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勝手に生きてます  作者: ねこまんまときみどりのことり


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ルナ、アイスグラウンドへ

9/25 13時 誤字報告ありがとうございます。

大変助かります(*^^*)

 「うっ、寒い。ケイシー、大丈夫? 凍ってない?」

 「だ、大丈夫だけど、冬のアイスグラウンドは極寒だな。ルナこそ、平気か?」

 「平気よ。けど、早く宿に着きたいわね」

 「ああ、そうだな。頑張ろう」


ルナは今、アイスグラウンドへ行く途中だ。

護衛にシュートンとアゲンストが、ランドバークから派遣されてきた。熊も一撃で屠れるような屈強男達だ。そして山岳ガイド、マルクも雇い入れた。体型は普通だった(失礼)。


今回の旅はホッテムズ伯爵領から、魔法使いのボビーを借りて来ている。本当は精霊使いさんにも来て欲しかったが、寒さに耐えられないからと断られてしまった。その代わりにと、時間停止魔法をボビーに伝授してくれたのだ。ボビーはまだ18才で「アイスグラウンド楽しみ」と、暢気な感じだった。


そしてボビーには冷凍や冷蔵、暖房や保温魔法を駆使して貰いながら馬車を走らせている。


冬の道に適した短い太い足と、大きな蹄を持った馬に保温魔法をかけて体力の消耗を防いだり、乗車している人にも保温魔法をかけてくれた。花や食材のコンテナ毎に適した冷蔵・冷凍魔法もだ。


一見冷凍物は、外が寒いので魔法なんか不要に思えるが、マイナス30度だと凍り過ぎて、食べ物の繊維を傷めてしまうので魔法が必要なのだ。そんな感じで魔法を駆使してここまで来たが、ボビーの魔力はもう限界らしい。

ポーションを飲み続けていたが疲労困憊だ。

こんなに連続して魔法を使うことなんて、普段は考えられないだろう。


食品や花は半日魔法が続くが、人間や馬にだと強く魔法をかけられず身体強化に近い発動なので、2時間が限度だそう。馬車の室内にも保温をしてくれているから休む暇もないのだ。だからルナはその努力に報いるように、「片道づつ金貨10枚追加しますから、何とか頑張ってください」と、声をかけたのだ。酷な願いだが、若いボビーは元気が出たようだ。「死ぬ気で頑張ってみます」なんて言う。

途中で死なれると困るので、辛くなる前に伝えて欲しいと言った結果が、今だった。


魔法が切れた状態はとんでもなかった。

商品は無事だが、馬と人間は顕著に震えた。

馬が動かないと馬車が止まるので、何とか馬2頭分だけ保温魔法をかけて貰った。予定ではあと1時間弱だそう。


「いつもはもっと過酷ですよ」と笑っていたガイドのマルクも、魔法が解けた途端に無口になった。この寒さが通常だが、途中まで快適だったので、余計に辛いのかもしれない。


衣類は厚手の物を用意していたので、羽織って寒さを凌いで貰おう。


手も足も凍えそうだが、万全の準備はしたつもりだったがこの状態。アイスグラウンドは大袈裟ではなく、人を選ぶ厳しい自然に覆われていた。


ガイドの言う通りに移動を続け、何とか宿に辿り着くと、宿屋のご夫婦も驚かれていた。

「こんな寒い時期に来るなんて、緊急のようなのかい?」と。


付いた途端に、

「助かった」

「寒かった」

「地面最高」

「やっと、暖まれる」

と、返答より先に安堵の気持ちが漏れたのは、許して欲しい。護衛の2人は特に乱れた様子はなく、泰然としていた。さすがだわ。


遅れながらも(ルナ)は素直に、「学園の冬季休暇なので来た」と言えば、わざわざご苦労様と労ってくれる。卒業論文でも書きに来たんだろうと思われているようだ。



これもご縁なので、馬車に乗せている商品を試食して貰った。宿は薪ストーブで熱いくらいだった。その熱は厩舎にも伝わり暖かいので、馬達もリラックスしていた。


そこにアイスを取り出し試食して貰う。

寒い北国でアイスを食べる発想はないようで、最初はあまり良い反応ではなかった。けれど無料だしと食べ始めると、あっと言う間に空になった容器。


「美味しかったよ。ストーブの前で食べるのが良いな」

「味もさっぱりしていたわ。え、果物を凍らしただけなの? すごく甘かったわ」


なんてご意見を頂けた。

同じ宿に泊まるスキー客にも試食して貰ったら好評で、今度は農家さんまで食べに行くと約束してくれた。バンバン宣伝してくれるとありがたいな。


たぶん宿では必要がないと思う、切り花のコンテナを見て貰うと、すごく綺麗な花ねと宿屋の奥さんと泊まり客が喜んでいた。1本づつラッピングし、好きな花をプレゼントした。

