくれて、昼も夜もお腹に優しい食べやすいものをと、特別メニューを部屋に運んで、一緒に食べてくれた。


お腹がいっぱいになった私は、とにかく休むようにと、ベッドに押し込まれる。


……………………。


私はベッドに横になりながら、月の明かりも星の明かりもない、濃紺色の空を見つめる。


…………少しだけ、リコス様瞳の色に似ているわね。


お部屋に運んでいただいてから、お顔が見えないけれど、どうしているかしら。


私を追い返すつもりだったことに、少し驚いたけれど。


…………私、ここにいてもいいのよね。


リコス様の笑顔を思い出し、頬が熱くなる。


恥ずかしくなって、布団を頭まで被ると、小さなノック音が聞こえた。


「エルダ様?」


「いや、俺だ。まだ起きているなら、こんな時間に申し訳ないが、少し話せるだろうか?」


「はい」


私は慌ててベッドから出ると、ルームカーディガンを着てドアを開ける。


リコス様は私の姿を見て、恥ずかしそうに俯いた。


「夕食にも顔を出さなかったから心配でだな…………そしてどうしても、今日中に気持ちを伝えた方が、いいと思ってだな」


両手でホットミルクをのせた、シルバートレイを抱え、ぼそぼそと話すリコス様がかわいらしくて、思わず頬が緩む。


「ホットミルクが、冷めないうちにいただきます」


「ああ」


リコス様は嬉しそうに顔を上げ、部屋に入る。


並んでソファーに座り、ホットミルクを一口飲んでから、リコス様は私を真っ直ぐに見つめて話し始めた。



「俺は18の時に、事故で両親を同時に失い、それまで剣の腕ばかり磨くことに邁進していた俺が、領地のこと、騎士団のこと、使用人のこと全部を、一気に考えなければならなくなった」


