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勝手に生きてます  作者: ねこまんまときみどりのことり


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アルオとの別れ

9/24  15時 誤字報告ありがとうございました。

大変助かります(*^^*)

 「何でこうなるの? わ、私はアラキュリ侯爵夫人になるはずだったのに。アルオはジローラム様の息子じゃないって、ここ(侯爵邸)から出て行けって。おまけに肝心のアルオは、衰弱して死にそうなのよ。何とかしてよ!」


彼女(ニクス)はアメリア失踪時には、アルオの我が儘だと解っていたので様子を見守っていた。そのうち気が済むだろうと思って。アルオが自分に関心をなくし、思い通りにならないことで苛立つことは増えていたとしても。


思ったより長く引きこもりは続き、食事に対してもハンスト状態で次第に心配になっていた矢先、彼がジローラム様の弟の子供だと知り愕然としたニクス。さらに侯爵邸から出て行けと言うのだから。だけど金銭面の援助はすると譲歩され一先ず安心したが、アルオは酷くショックを受けていたようだった。


ナジェールは次期当主として引き取られ、彼女(ニクス)とは縁を切られると言われるが、愛するアルオがいれば良いと打算的に考えていた。だが、アルオはますます衰弱していく。全ての意欲をなくし、生きる屍のように変わってしまった。今では抵抗する力もなく、医師から点滴を受けていた。


点滴だけだと栄養不足で、命に関わる状態だと言う。




◇◇◇

母親(アメリア)の失踪の時は、ふて腐れながら何もせずに部屋から出なかった。食事にしても、母親(アメリア)を見つけないと食べないと、半ば周囲を脅すように捜索を催促してきた。


この時はまだポーズだけで、本当に調子を崩すつもりはなかった。

それでも意図せず、自分で気づかぬうちに体調を崩しかけていたようだ。


そんな俺を見た父上(ジローラム)は、現当主(アルオ)が病気により業務執行不可能と申請し、再び当主に就いた。さらに己の出生の秘密を聞いた俺は、今度は本当に絶望し病床に就いてしまった。





思えば気の弱い俺は、侯爵家の次期嫡男として優遇されて何とかやってきたが、本当は自分に自信がなかった。何事も卒なく熟すが秀でたものがない凡人だと解っていたので、文武に優れた父親にコンプレックスが強く、かと言って仕事に忙しい母親に弱味も見せたくなかった。


母親だけには、褒められる存在でいたかった。

美しく、仕事も出来る優しい母親。

優れている父親よりも、仕事に成果をあげている母親。


いつしか拗らせてしまい、本音で甘えることも出来なくなってしまった。


鬱屈し取り繕って生きてきたが、ニクスに出会った時、一時ではあるが全てが満たされた気がした。


長く共にいることで、彼女が母親ではないと嫌でも認識させられるが、何も持っていない彼女に頼られることに庇護欲が強く湧いた。そして子供が生まれ、このまま幸せになれると思っていた。


しかし貴族の結婚、高位貴族ならば尚更に、平民との結婚は許されなかった。そして美しいが気の強そうな妻イッミリーを迎えることになった。暫く放置していたが、子が出来ないことを責められ、子供を一人作った。それからは妻にも生まれた子にも、ほとんど顔を合わせなかった。妻からはいろいろと話しかけられたが、全て無視をした。


そのうちに自分が当主になり、思うように過ごせるようになった。家のことは妻に任せ、ずっとニクスとナジェールと過ごした。誰にも劣等感がない生活は気楽だった。侯爵令息だった頃は友人から苦言も呈されたが、当主になってからはほとんど言われなくなった。


妻が死に、今度こそニクスと結婚出来ると思ったのに、結婚だけは駄目だと父親(ジローラム)から反対された。それには母親(アメリア)も同じ意見だったから、無理強いすることは出来なかった。


前妻の子を本邸から追い出し、籍は入れていないが正しい家族になれたと思った。ナジェールは大人しいが、自分も父上に対してそうだったから、特に気にはしなかった。



それからは穏やかに時が過ぎていた。



いつか結婚も他のことも、全て思い通りになると思ったのに、今は腕を動かすことも出来ない。


どこから間違っていたんだろう?



俺はもう、死ぬんだろうか?




ああ、ニクスが泣いている。


…………暫く彼女のことを放っていた。

母親(アメリア)の方が大事だと思っていたけど、本当にそうだったんだろうか?



父親と違う人と子供を作って、俺を追い込んだ人。


今となっては、愛してくれていたかも解らない。




ニクスは………………

きっと俺を見てくれていた。


思えば彼女には、ずいぶんと情けない姿を見せてきた。

醜い部分も泣き出しそうなところも。



ああ。俺が今死んだら、彼女はどうなるのだろう?


ナジェールは父親の養子になって、俺達とは縁を切られてしまった。


俺が死んだら、我が儘で友人も頼れる家族もいない彼女は、どうなるんだろう?



口の上手い男に騙されたり、拐かされて、娼館なんかに売られるんだろうか?


それともナジェールが、お金だけは渡してくれるんだろうか?



