油肩ブラ
油のブラを買ってしまった。
ベトベトする。
嫌な感じだ。
どうしてこんなものを購入したかといえば、語らなくてはいけない。
福引券が欲しかった、と。
当たりがほしかったフィギュアだったのだ。
でもよく考えたら、もうちょっとお金を出せば買えたんだ。
ただそれで油のブラをしてるわけ。
肩紐が油でずれる。
直さなくてはいけないけれど、恥ずかしいことこのうえない。
このしたがあれば、どれだけいいだろうと、思いながら、わたしはブラの肩紐を直す。
こういうことはあるのだ。
それが人間工学というものだ。
行動経済学とも言う。
わたしは何でも知っている。
それでこんなことになるとは、思っても見なかったけれど、ベトベトしている身体を隠して、上着だけはファッショナブルにカッコつけているってわけだ。
颯爽と歩きながら、通学する道すがら、小声で囁かれた。
「アブラカタブラ」
「油肩ブラ?なんで知ってるの?」
振り向いて聞いてしまった。
「アブラカタブラ。あなたの願いはわかっています」
「そりゃわかるでしょ。油肩ブラなんだから」
「願いを叶えるためには、この塩昆布を買うといいでしょう」
誰かも知らない人に差し出されたのは正真正銘の塩昆布だった。
「これを買えばなんとかなりそう?」
なんとかなるどころか、あなたの願いが叶うでしょう。しかしこれは特別な霊力の宿る塩昆布なので、少々お値段がはりますが」
「おいくらまんえん?」
「そんなにたかくはありません。9990円しかしません」
「一万円するじゃんか」
「一円お得です。それがあなたを救うことでしょう」
「それで油肩ブラがなんとかなるの?」
「それでなんとかなるんです。アブラカタブラ」
「背に腹は代えられないか。じゃあ買う」
「思い切りの良い方ですね。私は好きです。そういう人」
「わたしもそういう自分が好きだけど、それよりこの塩昆布食べればいいの?」
「食べてはいけません。霊力が損なわれてしまうので」
「じゃあ、どうするの」
「その塩昆布を特別な神棚に捧げて、お祈りするのです」
「そうすればなんとかなりそう?」
「なんとかなるなんてレベルではありません。速攻です」
「だったら、その神棚も買えば良いわけ?」
「こちらが紹介する神棚は結構お値段がはりますが、今回は特売日なので99990円しかしません」
「十万円じゃん」
「十円お得です。それがあなたを助けることでしょう」
「なら、買うしかないか」
「ご契約ありがとうございます。それで神棚なんですが、特殊な御札を奉じなければいけません」
「御札か、安ければ買うか」
「99円です」
「やっす。買うのやめた」
「どうしてですか?願いが叶うんですよ。アブラカタブラ」
「だって、あなたもわたしと同じブラしてるから。買っちゃったんでしょ」
「ご存知だったのですか。フィギュアが欲しかったんですけど、福引券にしてしまったので、こうして霊感商法っぽいことをすることになりました」
「もろだけどね」
「もろ服に滲み出てますね」
「お気にだったのに台無しだ」
「アブラカタブラ。そういうときはこの御札を購入すればなんとかなります」
「なら買うわ」
こうしてわたしは騙されたのだった。99円の損害だ。




