アメリアとリオ
アメリアの家に訪れたリオとナジェールは、素朴な家に驚いた。
「うわー、素敵ですね。真っ白いお家」
「良いでしょ? この街は日射しもキツいから、反射するように白い家が多いみたいね。まあ、私はずっと、長く住むなら白い家と決めていたけどね。ニシシッ」
「大勢でご迷惑じゃないですか?」
「だから遠慮なんていらないって。孫は婆ちゃんに甘えるもんよ。って、今までずっと構えなかったけどさ。だから、話でもしようよ」
「是非とも。いろいろ聞かせて下さい」
「良いよ。そのうち、グルーニーも帰ってくるからさ」
外壁は白いペンキで塗られ、屋根は赤く煙突は茶色。
中に入れば突き当たりは、階段に繋がっている。
10畳程のリビングと5畳のキッチン。
個室は1階の左奥に10畳の部屋が1つ。
2階に8畳の部屋が3つ。物置部屋が1つあった。
トイレは1階、2階に1つづつ備えられていた。
浴室は1階の右奥にあるそうだ。
小さな庭には花壇があり、犬小屋にはコリー犬『ジル』が人懐こい顔でこちらを見ている。
みんなを部屋に案内したアメリアは、アイスケースを乗せる荷台が仕舞われている物置から荷台を出し、馬が寝られるように藁を敷きつめて場所を作ってくれた。バケツに新鮮な水を入れて、人参を4つ程食べさせながら“可愛いね ”と背を撫で終えた後、馬食用の草も準備してくれていた。
侯爵邸の10分の1程もないが、それでも満ち足りた雰囲気が漂い、不足な物など無いように思えた。
アメリアに案内された後、好きな部屋で寛ぐリオ達。
ナジェールが1部屋。リオとロザンナで1部屋。護衛のガルードとコーマで1部屋を使うことにした。
本来なら、リオが1人部屋であることが望ましいが、そうするとロザンナが男性と同室になってしまうのだ。ロザンナは野宿も平気なので、部屋はどうでも良いと言うが、リオがロザンナと同室を希望したのだ。
勿論、侍女としての彼女を望んだ訳ではない。
リオはルナとしか外泊したことがないから、女性とゆっくり話をしたいと思ったのだ。幸いなことに護衛人とは、長旅で気心はだいぶん知れて来たと思う。
それに何となく、ナジェールは1人の方が良い気がしたのだ。
◇◇◇
「ただいま。あ、みんなに会えたんだね。じゃあ、今日は宴会だ!」
「私はアイス以外作れないから、着いてきてね」
「「「「「はい。ご馳走になります」」」」」
仕事帰りのグルーニーが、待ち構えていたように笑顔で来客に挨拶をして来た。
残念ながら普通食くらいなら作れるグルーニーだが、ご馳走を大量に作るスキルはない。その為、外食一択となった。
歩いて10分くらいの所に、美味しいと評判の大衆食堂があると言う。
てくてく、てくてく、てくてく、てくてく。
近隣の街と同じように、この街の夜も半袖で丁度良い気温だ。
貴重品だけ持って、みんなで歩く。
ジルは留守番。
アメリアとグルーニーの認めた人以外には牙を剥くそうなので、一先ず安心だ。
着いた先は、店の前に大型テントをいくつも繋げたテラス席だ。
テント天幕の端にお祭りの提灯のように、魔道具を並べて下げて明かりが照らされる。虫除けの香が焚かれ、テントに害虫も寄りつかない。
全員で席に着き外を見れば、暗くなった空に無限に続く星ぼしと月が、スパンコールを散らしたように煌めいていた。空を映す昼とは違って暗い湖も同じように煌めくのだ。
ここを一度知った人は、この景色が忘れられず遠くから再び訪れるのだろう。
「ここまで、お疲れさまでした。何でも好きな物を頼んでね。明日からは屋台で買った物とグルーニーの作ってくれる粗食だから、遠慮しないで飲み食いしてね」
「はい。ご馳走になります」
「ありがとうございます」
「おー、大きいお肉だ。この地域の牛か? 脂がのって旨そう」
「魚も新鮮ね。これって、生でしょ?」
「ああ、酒も旨い。濁り酒か? この地域特有の味だな。料理と合うぞ」
リオとナジェールが景色に感動しているうちに、ロザンナ、ガルード、コーマは、料理にかぶりついた。
花より団子である。
そんな私達を見て、微笑んで頷き合うアメリアとグルーニー。
仲良く乾杯して、ビールを飲んでいるようだ。
リオはアメリアを見たことはあっても、グルーニーとは初対面だ。けれどさすが双子だけあって、ジローラムにそっくりだった。違和感はあまり感じない。ジローラムと言われれば信じてしまうだろう。
何よりリオは、ジローラムとも関わりが薄い。
実の父なのにだ。
