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勝手に生きてます  作者: ねこまんまときみどりのことり


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ルナの婚約

 「じゃあ。リオはナジェールとロザンナと一緒に、メシャーベル国へ視察ね。私とケイシーは、アイスグラウンドへ試作品を売りに行ってくるから」



ナジェールは、騎士団での基礎訓練を終えた。各国の言語の読み書きを平行して教育され、他国での初級程度会話や知識も習得済みだ。


この国へ夏に来てからいろんな出来事を乗り越え、今は冬季の休みに入ったばかり。

ルナとリオはまだデバルム帝国の学生なので、遠方に行くには冬休みや夏休みなどの長期休暇が必要だった。

だが2人の留学は、デバルム帝国の文化を学ぶことが目的なので、学園に届けを出せば休んでも認められるし、休学にも寛容であった。



ルナは今までも、自国の農業製品やカトレイヤ造園商会の商品を売り込む為に、デバルム帝国のいろいろな村や街に出向いていた。

リオもナミビアの作製したデバルム帝国風の衣類を、ルアニートのつてで貴婦人にプレゼントして感想を聞いていた。そして、どんなデザインや配色が好まれて、定期的に流行るものはどのような型なのかを知っていく。

リオ自身も刺繍が得意なので、デバルム帝国でメジャーなものや花のモチーフをルアニートから学び、ハンカチや服等に施していた。



今回は長期休暇を利用し、ルナとリオはそれぞれに別の国に行くことにしたのだ。


アラキュリ侯爵家の監視を続けていたロザンナとマクレーンだが、今ロザンナはルナ達と共にここの子爵邸にいる。アラキュリ侯爵家の状況が落ち着いたので、既知であるロザンナとマクレーンをデバルム帝国に送るつもりだったランドバークだが、マクレーンが抵抗した。


「今はナミビアさんと大事なところなんだ。結婚したら何処でも行くから、今は待ってくれ」と、ランドバークに拝み倒したそう。


以前に今後の対応を話し合う場を持った際、ランドバークはマクレーンの立場を、はっきりとではないが明かしていた。当然ナミビアもリオもそれに気づいていた。気づいていないのはルナくらいだが、それは一旦置いておくとして。


もともと惚れっぽいマクレーンだが、彼女の生きざまや美しさに心底惚れてしまったらしい。以前は目立たないように黒く染めていた髪色を元に戻したので、金髪の顔色は明るく女神のように思えた(マクレーン)


休みの日には服を買いに彼女の店へ行ったり、花束を渡したりと頻繁に顔を出す。その様子はデバルム帝国に行く前のリオにも目撃され、「お母さんを幸せにしてくれるなら、応援します」とまで言われていた。


ただナミビアは恋愛面に不馴れだった。

家が裕福ではない貴族だったので、若い時から働きに出ていたし、年上好きなので同じくらいの年齢の男性には気持ちが動かず、恋愛経験がなかったからだ。


ジローラムとの件は、ある意味事故である。

元はただのファン的な好きだったから。


だけれど年月が経ち、自分と同じようにマクレーンも年を重ね、ダンディーフェイスになりつつあった。


その変貌に、ナミビアは密かに胸が高鳴っていた。

(マクレーンは執事が出来るほど優秀だし、頼めば鎖付きのモノクル(片眼鏡)をかけてくれるかもしれないわ)


