探偵が8人
「これは、脱出ゲームである。8番の出口に向かって脱出せよ。道は異変にまみれている。ルールは簡単だ。異変が出てきたら引き返せ。異変を避けて8番出口に向かえ。8番出口にたどり着いたら脱出成功だ。さあ、行け!」
8人の探偵は、突然脱出ゲームに巻き込まれた。よくわからないが、ゲーム世界であるようでもあり、現実の世界のようであった。通路の中に8人の探偵がひしめきあうのは、ロールプレイングゲームのバグのようであったが、バグではない。8人の探偵の名は、ホームズ、ポアロ、金第一、明智、御手洗、中禅寺、マープル、犀川であった。
引き返せ。
再び、8人の探偵は、突然脱出ゲームに巻き込まれた。いや、よく見れば7人になっている。どうやら、既に異変が始まっていたようだ。誰が消えたのか7人の探偵は顔を見合わせた。
「俺はホームズだ」とホームズは言ったが、彼は本当にホームズかどうか確信が持てなかった。ここには鏡がない。ポスターの貼ってある通路があるだけで、自分を見ることができない。他の6人に「俺はホームズだろうか?」と尋ねたとしても、それが正しいとも限らない。困った。私は、#AAA00 の脳細胞を働かせた。すると、誰かが言った。
引き返せ。
再び、8人の探偵は、突然脱出ゲームに巻き込まれた。いや、よく見れば6人になっている。既に2人の探偵が消えていた。消えた探偵の名前はわからない。しかし、人数を数えれば自分以外に5人いる。自分を含めれば当然6人ということになる。8人いたときよりも、随分通路がすっきりしている。そうだ、太った探偵がいなくなったからだ。ここにいるのは男しかいない。
引き返せ。
再び、8人の探偵は、突然脱出ゲームに巻き込まれた。いや、よく見れば5人になっている。既に3人の探偵が消えていた。消えた探偵の名前はわからない。この文章も既にコピペだ。5人の探偵は、通路の中で顔を見合わせた。誰が消えたのか。いや、消えたのは俺かもしれない。そんなことを考えつつも、俺は昔の対決相手を思い出していた。そうだ、百面相と言ったか、彼はどうしているだろうか。
引き返せ。
再び、8人の探偵は、突然脱出ゲームに巻き込まれた。いや、よく見れば4人になっている。いっこうに前に進まないように見えるが、8番出口はそういうゲームだったことを思い出した。となると、後4人が消えるまで、異変が続くのだろうか。いや、そももそも8番出口は異変が無いときは通っていい筈なのだから、通路を通れるパターンもある筈だ。引き返すばかりではゲームではない。ひょっとすると、4294967295 回通った後に出口がわかるかもしれない。
引き返せ。
再び、8人の探偵は、突然脱出ゲームに巻き込まれた。いや、よく見れば3人になっている。ちょっと長くなってきたので、トイレに行きたいところだが、ここにはトイレがない。いや、お手洗いというべきだろうか。
引き返せ。
再び、8人の探偵は、突然脱出ゲームに巻き込まれた。いや、よく見れば2人になっている。さすがに、お花摘みとかセッチンとかで消えてしまうのは不憫ではないだろうかと思ったが、致し方ない。8人の探偵を思いつかなかった作者の責任である。筒井康隆風にいえば「朝のガスパール」のメタ小説である。登場人物として誰が残っているか AI に聞いてみようではないか? ChatGPT 君、いまここに残っているのは誰か?
ChatGPT の答えは、
なるほど、これはちょっとした「探偵脱出ゲーム」の謎解きですね。
登場した探偵は最初 8人:
ホームズ
ポアロ
金田一
明智
御手洗
中禅寺
マープル
犀川
だめだな。ChatGPT は間違っている。しかも初手から間違っているではないか。賢明な読者にはお分かりであろう。君が、優秀な元看護婦ならば答えは簡単だ。
引き返せ。
再び、8人の探偵は、突然脱出ゲームに巻き込まれた。いや、よく見れば1人になっている。俺ひとりだけだ。一人だけで、この脱出ゲームをクリアできるのか。ちょっと間違えただけで、消えてしまうなんて理不尽じゃないだろうか。無理だ。このゲームには付き合いきれない。ルールは簡単なのだが、常識が問われてしまう。探偵小説の常識だ。
探偵小説には死体が付き物だ。死体がでないとミステリーにはならない。「古典部シリーズ」では死体を回避するように探偵風に話が進むが、あれはラノベだからだ。ラノベでばたばた死人がでては教育上わるい。いけない。名探偵コナンのように毎日のごとく死人がでているのでは、神経が麻痺してしまうではないか。そこかしこに転がっている死体。腐臭がするかどうかもわからない。ここにも転がっている。異常な世界だ。日常的にありえない。ありえないから目の前にあるのは死体ではあるが、視認できない。そうだ見えないのだ。見えないからこそのトリックがそこにある。
俺は、8番出口に到達した。
【完】