ナジェールは仕事でジローラムと関わってきたが、あくまでもビジネスライクだった。素で接することは少なかった。
だから不思議だった。
ここにいるアメリアとグルーニーは、リオやナジェールだけでなく、護衛の人にも気軽に声をかけてくれるのだ。
昔からの仲の良い知り合いのように、心から歓迎してくれているのが解るのだ。
だから暫く果実酒を飲んだ後で、聞いてみた。酔った勢いでリオが。
「どうしてこんなに、良くしてくれるんですか?」と。
そうしたら、アメリアとグルーニーはこう答えたのだ。
「私は、大事な孫に会わせてくれたからよ」
「ここまでナジェールを守ってくれて、ありがとう。俺の愛する孫に。遠くから見守ることがあっても、一生話すことはないと思ってたよ。………本当に嬉しいんだよ。それにリオは私の姪だ。君に正面から会えたことも、奇跡みたいなんだ。来てくれてありがとうな。
俺はアルオが君達と侯爵邸に来てから、商人に変装して何回か侯爵家に荷物を運んだもんだよ。酷いことにアルオは全然良いとこなしで、リオルナリーと君の違いにも気づかないような男になってしまった。
今さらながら、申し訳ないと謝るよ」
謝って欲しい訳ではなかったリオ。勿論ナジェールも。
「僕達は、謝罪なんていりませんよ。その………ランドバーグさんに、お二人のことを聞きました。だから、もう大丈夫です。本当に生きて会えて良かったです」
「そうですよ。私なんてジローラムさんが父親だってことも、ずいぶん後で知ったんですから。ジローラムさんにさえ、きちんとした謝罪なんてないんですから。グルーニーさんは謝る必要は皆無です。可哀想だとしたら、まあ、それはルナ、えーとリオルナリーですね。だから私は大丈夫です」
そう言うリオ達を見て、アメリアは“しょうがないのがいるわね ”とばかりに、溜め息を吐いた。
グルーニーは、「ナジェール、なんて良い子」と泣き出していた。
アメリアはいろいろ割りきっていたが、グルーニーはいつも孤独だった。だからこそ、ナジェールに会えて嬉しかったのだろう。
「こんなジジイは嫌だろうけど。一度抱きしめて良いかい?」
ジローラムに似ているせいか親近感が強い。
だから抵抗なくナジェールは答えた。
「僕も会いたかったです。お祖父様」
二人は煌めく星空の下、強く抱き合った。
その温もりが嬉しくて、ナジェールも涙していた。
50代のグルーニーは鍛えられし肉体で、ジローラムより若々しく、とても頼りがいを感じられる。
二人の包容を横目にして、邪魔しないように料理を食べるアメリアとリオ。護衛組は強いお酒をお代わりして、酔って大笑いし、こちらの方に興味がない様子だ。わざとらしい感じもない。
リオは何となく、さばさばしているアメリアを気にいっていた。母親のナミビアこそ、危険を避ける為にジローラムから離され、肉親からも縁を切られていた。
幼い時は下町のおばちゃんが、リオのおばちゃんみたいなものだ。血縁とは縁がないと思って生きてきた。
だけどアメリアは実の父親が傍にいても不幸だった。それどころか、奪われるだけだった。貞操も仕事で失くし、父親の仲間に命まで狙われる始末だ。けれど微塵も不幸そうにせず、いつも笑っているのだ。
(ああ本当。過去なんて振り返っている場合じゃないわね。楽しんだもの勝ちなんだわ)
そう思い、リオでも飲める果実酒を2つ持ち、アメリアに差し出した。
「女同士、一緒に飲みませんか? 私の夢とかも聞いて貰えると嬉しいのですが」
おっと、意外そうな顔をしたアメリアだが、一瞬にして破顔一笑した。
「ええ、ええ、聞かせてよ。若者の夢、聞きたいわ。あんたも大概、不幸を背負ってきたからね。出来ることなら手伝ってあげる」
少し酔ったアメリアは、年齢のわりに若々しく艶っぽかった。
「じゃあ、まずは」
「「乾杯!」」
こうしてアメリアと服飾店のことから、ニクスが働くレストランのこととか、アルオが真面目にやっていること等を話まくっていたリオ。アメリアも負けじと、殺し屋に狙われたことや応戦したことを、飲みながら話していく。
周囲の人は、酔っぱらいの戯れ言として聞いてはいない。なんなら全員酔っているから。
観光地で成り立つ、レイザヴァニーの街を守る店主達は怪しい者がいれば排除していた。しらふの者や聞き耳を立てそうな者には、飲み物に薬を混ぜて知らぬ間に眠らせていた。アメリアファンの伯爵家の諜報員も、この店では歯が立たなかった。
そして楽しい夜は、更けていくのだ。




