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勝手に生きてます  作者: ねこまんまときみどりのことり


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その後の話 その1

 以前にルナがアイスグラウンドから戻った翌年、ユズキューレがデバルム帝国に訪れた。ルナの言う通り、夏場に馬車を走らせて。


「来たよ、ルナ! こっちは本当に雪がないんだね。ビックリしたよ」


「いらっしゃい、待ってたよ! こっちだと、雪はさすがに夏場は降らないわ。冬でもちらほらとチラツクくらいなのよ」


「そうなの? 何だか不思議ね」


アイスグラウンドでは、夏場でも一部の平野を除いて雪は降り続くので、景色がまるで違うのだった。



先触れはあったが、アイスグラウンドの王女の登場に、ルアニートとオスカー子爵夫妻に緊張が走る。あくまでもお忍びと言うが、そんな訳にはいかないのだ。

アイスグラウンドの王女に何かあれば、戦争にも繋がる恐れがあるのだ。おもてなしは頑張ったが、不安は尽きない。


でもルナはいつも通りで、ユズキューレを迎える。

何度も手紙をやり取りして、もうすっかり気心が知れていた。リオもナジェールともすぐに打ち解けていた。


デバルムやタルーシアラよりも貴族的な感じが薄く、気取った感じがないのも好感が持たれた。

何よりも彼女(ユズキューレ)は、ビーフシチューを食べに来たのだ。


「ル、ルナ、ビーフシチューは今日食べられるの?」


確かめるように話すユズリキュールに、ルナは優しく伝える。


「今日はレストランのシェフ、ナジェルダを呼んでるから存分に食べて。そして美味しい店へ行って、スイーツ巡りもしようよ」


ユズキューレは、目を潤ませて感激していた。


「良くわかるね、私の心が。まさに親友ね」

「勿論よ、親友」


わははっと笑う2人に、みんなの力が抜ける。

彼女(ユズキューレ)の護衛達は屈強な筋肉の戦士ばかりで、ずっと緊張していた子爵夫妻だった。この日の為にランドバーグの手配した護衛達自身にも、強いプレッシャーがかかっていた。


だがその戦士や護衛達は2人が微笑んだのを見て、次第にリラックスしていくことが出来た。


“大事な者を守りたい気持ちは一緒だから”



両国(アイスグラウンドとタルーシアラ)の護衛達は外出に付く以外の時間を、子爵家で剣の訓練をしたり食事をして交流を深めあう。そこには国の壁は存在しなかった。ランドバーグが送り出した護衛達は、アイスグラウンド語も巧みに話せたからだ。アイスグラウンドの兵士は、その勤勉さに舌を巻いた。


(わざわざアイスグラウンド語を練習して、流暢に話してくれるなんて。俺達はこちらの言葉を何とか話せる程度なのに。ありがたいな)


それはルナも、リオも、真面目に後継者教育を受けて来たナジェールも同様だった。子爵夫妻は付け焼き刃だったが、何とかなった。ラーニャはお姫様とお話したいと、ずっとユズキューレを待ちながら語学の特訓をし、書けないまでも会話はスムーズだった。


