第9話 死に場所
「……主任たちまで、そんな……」
俺の両肩に手を置いてすぐ後ろに立っていたリーナさんが、頭の上でつぶやく声がした。
リーナさんの、優しくて大好きな声がすこし震えてる。
「くそっ……連合のやつら……。……それで? 当然、ロンダの仇も討ったんだよな?」
ネイトが話してる途中で、ジャンさんがすこし怒ったような声で聞いた。
「いいや。……そもそも、あいつらの内一機でも墜とせたのかすら、わからねぇ」
「何…っ? 押し込まれてたのはわかるが、隊長とお前がいて…!」
「仕方ねぇだろ……! やつら、それこそ蜘蛛の子散らすみてぇに逃げて行きやがったんだ……」
「はぁっ? 押してるのは向こうだったんだろ? 何でそんなことになるんだよ!?」
「待て、ジャン。……ネイト、理由はわかるか?」
修理作業の手を止めたピートさんが、顔だけを向けて聞いた。
「さっき、『【ウィクトーリア】の部隊が補給に戻った』って言ったろ?」
「ああ」
ネイトが鼻で嗤いながら答えた。
「感じ悪い」と思わなかったのは、ネイトの声がすごく疲れた感じで、顔も変なふうに歪んでたから。
「それを見た『その他、大勢共』は、【ウィクトーリア】が『撤退』したと思い込んだんだ。――訳もわかんねぇまま、通信で情報が広がったんだろうな。深くまで入り込んでた部隊から順に、雪崩を打って逃げ出した」
「……馬鹿な……あり得ん……」
「まったくだぜ……。敵も味方も大混乱で、隊伍も関係なく逃げる敵機をそれこそ手当たり次第に墜としてったんだ。……おかげで、ロンダを殺った部隊も見失っちまった。【ウィクトーリア】様々だ」
「何だよ……! ……くそっ! くそっ、くそ…っ! そんなやつらにロンダたちは……!」
「ジャン…………ジャン、もうよせ」
交換した機体のパーツを何度も叩くジャンさんの腕を、リゾーリさんが掴んで止めた。
ジャンさんを抑えたままで、リゾーリさんが続ける。
「なぁ……隊長も、なのか? ……隊長はどうなったんだ?」
「……その日は、一方的な追撃戦で終わった。隊長も無事だ。――次の日だ」
変なふうに歪ませていたネイトの顔は、いつもの綺麗な顔に戻ってたけど、その代わりに今度はさみしそうな顔になっていた。
「次の日、オレと隊長が配置された防衛地点に【ウィクトーリア】が来た。……正直、嬉しかったぜ。これで、オレも――そう、思ってたんだけどな。隊長に先を越されちまった……」
みんな黙って聞いていた。
ピートさんだけは、また修理作業を始めて、その音だけがしている。
「隊長は、さっきお前らに伝えた最後の命令をオレに言った後で、【ウィクトーリア】に向かって突っ込んでいっちまった。――すげぇ動きだった。雑魚共を次々墜としながら、あっという間に見えなくなっちまった。……今まで何度も隊長と出撃したが、あんな動きは初めて見たぜ」
思い出すようにして言ったネイトの顔は、今度はすごく優しい顔に見えた。
ネイトのあんな顔、見たことない。
あんな目もするんだな。いつも、ああだったらいいのに。
「オレは……追いつけなかった。【ウィクトーリア】がいるおかけで、すっかり調子に乗った『その他』のやつらに囲まれてな。墜としても墜としても、次から次に湧いて出やがる。……それで、諦めて逃げた。隊長とは、それっきりだ。他の部隊は知らねぇ」
「……そうか」
小さな声で応えたリゾーリさんが下を向いた。
ジャンさんもおとなしくなって、座り込んでる。
けど――
なんだ。
ネイトは「死んだ」なんて言ったけど、そんなことないじゃないか。
ロンダさんはきっと脱出してるし、隊長だってきっと抜け出して今頃どこかに隠れてるんだ。
もしかしたら、こっちに向かってるかもしれない。
「――本当は……隊長の命令なんて関係ねぇんだ。オレは嫌だった。……あんな戦場で……あんなやつらに墜とされるのが嫌だった。それで、みんなを置いて逃げてきたんだ。…………軽蔑してくれて構わねぇ」
「……しないさ。ここにいる全員も、死んだみんなも、誰もな」
黙って修理作業をしていたピートさんが、ゆっくり立ち上がって言った。
「……何でだよ……。してくれよ……! オレは、どんなことをしてでも隊長を還すべきだったんだ! オレが出遅れなかったら…! オレにもっと力があれば、今頃、隊長は…!」
「隊長は、連れてった部下に死なれて自分だけ還ってくるなんて出来ないさ。たとえ、残った俺たちがいたとしてもな」
「けどよ…っ!」
「隊長は、死に場所を見つけちまったんだ。……ハンナとイアンを亡くしてからのあいつは、ずっとそれを求めてきた。お前がいてくれたから、それが出来たんだ」
ハンナとイアンって、誰だろう?
家族……なのかな?
「すまなかったな……ネイト。あいつの最後の我儘に付き合わせちまって……。代わりに礼を言う」
「……けど…………オレは……」
「ネイト…………ネイト、俺を見ろ。……いいか? 大変なのはここからだ。直に、大規模な追撃戦が始まる。大型支援車両もない今、俺たちが逃げ切るためにはお前の力が必要だ」
ピートさんがネイトの両肩を掴んで、すこし揺さぶった。
ネイトの表情は見えない。
「隊長は俺たちを逃がすために、お前を還した。お前が還ってきてくれたおかげで、俺たちも生きて還ることができる。――よく戻ってきてくれた、ネイト」
「……く…っ! ぅ…ぅうう……っ」
「……ネイト……泣いてるの……?」
「今は……そっとしておいてあげましょう? ね……?」
リーナさんを見上げて訊いたら、手を引かれてその場を離れることになった。
振り返って二人を見ると、ピートさんが体当たりでもするみたいにネイトを抱きしめていて――
すこしのぞくネイトの肩が、ちょっとだけ震えているみたいだった。
本当はこのお話もネイト視点で書くつもりだったんですけど、先が長くなるので切り替えましたー(´・∞・`;)おふぅ
地味に重くて申し訳ないです(´・∞・`;)
しばらく、ちょい重が続きますが引き続きお付き合い頂けたらチャウ感激! \(´・∞・`)/