でも1人になっちゃうな。

派手な顔に似合わず、寂しがり屋なのに…………



……………ごめんな、ニク(うっ、なんだ、口の中になんか入れられているぞ)ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……………



「間に合ったみたいね!」

「ああ、アルオ、アルオッ、生き返ったのね、良かった!!!」

「ああ、お父さん、お父さんっ!!!」


先程まで考えていたニクスと、あまり表情を変えないナジェールが泣きながら俺に縋りついて来てビックリする。



後から聞いたところによると、女の子が思いっきり俺の口を開けてポーションを突っ込んで、ギリギリ死の淵から引っ張り戻してくれたそうだ。


「あれ? 俺、体が動かせるぞ。声も出る。……もしかして、天国か?」

呆けるアルオに、女の子が怒鳴りつけてきた。


「「何、馬鹿なこと言ってるのよ。好き勝手生きて、娘を虐待して、食事もしないで勝手に死んでるんじゃないわよ! 我が儘だけ通して死のうとするな! もっと恥もかいて、苦労をしろ! 足掻いて足掻いて、生き抜けよ!!!」」


「せめて親なら必死に足掻いて、懸命に生きる姿を見せてあげなよ。死んで逃げるなんて許さないから!」



アルオには女の子の声が、誰かの声と重なって聞こえた。

その後に女の子ではない、今はもういない懐かしい声が聞こえた。


「イッミリーか? 今の」


呟く声に、女の子はまた叫んでいた。


「何がイッミリーか、よ。私はリオルナリーよ。アルオさんとお母様の娘。ナジェールから手紙が来たから、隣国から何にでも効くポーションを高いお金で買ってきたの。その代わりにナジェールは私の部下にしたから、アルオさんはナジェールの代わりに侯爵家の仕事を手伝いなさい。勿論、平民のアルオとしてね。ニクスさんと結婚して別邸に住んでも良いと、お祖父様から許可も頂いたから。良いわね!」



そう言うと、リオルナリーと名乗った女の子は、ドシドシと音を立てて部屋を出て行った。その眦は僅かに濡れていたようだった。


「あの子が、リオルナリーか? 大きくなったな。もっと小さな子供だったのに。………あの子が助けてくれたのか?」


知らずに呟く俺に、ニクスもナジェールも泣きながら声をかけてくる。


「アルオ、アルオッ。生きてて良かった。贅沢なんてしなくて良いから、貴方が平民になっても良いから、私を置いて逝かないで。愛しているの。私は貴方が大好きよ!」


化粧もしてないニクスは、年相応の疲れた泣き顔で俺の右腕をガッシリと掴んでいた。


左側ではナジェールが腕を掴み、大泣きしていた。

「死なないで、お父さん。ずっと言いたかったの。お母さんを幸せにしてくれてありがとう。僕を大切にしてくれてありがとう。………貴族なんかじゃなくて良いから。僕は寧ろ、貴族じゃないお父さんの方が良いよ。だって身分の差がないでしょ? その方が安心出来るんだ。僕がいくらでも働くから。生きていてよ、お父さん」


ああ。俺は幸せだな。

本気で泣いてくれる人が、2人もいるんだから。

リオルナリーも、もしかしたら泣いてくれたんだろうか?

おまえを捨てたような父親なのに。


イッミリーは、きっと無念だったよな。

リオルナリーを残して逝ったんだから。

それなのに俺は酷い仕打ちをしてしまったし。

もう、おまえ(イッミリー)には何もしてやれないけど、リオルナリーに迷惑をかけないように生きていくと誓うよ。



「その言葉、信じるからね」


何処からか、イッミリーの明るい声が聞こえた気がした。




◇◇◇

(ルナ)はナジェールから手紙が来た時、ケイシーに護衛をして貰い、精霊使いの元に赴いた。自国であるタルーシアラ国に行く交渉をしに。


交渉締結後、トレシに祝福を受けたポーションを購入しようと声をかけた。すると(トレシ)は、2つある瓶のうちの1つを(ルナ)に渡し言うのだ。


最初から渡そうとしていたと。

(ルナ)がいないと出来なかったものだから、全部渡そうと思っていたと。


私は貰えるなら1つで十分だと伝えた。

(トレシ)は誰に使うかは聞かなかった。

薬師も医師も、精霊使いにも、祝福のポーションは作れない。

だからこそ、最初に祝福を願った王妃が命をかけたのだから。


世の理を崩すことにもなる代物だ。


私はお礼を言って、時間が停止しているポーションを抱きかかえた。ケイシーに持つと言われけど断った。

これを運ぶのは、私の役割だと思ったからだ。



ナジェールからの返事が来る前に、私達はタルーシアラ国のアラキュリ侯爵邸に着いた。当主であるお祖父様(ジローラム)に一方的に条件をぶつけ、全て呑ませた。

久しぶりの再会で、実の孫だと知った感動も台なしだっただろう。


そうしてアルオさんを助けた私は、3日後のアルオさんの状態を確認した後、ナジェールを半ば強奪してデバルム帝国に戻ったのだ。

余った祝福のポーションを、腕に抱えて。



あんなに意地悪だったニクスも平身低頭で、何度もお礼を言っていた。アルオさんもだ。


ただ私がアルオさんと言うので、アルオさんも私の名を呼ばなかった。以前に養子に行ったことを聞いたからだろう。

彼の前では便宜上リオルナリーと名乗ったが、ケイシーも精霊使いさんも私をルナと呼んでいたから、配慮してくれたのかもしれない。


もう会うこともないであろう父親に、帰り際に声をかけた。


「高い薬を使ったんだから、精々長生きしてよね!」


「ああ、そうするよ。頑張って生きるよ。

…………ありがとう。君も元気で…………」



謝ることもしない父親に、それでも私は清々しい別れが出来た気がした。大嫌いだけど、死んで欲しい訳ではなかった。見殺しにしてしまわなくて良かったと思っただけだった。



本当はアルオさんとニクスにも、使用人棟で暮らして貰おうかと思ったけど、さすがに止めてあげた。それでなくてもきっと、苦難の道が待っていると思うからだ。



「元気に生き抜いて欲しい」


それは私を、この世に誕生させてくれた人への祝福の言葉だ。私は今幸せだから、こんなところで勘弁してやるぜ! なんてね。


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