濃紺の肩まである艶やかな髪と、同じく明るめの青い瞳を持つ爽やかさは何年経っても同じで、髪色のせいか落ち着いた感じで(彼女には)見えていた。


そして何より、自分(ナミビア)を1番大切にしてくれるのだ。そんな訳で付き合い出した2人だが、清い交際を続けていた。


ナミビアは美しく店を持ち、仕事が出来る女性でモテる。

マクレーンも侯爵家の執事をしている美形だから、当然にモテる。


「身をひいた方が良いかしら」と悩むナミビアと、好き過ぎて強引に出来ないマクレーン。



そんな時期だったらしく、デバルム帝国行きに抵抗を見せたのだ。


「えー、仕事は?」と、からかうように漏れるランドバークだが、元よりケイシー、ロザンナ、マクレーンには監視と緊急時の援助くらいしか依頼していない。

もっと暗く生死に関わる汚れ仕事は、高位貴族のランドバークの側近達が動くからだ。僅かなミスもないように。


なのでまあ、マクレーンの仕事は替えが利くものだと言って良いのだ。だからランドバークは思った。

諜報のことを他言出来ない誓約書を交わし、諜報員から解放してやろうと。


保護対象が子供だったせいで、諜報員が侯爵邸に十年近くに固定されてしまった。本当はその年月で、仕事内容も他の過酷なものに上がるか、誓約書を書かせて解雇するかだったはずだが、その期間が延びてしまったのだ。


「まあさ。元々彼らは優しすぎて、諜報の仕事は長く続かなかっただろうし。大きな失敗をする前に、纏めてクビにする時期かな? 丁度みんなも、他の仕事につけそうだし」


ランドバークは彼らの保護者として、今後のことを考えていた。





◇◇◇

「ちょっと、聞いた? マクレーンは諜報員クビですって。何か、へましたのかしら?」


ロザンナは興奮気味でケイシーに声をかけた。


「さあな。でも無理矢理じゃなくて、ランドバーク様と話し合ったみたいだから良いんだよ、きっと」


落ち着いて話すケイシーに、情けなく顔を歪めたロザンナは重ねて聞いた。

「あんたはどうするの? やっぱり辞めて、ルナと一緒にいる為に商人とかに転職するの?」


ロザンナもケイシーと同じ庶子だ。親が早くに亡くなり親戚に使用人のように扱われ、貞操さえ奪われてさ迷っていた所をランドバークの保護されていた。彼女はランドバークを神のように思っており、諜報員を外されたら捨てられると思っていたのだ。


「ランドバーク様は、俺達を見捨てないよ。たとえ諜報の仕事から離れてもな。

それはおまえにだって、とっくに解っているだろう。

きっと他の道を見つけても、応援してくれるさ。俺だって、ランドバーク様だって、マクレーンだって、おまえとは家族みたいなものだから、その絆は生涯切れない。だから良いんだよ。好きなことをしても」


優しい口調に涙が落ちるロザンナ。

(本当は解ってるの。自分に諜報員が相応しくないことを)


何度か先輩と貴族の邸に調査に入った時、気づかれて潜入先の護衛を殺したことがあった。人身売買にも手を染めていた貴族の屈強な護衛だから、生かしておけるような手加減も出来ずに。複数人いたから、ロザンナも躊躇なく首の血管を切りつけて、屠ることを繰り返した。


そしてその夜、何度も何度も泣きながら手を洗った。指も手もまだ、血に汚れているような気がして。


人間には2種類いると、ランドバークは思っている。

生きる為には躊躇なく殺せる者、仕方なくそれを受け入れる者。………そして仲間の為にそれが出来ても、心が死んで行く者。


ロザンナは心を殺す者だ。優しいのだ。

だからこそ、ランドバークに出会う前も、虐げられても傷つけられても逃げるだけで、相手を傷つけようとしなかった。


それだからこそ、アラキュリ侯爵家への諜報として送り込んだのだ。ケイシーとロザンナは知らないが、料理人ケイシー、護衛のロザンナ、執事のマクレーンの他に、庭師グレバリー、侯爵家護衛10人中の3人が諜報員だ。

その護衛の1人はロザンナで、他にミザリ、リックがいる。

家令や会計士・弁護士はアルオの知人・友人達で固められ、そこには諜報は入れなかったが。



そんなグレバリー、ミザリ、リックは、若手諜報員を守るベテラン諜報員でもあった。アラキュリ侯爵邸で、きな臭い出来事があっても、ロザンナやケイシー達に知られる前に処理は完了していたから、ケイシー達は「今日も平和だな(ね)」と過ごしていた。さすがにマクレーンは気づいており、 ”自分には手際よく屠るのは無理だ” と半ば諦めていた。


不穏な気配に気づけない時点で、ケイシーとロザンナには暗殺系の諜報は無理なのだった。



ランドバークもベテラン諜報員達も、自分達の子供のように厳しくも暖かく見守っていた。それに気づかなくてもその気持ちは伝わっているから、ケイシーもロザンナもマクレーンも人に優しく出来るのだ。否、出来るようになったのだ。



