リオ、メシャーベルへ
「お待たせ致しました。審査の結果、入場出来ることになりました。おめでとうございます」
関所の職員からリオ達の元へ、メシャーベル・アイランドへの入場許可が届いた。問題なしと判断されたようだ。メシャーベル・アイランド職員達が持つ隠密スキルで対象に近づき、経歴監査魔法を使って問題の有無を確認するのだ。発動条件は諜報する為に、一般人に交ざり半径1mに近づくこと。
ある意味、丸裸にされる状態だ。だから本人からの嘘は意味を成さない。
未だ入場出来ないアメリア達に、申し訳ない気がしたが、リオとナジェールは護衛と共に、メシャーベルの門を潜った。
そこは整備された街並みで、貴族の住むような大きな建物が立ち並ぶエリアと、美術館や高級商店街が並ぶエリアが明確に別れていた。
観光客が泊まるホテルは4階建てくらいが多く、貴族の建物に並ぶくらい重厚な外壁が施され、一目で芸術家の作品だと思われる美しい様式であった。
街を定期的に巡回する騎士も多く、騎士の詰所も多く点在していた。
中央には大きな噴水のある公園や、木々が繁る小さな森と湖と繋がる掘りもあり、犬の散歩や街歩きをしているのは、ここに住む裕福そうな人達だった。
ああ。ここは安全で綺麗だけど、私には向かない場所だとリオは思った。
それはナジェールも同じようで、迂闊な姿も出来ず周囲に気を配らずには過ごせないので、窮屈に感じていた。
護衛達も安全面では安心であるも、どこか居心地が悪い様子だった。
それでも、南の観光地最高の称号は伊達ではなく、夜の夜景や花火の競演、豪華船での湖の周遊、屋形船での食事、名のある料理人達のレストラン通り等、楽しめる場所が多かった。
アメリアと仲の良い魔法使いのマーディは、モリーバとデペンと共にこの地に来た際、旅館が出来る建物を買い取っていた。外観は高級ホテルには及ばないが、建物の中庭には石造りの庭園があり、その中央の池には鯉が優雅に泳いでいる落ち着いた雰囲気だ。リオ達がこの地に滞在中は、ここに泊まる予定だ。
持ち主が高齢となり売りに出た物件で、室内はとても大切に使われていた。そして居心地の良い懐かしさがある木造の内装だった。
きっと長い時間をかけて、たくさんの人と向き合って来た記憶が建物にも残っているのかもしれない。何度リポーターが訪れても毎回期待を裏切らないように、精一杯に迎えて来た前任者の思いさえも。そんな幻想を抱かせる、素敵な場所だった。
リオ達が貴族だと知るマーディは、ここで良いのかとリオに訪ねた。
「もっと良い最高のホテルもあるわよ。本当に、ここに泊まるの?」
その問いにリオ達は、「ここに泊まりたいわ」と答えた。
顔見知りであることだけではなく、老舗のひなびた感じがリオに合うようだ。ナジェールもここに泊まることを望んだ。
立ち並ぶ高級ホテルには、屋上の展望室や遊戯施設が併設し、プールやハイブランド品の店も多く入っていた。数日見てまわっても飽きないくらい大規模。
それを知っていてもマーディの旅館を選んだことで、彼女はとても嬉しい表情で受け入れたのだ。
◇◇◇
タルーシアラ国に戻った時にルナ達へお土産話が出来るよう、毎日いろいろと見てまわった。
客船にも乗り、公園も散策しコスメやブランド品の店にも足を運んだ。
街は綺麗で治安も良く、子供だけで遊んでも危険がない様子だ。
「ここは綺麗だし、何でもあるわ。………でも、何だか味気ないのよね」
リオが言えば、
「そうなんだよね。アメリアさんとこに先に行ったせいか、何だか回りの高い服で着飾った人を見ると、気後れするし。ずっとこの旅館にいたいくらいだよ。ここは落ち着くけど、外は疲れる。アメリアさんところは、のびのび出来たよね」
ナジェールもそう答えた。
護衛のロザンナ、ガルード、コーマは、仕事なので文句など言えない立場だ。けれど、ポツリと言葉が漏れる。
「アメリアのところは、何だか楽しかったな。いや、旅館も良いけど、アメリアとグルーニーと飯が食いたいなぁ」
「ええ、本当よ。彼女達も来れれば良いのにね」
