リオ、混乱する
11/5 11時 誤字報告ありがとうございます。
大変助かります(*^^*)
今はメシャーベル国に行くための旅をしている、リオとナジェール。
その途中にリオから近況が書かれた手紙が届き、1度読み終えるが、その内容に理解が追い付かなかった部分があった。
詳細が省かれたルナからの手紙に、リオはう~ん、う~んと左右に首を傾けながら唸る。
そして最後の部分をもう一度読むが、
「リオに、デバルム帝国の第二夫人になれと打診が来たけど、断っておくから心配しないで」と言う内容に間違いはなかったようだ。
結構重要な内容の筈なのに、2行で終えていた。
え? デバルム皇帝の第二夫人?
断る? ルナが?
いろんな? が飛び交う。
そして「何だこりゃあ!」と、叫んだのだった。
普通に考えてもルナは今、子爵令嬢だから下級貴族に属する。デバルム帝国の決定に対して、異議なんて言えない筈なのだ。
いつもは令嬢らしく振る舞うリオでも、さすがの内容に思わず下町言葉が出た。
元々が、下町生まれの下町育ち。
母親不在時は周囲の世話焼き達にお世話をされ、近所の幼子の面倒をみながら過ごした幼少期は、いつになっても消えない楽しい記憶だ。
声をあげたリオは、一瞬にして今の状況を思い出して口を押さえた。
馬車で隣に座るナジェールに顔を向けると、ビックリした顔から一転、顔をくしゃくしゃにして笑う彼が目に入った。
「ああ、ごめんごめん。いつもはすましているリオが、そんなに慌てるから何だか可笑しくて」
謝っているナジェールだが、笑い声は止まらず愉快そうだ。旅を続けるうちに堅苦しい呼び名を嫌ったリオは、まずナジェールに様付けを禁止した。
いつまでもリオ様だと、気が休まらない。
それに今のナジェールは、リオの身分で旅をしている。リオは次期後継者と言われるナジェールではなく、リオルナリー(本当はリオ)の従兄である。彼もジローラムの養子に入ったのだから、様付けだと可笑しいのだ。そして口調も然りで、変に丁寧過ぎれば、リオルナリー(本当はリオ)が意地悪をしていると思う輩も出るだろう。
なので今はナジェールと共に、なるべく対等に話そうとしている最中なのだ。
ナジェールも元々は下町っ子だ。
アルオがいろいろとやらかしていたから、幼い時から金持ちに囲われている母とその息子のように見られて育った。
誘拐騒ぎが起きてアルオが貴族とバレるまでは、のほほんと暮らしてきた。愛人で囲われている人なんて、綺麗な女なら間々あることだったから、珍しくなかったから。
だからナジェールも本当は、その口調の方が楽に話せるのだ。
思えば2人とも貴族の庶子で、貴族の矜持なんてものは皆無だ。いつだって、生きる為に懸命だったから。
だからいつの間にか、心を許しあえたのかもしれない。
今のナジェールは、髪を黒く染めたリオ。
彼は今、リオ(今はリオルナリー)の本当の戸籍を使っている。
本物のリオルナリーは今、ルナであり、本物のリオはリオルナリーの戸籍を使って生きているのだ。
ランドバーグに正式に変更された戸籍は、二度と元には戻れない。反論などすれば、あっけなく粛清の対象になる立場にあるのだ。
それは自分だけではなく、多くの人々の人生をも巻き込むから、逃げることは出来ない。
怖いことではあるが、これは自分達を救う方法であったことは十分理解しているので、不満などはない。
思い出はいつも心にあり、母親であるナミビアも幸せなのだ。
それでも、自分の戸籍が赤の他人ではなく、目の前の人が使うことに安堵を隠せない。その名が呼ばれる度にリオは捨てられた名前じゃない、生きているのだと思えるから。
たとえ偽って生きるとしても、以前の名に愛着を持っているのは仕方がないことだろう。ずっと共に生きてきた証なのだから。
なんだかんだで、その後も打ち解けていくのだ。
「そんなにこんな言葉が好きなら、ずっとこんな風に喋るわよ。良いの?」
「ああ。それは嬉しいなぁ。自然に息が出来た昔の自分に戻れそうだから」
「息が? ………そう。じゃあ、この旅の間は、貴族と対応する以外は下町言葉にしましょう。………私も楽だから」
ちょっと俯き、恥ずかしそうに話すリオにナジェールは、微笑んで返事をした。
「ああ、ありがとう。リオは、本当に優しいね」
「もう、お世辞なんていらないわよ」
「違うよ、嬉しいんだ」
ナジェールは泣きそうな表情に変わっていたから、嘘ではないとわかった。彼の我が儘な言動など、自他共に聞いたことがなかった。
(こんなことが嬉しいだなんて。どのくらい我慢していたのかしら)
だからこそ、リオは言う。
「貴方は仮にも私の従兄なのよ。他人に舐められないように、精々対等に振る舞うようにしなきゃ。……我が儘の一つも言えなきゃ、貴族と言えないよ。それに、本当に親戚なのだから」
崩した言葉を使うリオに、ナジェールは笑顔を向ける。
「わかったよ。リオ伯母さん」
「な、なんて。今、なんて言ったの?」
頬がヒクつくリオ。
「血縁上だと、父親から見るとリオは従妹だから、僕は甥でしょ? だから伯母さ「止めて、ナジェール。私はまだ14才よ。貴方より6つも年下なのに。」」
「でもナミビアさんの年齢上、僕の年齢も14才だから気にしないで」
そう、ナミビアは17才でリオを出産していたから、ナジェールであるリオの戸籍を20才には出来なかったのだ。さすがにナミビアの年齢は今さら弄れない。
「同じ年でも同じよ。伯母さんなんて外で言ったら許さないから!」
「身内だけなら良いの? リオ伯母さん」
「な、もう、駄目に決まってるでしょ」
「ええっ、わかったよ。リオ」
「それでよろしい。あ、私ったら、伯母さんと言う言葉なんかに、こんなに怒ってしまったわ。令嬢失格ね」
「身内だけなら良いんでしょ?」
落ち込むリオに追いうちをかけるナジェールは、楽しそうだ。
「そうね。身内だもの。良いわよね」
いつもと違うナジェールの表情に目を奪われたリオは、いつでも笑っていれば良いのにと思った。
自分と同じ緑色の輝く瞳に、目が離せなかった。