白銀の髪と碧く透き通る瞳のユズキューレに、

「氷の国の王女様は美しいわ」と呟くラーニャ。


「貴女の亜麻色の髪も素敵よ」

そう優しい声音で返すユズキューレ。


すっかりユズキューレファンになったラーニャは、アイスグラウンドへの旅を心に思い描いていた。


そんなユズキューレは、護衛の1人に目を奪われた。

太陽のような赤い髪とオレンジの瞳の筋肉がしっかりとした護衛だった。


「俺も実家が定食屋で、ビーフシチューは得意だよ。ナジェルダさんには及ばないけどさ」


なんて言って、自宅で作ってきたビーフシチューを毒味された後に味わうユズキューレ。


「美味しいわ。何だか懐かしい味」

「そっか、良かったよ。あんたがずっと、ビーフシチュー、ビーフシチュー言ってるから、作ってやりたかったんだ。美味しいって言われると、嬉しいな」



平民出身のアクアダーレは、はにかんで笑った。

ユズキューレは、「はうっ」と息を漏らした。



「ああっ」

と、王女の護衛からは声があがる。

簡単に恋に落ちた王女を目撃したからだ。


アクアダーレは特に目的なんてなく、頻繁に料理を人に振る舞う料理好きだった。ユズキューレも打算があれば見破っただろうが、彼のは単純に好意。


一介の護衛には混乱を避ける為に、王女とは明かされていなかった。ただ他国のやんごとなきお方程度の説明だった。


まだ貴族の対応に慣れていないアクアダーレがやらかした形。同僚からしたら、「あいつまた始末書だよ。可哀想に」程度のことだった。


そんな彼がここにいたのは、単純に強いから。


その証拠に剣術訓練の際、アイスグラウンドの護衛となかなかの応戦を繰り広げていたから。


アイスグラウンドは殆どが実力主義。

後継者となる王女の王配は、貴族・平民関係なく強い者が選ばれる。


剣技は問題ないが、ユズキューレに恋愛感情もないアクアダーレ。


ユズキューレは、急ぎ父親であるライナスに書簡を送る。

(強い婿候補を見つけたが、どうしよう)


幸いにアクアダーレは、それほどハンサムでもなく彼女はいない。人柄は良いので、友人が多い男であった。


護衛の一人が書簡を持ち、早馬でアクアダーレの為人をライナスに伝える為に走る。夏場であり、往復1か月で連絡が届いた。


“絶対逃がすな、頑張れ” が、ライナスからの返事だ。


ランドバーグも渡りに船で、アクアダーレにユズキューレとの見合いを勧めた。アイスグラウンドと縁戚となるのは大歓迎だ。


「あんな美人が俺を好き? 嘘、俺で良いなら、婿に行きます」

言質を取ったと、悪く笑うランドバーグ。

嬉しそうに飛び上がるユズキューレ。



ランドバーグからアクアダーレの両親へ連絡が行き、驚きを隠せない。届いた書簡がこれだから。


「アイスグラウンドの王女に見初められたようだ。取りあえず顔合わせに1か月、アイスグラウンドに送ります。破談のこともあるので、後日詳細を送ります」と言うのだから。


冗談だと思ったら、後日婚約が決まったと連絡が来た両親。腰を抜かしそうに驚くも、息子の意思とわかり安心する。同じような手紙を、アクアダーレからも貰っていたからだ。


ただ寒いところだからと心配する親心だ。


「あいつは意外としっかりしてるから、大丈夫だよ」

「そうね。ハンサムじゃないのに、認めてくれたお姫様だものね。きっと幸せになるわ。でも王配って、あの子が!」

「うん。俺もびっくりしているよ」



なんて言う間に、親族で顔合わせをして、彼女(ユズリキューレ)の美しさに感動する両親。


「不束な息子ですが、よろしくお願いいたします」

「ガッツだけはありますので、是非ビシバシ教育やってください」


平伏する勢いだが、ユズリキューレはそれを止める。


「こちらの方こそ、すみません。結婚すればご両親と引き離してしまいます。私の一目惚れなんです。申し訳ないです」


それを聞いて、安堵の涙を流すアクアダーレの両親。


(本当に好いてくれているのね。良かった)

(姫なのに、こんなに優しそうなんて。幸せ者ね、アクアダーレは)


恙無く話は進み婚約して交際を重ね、2年後に結婚式をアイスグラウンドで挙げ、夫婦になったアクアダーレとユズキューレ。



アクアダーレは初見でライナス国王を見た際、さすがに怖そうな鍛えられた肉体に焦った。だけれど話していくうちに、誠実さが伝わってきたのだ。


(俺の愉快な顔も、ライナス様の強面も生まれつきだもんな。顔は関係ないよな)