「あの2人はもう、すっかりこの国の住人なのに、入れないなんてな。ここは本当に、特別区なんだな」
治安が良いのに越したことはないけど、度が過ぎればつまらなくなるのかもしれない。もっと年齢があがり、ここで生涯を終えるか、子育て家庭か、物見遊山で観光で来るくらいの人には丁度良いだろうが。
若い者にとっては、落ち着き過ぎる場所かもしれない。
育つ子供にしてもここが基準になれば、将来的におおいに苦労するだろう。全てに守られた場所は、とても珍しいのだから。
勿論この場所が合う人には天国だろう。
金銭と人格が必要なこの場所には、長く居られる人は多くないのかもしれない。
◇◇◇
結局、一通りメシャーベルを見学した後は、またアメリアのところに遊びに来たリオ達。
この国では刺繍よりもビーズ編みがメジャーらしく、髪飾りやブレスレット、アンクレット、服の模様にもビーズが使用されていた。貴族女性には宝石が重用されているが、平民や若い貴族女性にもビーズ人気は浸透していた。
アメリアもここに来てから近所の主婦にブレスレットや髪飾りの作り方を習い、適当に作成して使っていた。明るい色は光が反射して、身につける人をキラキラさせるので人気らしい。
リオとナジェールはアメリアに習うも、複雑な物は出来ないと言われたので、販売している物をお土産と自分用にわりと多めに、道具と共に購入した。道具さえあれば、母親に聞きながら編めるのではないかと期待して。
麻紐を細くし、魔法で強化された物が安く売られている。太さも何種類かあり、服に編み込む糸も重さに耐えられるように、魔法の糸が使用されているようだ。その他にも、装飾品にビーズを貼り付ける細工も、流行っていると言う。
リオはナジェールとアメリア、ロザンナ、マーディに手作りした物をプレゼントした。ナジェールには銀と緑のブレスレットを。ロザンナには緑の髪と瞳のオレンジ、マーディには琥珀色の髪とミルクティー色の瞳なので、その色を多めにし、バレッタに花のイラストを描きビーズを貼り付けた作品を作りプレゼントした。アメリアはよくエプロンをしているので、薄い水色のエプロンにピンクの薔薇を刺繍をし、それに小さいビーズを魔法糸で縫いつけて贈った。
「ありがとう、可愛いわね」
「私にまでありがとう」
「あらっ、私に。手作りなんて、可愛いことするじゃない」
女性陣は、軒並みみんな喜んでくれた。
ナジェールは、何だかすごく感動していた。
「ありがとう、リオ。僕も出来たら渡すからね」
そう言って、とても嬉しそうにしてくれた。
ナジェールは、手作りのプレゼントを貰ったことがない。それどころか、母親に諫言するようになってからは、遠巻きにされ誕生日さえ祝われなくなった。母親が改心した今はもう、住居は既に離れており、親子の縁はジローラムから切られている。
誕生日の時に、“匿名で悪いが、是非祝わせて欲しい” と贈られてくるプレゼントは、アルオとニクスからだった。けれど縁を切らせたジローラムが、彼らの名を告げることは出来ない。それでも匿名だと言って、手紙とプレゼントが来ていることを告げられた時のナジェールの頬は、綻んでいたらしい(後にジローラムが話してくれたそう)。
本来次期当主に、怪しい物は渡さない。
渡しているのは、そう言う意味なんだろう。
両親からの贈りものは、高級なものではなく、彼が幼い時に好きだったプリンやお菓子だ。今でも好きには好きだが、今はそれ以上に好むものがあるのだ。2人が知らないだけで。プリンは人気の洋菓子店から買われたものだった。嬉しいことには違いないけれど、ずいぶんと距離が離れたことを感じる。向こうからしても、今さら聞けないのかもしれない。
だからいつも隣にいる、リオからのプレゼントがとても嬉しかったのだ。
そのお礼にナジェールは、リオへのプレゼントを作っていた。精一杯の感謝と愛を込めて。
ナジェールには男女の愛がまだ、どんなものかわからない。だけど他の人とは違う愛おしさを、確かに持ち始めていた。