その後ロザンナは諜報員を辞めて、リオ専属の侍女になった。諜報員を辞めても、ランドバーク達との交流は続いていく。


しかしケイシーは諜報員を辞さず、今後もその世界に身を置くことにした。様々な情報を得て己を強く鍛え、資金を作り出して大事な人を守れるように。


『ルナの為に』


既にルナは本人の思いに反し、子爵令嬢の立場ではあるが、多くの投資金を得る大富豪である。極力秘密裏に動いているが、知る者は彼女の存在を知っているのだ。それに人脈もすごい。

デバルム帝国では、グンジョー公爵子息と最上級薬師オルドリン、ルアニートとその夫オスカー・フランベル子爵。タルーシアラ国のアラキュリ侯爵のリオルナリーと、最近侯爵家に養子に入ったリオ。一部では庶子だったナジェールよりも、リオとリオルナリーが結婚して侯爵家を継ぐのではとないかとも言われていた。そうなれば、次期侯爵とも繋がりが出来ることになる。



当然に夫になりたい候補者や商売で繋がりが欲しい者、詐欺を目論むものも多くなる。危険が増大したのだ。



その不安を解消すべく、デバルム帝国の会談に来ていたランドバークは、フランベル子爵邸に訪れて2人と顔を合わせた。


応接室でルナとケイシー、ランドバークと護衛である3人の最側近達がソファーに腰掛けて案を練る。少し考えてランドバークが口を開いた。



「おまえ、俺の養子になって立場を固めろ」と言って。



そうすればルナを守る為に常に表から敵意ある者に対抗が出来て、ルナと一緒に入れるのだ。だがそれは諸刃の剣で、ランドバークには敵は多くケイシーの命の危険度は高まる。時にはルナよりも、ランドバークを優先して守らなければならない状況もあるだろう。


けれどランドバークは笑う。

「俺の子供は、養子を含めて既に8人いる。末っ子のおまえには、盾になる出番なんてないよ」と言って。



ルナは元より気持ちを固めていた。

もうケイシーのことを、好きだと自覚していたからだ。

ケイシーもそうだ。

ルナの為に逃げないと誓った。たとえ自分が夫となれなくても、生涯守ると。


そんな2人をこれほど保護してくれるランドバークに、心の中で2人も忠誠を誓うのだった。



「ランドバーク様、是非よろしくお願いします。ホッテムズ伯爵家の名に恥じぬように、精進いたします。この命をかけて」


ランドバークに跪き、胸に手を当て頭をさげる。


その様子にランドバークも彼の最側近達も頷いた。



「じゃあ、決まりだな。でも、命は俺にかけなくて良い。イッミリーの、俺の娘の子供を守ってくれればそれで良い。頼んだぞ」


一瞬呆気に取られるも、ケイシーは再度覚悟を決めて返事をする。


「必ず守り通します。俺の命に替えても!」



ルナは手で口を塞いで泣き声を抑えた。

(お母様のことをそんな風に思ってくれたんだ。それにケイシーが、ずっと傍にいてくれるんだ。……嬉しいよ)



こうしてルナとケイシーは婚約した。

10才以上の年の差カップルだが、その差を感じさせない雰囲気と絆が2人にはあった。



宣誓が終わった後に、ランドバークと最側近らに冷やかされるルナとケイシーは、顔を真っ赤にしながらも幸せに包まれていた。



それをその後に知るリオやフランベル子爵夫妻とその娘ラーニャ、ロザンナにも祝福を受けた。

「ようやく観念したのね、ルナ」

「幸せにおなり、ルナさん」

「良かったわね、好きな人と婚約できて」

「お姉様、お顔が赤いです」

「よ、良かったわね。ルナ、ケイシー。ぐすっ」

ロザンナは、弟のようなケイシーを心から祝福した。


ナジェールも義妹の幸福に胸を熱くした。

(良かったね、リオルナリー。本当によかった)



ナジェールは今まで何も出来なかった義妹を見て、少しだけ肩の荷が降りた気がした。


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