そしてアクアダーレは、寒さに強い特性を持っていたようだ。昔から雪が降ると外に出て、綺麗だと走り回っていた。

友人からは、犬より雪を喜ぶ男と言われていたほどだ。


寒さは感じるが、堪えられないこともないことを、お試しの1か月で証明したのだった。



そして愛する妻と子の為に、今日はビーフシチューを作る。


「ユズ、ランファン、今日はお父様が作ったビーフシチューだぞ。早くおいで」

「すぐ、行くわ」

「わーい。お父様のビーフシチュー大好き」




5才になる王女は、ユズキューレに似て、とても美しく成長している。


食いしん坊なところも、ユズキューレに似ているようだ。




◇◇◇

「ケイシー、ジェミニが大変よ。お皿ひっくり返してる」

「ちょっと待て、ルナ。ベルナーゼが俺の髪を掴んで離さないんだ」


「わーもう、マリーごめん。すぐ来てー! セシルが暴れて席から落ちそうだから、動けないの」


「はーい。今行きます。アルベーランナ、先に行ってて」

「わかりました、お母さん。ほらジェミニ、お姉ちゃんだよ」


「ね、ちゃ、ね、ちゃー。きゃっはっ♪」


数年が経ちケイシーと結婚したルナは、一卵性の3つ子を産んだ。今2才になる彼ら(3つ子)は、元気イッパイである。思った以上の大変さに、自分の元侍女であるマリーに助けを求め、同じ邸で一緒に暮らしている。マリーはカイルアンと結婚して、既に8才になる女の子がいる。カイルアンは今もレストランに勤務し続けて、後輩の指導に当たっていた。


「子育てって大変ね。まだメイドをしていた方が楽だわ。全然気が抜けないんだもの」


「でも、楽しいですよね。あと、あっと言う間に大きくなりますよ。アンベーランナもすっかりおしゃまさんになって、意外と男の子に人気があるので、カイルアンがヤキモキしてます。ふふっ」


「そうよね。大きくなっちゃうのよね。じゃあ、尚更今を楽しまないとね。後悔しないように」


「はい、その意気ですよ。ルナ」


ルナは多忙な日々を楽しんでいた。

彼女は幼い時に1人使用人棟に隠れ、孤独な1年を過ごした経験から、孤独を嫌っていた。それと同時にその際には、軽い人間不振にも陥っていた。実の父アルオが愛人のニクスと組んで、自分を捨てようとしていたから。いや実質、使用人棟(そこ)に捨てられたようなものだ。


だから、根底にいつか裏切られるのではないかという思いがあった。

実の肉親にさえ、愛されなかったから。


それを救ってくれたのは、周囲の人々だった。

最初は同僚のリンダとバネット、ランドバーグ様とボニー夫人や侍女のエイミー、農家さんのアンマン、ユリーナ、花屋のエクリストとミリア、銀行頭取のビル、メイド長カロン、家庭教師のアンナ、リオのお母さんナミビア、生地屋のタビー、マリー、ルメンド、アカザ、テレーゼ、アイルアン、ナジェルダ、テレーゼの娘さんのルアニートと夫のオスカーさん、2人の娘のラーニャ、トレシ・グンジョー公爵子息と最上級薬師オルドリン、ライナス国王とコットリー王妃、王女ユズキューレ等々のお世話になった人々のお陰で。



ランドバーグ様が派遣してくれていた、ロザンナ、マクレーンも長く助けてくれた。


大好きなイッミリーお母様。

妹のようなリオ。

兄のようなナジェール。


そして愛するケイシー。


いくら憎んでも憎んでも足りないと思っていたアルオさんは、実はとても弱い人間だった。

後に祖母だと知ったフローラお祖母さんと、祖父ジローラム。この2人がいなければ、アルオさんは産まれていないし、アルオさんがいなければ、イッミリーお母様から私は産まれなかった。