「コンテナに適温の魔法がかかっているの。寒いと枯れてしまうから、お部屋に置いてね」

それでも2日くらいが寿命だろう。

泊まり客は山スキーに来ているので、1週間は滞在しているらしい。 


機会があればカトレイヤ造園商会を覗いてみてと、紹介しておいた。花の香りの化粧品、乳液、日焼け止め、練り香水、エッセンシャルオイル等も見て貰う。


小瓶に入れた試供品を渡すと、歓声があがる。

その反応を見れば、この国にはその手の商品が少ないのだと解る。若しくは種類がないのだろう。




◇◇◇

宿泊する部屋は男性が2人づつ1部屋で、(ルナ)は1人部屋だ。


食事の為に大広間へ行くと、山で狩った鹿のステーキや氷海で釣ったばかりの小魚の天ぷらを振る舞われた。畑は雪で真っ白だが、野菜類は(むろ)で保管されており、今でも鮮度を保って食卓を賑わせてくれた。何時間もストーブで煮込まれた野菜料理は旨味がたっぷりだ。他にも深い雪の下で外気温から守られた野菜は、甘味を増していて、生野菜のサラダを食むと最高に甘かった。

雪の中は意外に暖かく、野菜は成長を遅くして生き続けるそうで、それが甘味に繋がるようだ。


これを見れば、野菜の需要はそれほどないと思うし、逆に初めてこんなに甘味のあるものに出会った。これを持ち帰る方がお土産になりそうだ。


ただ果物は別らしく、厩舎と同じように家の暖気を送って作る温室や室内での栽培に限られていた。外の木でなるのは、アイスオレンジと言う眼鏡のレンズくらいの大きさのこの地域限定のもので、細かい種が多く食用には向かないが森の動物達の栄養源になっているそうだ。高い木の上にあり、下からかなり揺らさないと落ちない。まるで冬は餌の取りづらい、鳥や小動物達の為みたいに。


そんな訳で、果物類は需要があるかもしれない。



休息と言う名のリサーチは続き、今日は何件かの家庭を訪問し、刺繍作品を見せて貰うことになった。宿屋で試供品や試食品、売り物の菓子類もたくさん振る舞ったお陰で、宿屋の奥さんから協力が得られたのだ。


「うわぁ、本物みたいです。春の草原のようです」

「確かに。こんなに大きい刺繍は、見たことがないよ」


私とケイシーは主婦の刺繍を見て、感動して声があまり出せなかった。

シーツくらいの大きい布一面に、暖色で彩られた花模様が広がっている。どのくらい時間をかけたのだろう?


「これは売り物なのですか?」

思わず声がでた。


すると彼女は、答える。

「え、これが? 冬は時間があるから、暇潰しよ。内職なら毛糸で編んだ物が売れるわね。ほら見て、綺麗な模様でしょ? お嬢さんは、この桃色のセーターが似合いそうね。暖かいから1枚どう?」


本当に模様が綺麗で、2つと同じものがない手編み作品だ。この地にいる人はオーダーメイド作品を普段から着ている。ある意味とても贅沢だと思う。

家庭のお母さんやお婆ちゃんが、家族の為に編むのだ。


「私はあまり上手じゃないから、この地に嫁いだら家族は可哀想ね」

「? 俺なら、どんな仕上がりでも嬉しく着るよ。編んでくれるの?」


寂しく溢すたとえ話に無理矢理入り、手編み服を要求したケイシーは笑っている。


「いくら雪景色が綺麗でも、ここにルナが住むことはないよ。俺が離れないから。………一緒に住みたいと言うなら、検討するけどさ」


「ありがとう、ケイシー。私はデバルム帝国にちゃんと戻るよ」


私も思わず笑ってしまった。落ち込んだのを察してくれたんだろうな。


私は手先が不器用だ。

お金がない時に服や小物は何とか作ったけど、刺繍糸は高いし、その時は教えてくれるお母様もいなかったから、触れる機会がなかった。私が出来るのはお母様に教えて貰った基本ステッチだけ。お母様が刺繍をするのを楽しそうに見ていたけど、他のことが楽しくて後回しにしてしまった。走り回って遊んでいたから。