私は、リコス様の眼を見たまま頷く。


「がむしゃらに進む俺を、シグナスとエルダが支えてくれた」


「素敵な二人ですね」


「ああ、あの二人がいなければ、今の俺は無い」


「大切な家族ですね」


私がそう言うと、リコス様は私の手に大きくて暖かな手を重ねた。


「今日あったばかりで、追い返そうなどと失礼な態度を取った俺だが、明るく聡明なカノアに心惹かれた。王命など関係なく、共に過ごしてもらえないだろうか」


私は、真剣なリコス様の眼に息をのむ。


「夫婦になるのは、お互いの気持ちが、寄り添った時でいい」


私もリコス様の手に自分の手を重ねる。


「正直に言えば、私は家族というものがわかりません。でも、リコス様の手の暖かさや、エルダ様の苦い煎じ茶やシグナス様の笑顔に、嘘偽りがないことは分かります」


リコス様は、大きく肯いた。


「不器用な私ですが、共に時間を重ねさせてください」


返事と共に、私はリコス様の腕の中に閉じ込められた。


暖かい。


ほっと息をつくと、少しだけ開けていた、ドアが大きく開かれて、リコス様の叫び声が上がる。


「いたたたた」


見上げると、リコス様は、エルダ様に耳をつまみ上げられている。


「こら!リコス様。レディーの部屋に入り込んで何をしているのです、王命があるとはいえ、婚約式もまだなのに」


エルダ様は、テーブルのホットミルクに目を止める。


「ふん。仕方ないですね、このミルクを飲むまでは、部屋に滞在を許しますが、こちらのソファーにお掛けください」


リコス様は、エルダ様に耳を引っ張られたまま、向かいのソファーに移動する。


ミルクを飲み終わるまでの間、三人でいろんな話をして、初めての辺境伯での夜が過ぎて行った。




✿ ✿ ✿




あの後私達は、正式に婚約を結び、領地の改革や隣国との貿易に、皆で力を合わせて取り組んだ。


早いもので、あの日から既に三年の月日が流れた。


雑木林だった森は、オリーブ畑に生まれ変わり、領内にはマルメロやオリーブを加工する工場ができ、みんな元気に働いている。


最近では、山に群生していたハナビラダケの塩漬け工場と、オリーブオイルに香料を入れた、ヘアオイル工場も建設中。


更に、コーカノア商会は、王国内での支店の立上げ、オリジナル商品の販売を中心に、さらに大きな商会へと育った。


そんな忙しい中、私とリコス様は、国王陛下に王都に来るよう呼び出されて向かっている最中。


この三年間の業績を評価し、お祝いしてくれると言うのだが。


「んー。王都にわざわざ行かなくても、お祝いを送ってくれるだけでいいのに」


「まあまあ、新婚旅行だと思って楽しもう」


リコス様は、ほほを膨らます私のおでこに、キスを落とす。


私達は、領地経営が軌道に乗ってきたことから、結婚することを決め、その結婚式を、三か月後に控えている。


ロッソ辺境伯の小さな教会で、式を挙げる予定だ。


領内の街道を馬車で走ると、領民が畑仕事の手を止めて、手を振ってくれる。


「リコス様は、相変わらず領民に人気ね」


「カノアもだろ」


たわいもない話をしながら、私達は2日間の馬車の旅を終え、王宮に足を踏み入れる。


騎士に案内され、庭の見えるゲストルームで待っていると、国王陛下と王妃様が現れた。


ふたりで立ち上がり、礼をすると、いきなり王妃様に抱きしめられる。


「カノア、会いたかったわ、少しふっくらして、綺麗になったわね、顔色も良くて安心したわ」


「王妃様、お久しぶりでございます」


「ははは。王妃よ、落ち着きなさい、カノアはもう三年前の、子供ではないのだよ」


「もう。貴方ったら、少しぐらいいいじゃない、娘に会えて嬉しいのよ」


王宮の侍女が、静静とテーブルに、紅茶やケーキを並べていく。


「まあ、まずはお茶でも飲もう、長旅で疲れただろう」


4人でテーブルに着き、お茶を飲み始めると、国王陛下が口を開いた。


「今日、ふたりにわざわざ王都に来てもらったのには、ひとつ大事な相談があってのことだ」


私達は、国王陛下の真剣な声に、背筋を伸ばす。


「リチャードを王族から抜いて以降、残念ながら私達二人は、子供を授かることが叶わなかった」


「それで私達は決断したの、血縁の中で、最も優秀なものを王太子に迎えようと」


「リコス。お前達のこの三年間の働きは、次にこの国を率いて行くに申し分ない、この役目、受けてもらえないだろうか」


「正直に言えば、私達は三年前のあの日、カノアをあなたに託すと決めた時から、こうなることを望んでいたの」


リコス様は、テーブルの下で私の手をギュッと握る。


答える様に、私はリコス様の手を握り返した。


私はリコス様と共に歩むことを決めている、それが辺境の地であれ王宮であれ、揺るぎはしない。


「お引き受けいたします。カノアとならば、お二人から引き継ぐこの国を、共に守り、発展させることが出来ると思います」


王妃様は、胸の前で手を合わせて、ハラハラと涙を流す。


「決心してくれてありがとう。私達も二人がより良い環境で、国を率いて行けるよう尽力しよう」


「ロッソ辺境伯の後継としては、ドレイク伯爵のシグナスを考えている。彼になら、ロッソの地を任せても問題ないだろう」


「あなた達、三カ月後には結婚式の予定なんでしょ、厄介な手続きはこの人に任せて、私達は式の準備を進めましょう」


王妃様は、国王陛下の背中をバンと叩く。


それからの私達は、目の回るような忙しい毎日になった。




✿ ✿ ✿




王都でのいろんな行事や公務を終えた私は、ロッソ辺境伯領の小さな教会の大きな扉の前に立っている。


「まーほんと、あんな大きくて盛大な式を挙げた後に、どうしてこんな、ちっぽけな教会で式を挙げなおしたいなんて言うかね、カノア王太子妃様は変わってるよ」


照れ隠しに、大きな声で悪態をつく、私のお兄様の腕を取り、私は扉を潜り身廊を進む。


リコス様を、国王陛下の正式な養子とするため、王家が預かっていた私の貴族籍を、ロッソ辺境伯に移したのだ。


だから私には、シグナス兄さまと、エルダ姉さまという家族が出来たのだ。


「俺の妹はでしょ。お兄様」


私がシグナス兄さまを見上げると、兄さまは顔を赤くして、さらにガシガシと頭を掻く。


私達は、リコス様の元に行く前に、身廊の真ん中くらいで待っている、エルダ姉さまの前で立ち止まる。


私が左手を差し出すと、レースのグローブに、エルダ様が、ひと縫い針を通す、針には家門の色糸がついていて、針を抜いた糸を、送り出す家の母親や姉が結び、花嫁の幸せを願う。


ロッソ辺境伯領に受け継がれる、結婚式のジンクスだ。


「カノア。離れていてもずっと家族よ」


急に緊張した面持ちのシグナス兄さまと一緒に、リコス様の元に向かう。


お兄さまは、リコス様の肩をガシリと掴む。


「リコス、妹を頼む」


泣き出した、シグナスお兄様の手から、リコス様が私の手を取ると、厳かなオルガンの音と共に、4人だけの結婚式が始まった。


式を終え、4人で教会のドアを開けると、そこには沢山の領民たちが待っていた。


お祝いの言葉と共に、色とりどりの花びらが舞う。


私とリコス様は、みんなに手を振って応える。


お姉ちゃんなんだから、婚約者を妹に譲ったら、大切な家族が出来ました。



~ 終わり ~



ちなみに、オルコット公爵家は、散財する若夫婦に財産を食いつぶされて、みんなで夜逃げし、公爵家は取り潰しとなりました。

(*^-^*)

カノアに暖かな家族が出来て、良かったなと思っていただけたかたは、リアクションなどいただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんか蔑ろにした娘(姉、元婚約者)に助けを求めに行きそうだが、途中で行き倒れか門前払いになりそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。