だからもう、あんまり気にしなくなったんだ。

でもまだ、父とは呼びたくないから呼ばないけど。


幼い時は脅威に感じたニクスだって、本当は大したことはしていなかったし。

まあ、幼い私を使用人棟に入れたのは、今考えても業腹だけどね。怒るとお腹がすくから、許してあげるわ。


こんな風に語ると走馬灯みたいだけど、全然違うからね。まだ20代前半のピチピチだから。



そんなルナの日常は、今日も慌ただしく続いていくのだ。



◇◇◇

ルナはあれからも精力的に活動し、投資先を応援し続けた。その為、共同経営者や時に社長業を頼まれることも多くなった。


主に食べ物の投資をしていたルナは、それ自体でも多くの収入があったが、視察や食べ歩きをして改善点を見つけたり宣伝をしてまわったからだ。


銀行頭取のビルは、最初こそルナの持つ投資先に自分も株を購入して莫大な利益を上げていたが、ある時から考えが変わった。


「どうせ投資先に食べに行くなら、駄目物件も何とかしてくれるだろう」と。


既に莫大に稼いでいるルナに、駄目物件を押し付けるビルだが、予想通り勝手に立て直しを図っていくので、当然に優良株となる。すると感謝する投資先が、社長業をルナに譲ることに繋がるのだった。


基本ルナは食べて、「う~ん、これはこうした方が美味しいわ。これを使おう。美味しくなったから、みんなに教えておくね」の流れで、周囲の人員により激流の川のように解決していくのだ。


「神はここにいた。感謝します」


なんて拝まれているのも知らないルナは、精力的に動き、仕事を終えればすぐ家に帰り子育てをする。子供達が3才を越えた辺りから、使用人を増やして共に出掛けるようになる。勿論ケイシーも一緒だ。

ランドバーグからの指示で、当然のように見習い諜報員や教育担当諜報員とが加わり、総勢数十人が陰から護衛に付く。


最早歩く身代金と化した、ルナ&ケイシー夫妻。

子供達にも、常に魔の手が迫っている。


「事業が大きくなったから人を雇うけど、ランドバーグ様が良い人材がいると紹介してくれるから、俺が面接で決めて良いかい?」


ケイシーが言えば、ルナは素直に応じる。

今までの経験から、任せて安心と思っているからだ。


「お願いするね。大変だと思うけど、ごめんね」

「愛する人の為だもの。何てことはないよ」


そう言う2人は時々抱きしめあって、息子達からもジト目で見つめられていた。


キルスタン子爵を継ぐルナは、貴族である。

社交にも宣伝目的で積極的に参加している。


その中には「働くなんて卑しい」と言う貴族もいるが、彼女の交遊関係を知る者達は、口が避けてもそんなことを言うはずがなかった。


まあ言っても、ルナが相手にしないので基本放置だが、悪意が成されれば即、いろんなところから制裁が入りまくる。実は影のドンとか、密やかに囁かれているのだ。



聡い子供達はそれを肌で感じている為、過度な我が儘は言わなかった。ルナの前では非常に良い子である。父であるケイシーは優しくて力強いが、母であるルナに対しては別格で常に母ファーストである。


物心ついた時から、その教育は始まっていた。


「俺には何言っても良いが、母さんに何か訴えるなら、まずは思考を巡らせて、間違ってないか考えてから行けよ。良いな!」

と、圧をかけられる。


勿論ルナは、愛する子供に何を言われても怯むことはないが、ケイシーは違うのだ。


(きちんとした教育がないと、アルオになっちゃうからな)


ケイシーがそう考えるのも当然のことだった。

爵位は子爵だが、金はある、顔も良いとなれば、甘やかせばアルオ一直線である。

ルナは甘やかさないと考えたいが、家族にはどうしても甘くなる。

現にイタズラしても怒らないのだ。


「子供は元気が一番ね」と言って、祖母目線で笑っている。

それじゃ、駄目なんだよ。

ジローラムは、それで失敗しているんだから。


はぁ、はぁと力説するケイシーは、今や立派な教育パパだった。


将来誰かが子爵を継ぐか、誰も継がないかはわからない。けれど3つ子は3人で肩を寄せながら、“とんでもない所に生まれちまった” と言いながら、ルナの性格に似て萎縮せずに、年相応のイタズラをしていくのだ。そしてケイシーに締められ、強く元気に育っていく。


3つ子達も、天真爛漫なルナを愛していた。


「「「将来は僕と結婚するんだ!」」」


言うても、一気に失恋一直線であるが。



ルナの大雑把は健在で、「みんな良い子ね」で終了である。無条件で惜しみ無く愛する駄目親遺伝子は、遺伝する可能性があり非常に危険なのだ。ケイシーがいて、一先ずセーフである。



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