編み物だって適当にしか習ってないから、タビーに手袋を編むのが大変だった。使って欲しいから頑張ったんだ。


ミシッ、ミシッ、ギシッ、ギシッと、雪の上を歩く度に不思議な音がする。デバルム帝国にも雪は降るが、ここのように1mも雪は積もらない。すぐに溶けてしまうから。


吐いた息は白く、喉も鼻の中も凍りそうに寒い。

けれど空は何処までも水色で、雲も風に流されて留まってはいられないようだ。

木の枝に雪が積もり、まるで雪がなる木のようだ。

地面も山も木も家の上にも雪で真っ白で、幻想的な気分になる。


そこをケイシーと手を繋いで歩く。

一歩、一歩、転ばないようにゆっくりと。


いろんな思いを胸に宿まで歩く。

宿屋の奥さんが先頭で、次に私とケイシー、後ろにシュートンとアゲンストがいる。


マルクとボビーは、宿屋でお酒を飲んで暖まっている。ゆっくり休んでて貰うに越したことはない。まだ移動は続くから。


シュートンとアゲンストはランドバーク様と同じくらいの年代で、屈強で強面だけど目元が優しい。私を孫のように見てくれているようだった。でもケイシーには視線が厳しいのは、同僚の括りだからなのだろう。



数日泊まっているが、ゆっくり眠っていた私とは違い、他の人(マルクとボビー以外)は、早起きしていたらしい。


たまたま窓の外を見たら、ケイシーとシュートンとアゲンストが木の枝で訓練をしていた。


「あ、ちょっと、待って! 2人は無理だ」

「はあ? そんなことで、あの方の養子が務まるか! 気合いを入れろ!」

「そうだ、気合いだ! 気合いだ!」

「剣術トップの2人が、何言ってんの?」

「情報が古いな。私はもうトップではない。息子に変わったぞ」

「俺も既のところで負けた。息子に」


ニヤリと笑う2人にケイシーは追いかけ回されているが、この地でも冬に出る猛獣相手に訓練は欠かさないようで、珍しいものではないようだった。泊まり客も、“平和の為に頑張ってくれ騎士様 ”と、応援しているくらいだ。


「あらら。ケイシーったら、朝から頑張っていたのね」

あくびをしながら眺めていると、気づいたケイシーが微笑み手を振ってくる。


「ちゃんと暖かくしてろよ。風邪引かないように!」


剣の稽古中だったので、気を抜いたケイシーは2人に枝を当てられていた。


「剣も避けられんのに、余裕だな」

「今のが剣なら即死だぞ」


そう低い声で言われ、シュートンにランニングに連れ出されて行く。アゲンストだけが宿に戻って来た。私の護衛だから、2人一緒には行けないのだろう。


私は身支度を整えて、廊下で待つアゲンストに挨拶をした。


「おはようございます、アゲンストさん。朝からご苦労様です」

「いいや、これも日課なのだ。それに寒いと気合いが入るよ。体を動かさないと凍りそうになるからな。わははっ」


どうやら寒さは同じように感じているみたいで、何だか安心した。寒くてもそれを悟らせないように、制御した姿でいるのは格好良く思えた。


宿に着いた時の私とケイシーは、寒さ丸出しだった。もしもだけど、敵からしたら弱そうだし、我慢できる貴族から見たら見苦しいと思われてしまうだろう。


それが解っただけで、一つ大人になった気がする。

理論で解っていても、実際に経験しないと身に付かないこともあると知ったのだ。



そして戻って来たケイシーとシュートンさん。

疲れていても息も乱さないシュートンさんと、「はぁ、はぁ、死ぬぅ」と苦しげなケイシー。


シュートンさんは格好良いと思う反面、“私の我が儘でここまで連れ出してゴメンね、ケイシー ”とも思う。


どんなにズッコケていても、最早、格好悪いなんて思えない私なのだった。



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