助けを求める者
「美味しかったですね」
「久しぶりに大人数の食事で楽しかったわ」
「景色も素敵でしたわ。空がこんなに近くに見えるなんて」
「お姉様達と一緒で楽しかったです」
デザートのブルーベリー入りヨーグルトを食べ、ミント水で喉を潤して落ち着いた私達は、笑顔でお喋りしていた。
平日のお昼を少し過ぎた時間にいる客はまばらだ。
そんな時、少し離れたところから声がかけられた。
「失礼ですが、ルアニート・フランベル子爵夫人ですね。
初めてお目にかかります。
私はトレシ・グンジョーと申します。ランドバーグ伯爵にお世話になっているものです。
本日は貴女様にお願いがあり、ご挨拶に参りました」
胸に手を当てて頭を下げる彼は、美しい水色の髪と青い瞳をした人好きのする青年だった。
ルアニートにはランドバーグから、近いうちに彼が挨拶に行きたいと連絡が来ていた為、その存在は知っていた。しかし此処で会うことになるとは思わなかった。
ルアニートは彼から挨拶をされ、護衛に警戒しないように伝える。
「少し驚きましたわ、グンジョー公爵令息。出来るならアポイントメントが欲しかったですわね」
少し語気強めにルアニートは伝えるが、それでも彼は “すいません、夫人。連絡しようとした矢先にお会いできたので” と、怯む様子はなかった。
「紫の瞳ですね、キルスタン令嬢は。失礼ですがご家族に紫の瞳の方はいませんでしたか? そしてその方は30才まで生きておられますか?」
「ど、どうしてですか?」
紫の瞳を持つ人は、ある祝福のせいで短命だと言うのだ。
タルーシアラ国で生まれたルナは、紫の瞳を持つ人を見たことがなかった。ルナが自分以外に知るのは、母親イッミリーだけだった。
そう言えば、ランドバーグに聞いた祖母フローラも、紫の瞳を持っていたそうだ。
「まさか祖母が若くして亡くなったのも、お母様の病気だと思っていた症状も同じものなの?」
それに祝福って何なの?
イッミリーは既に母親を亡くしており、その話を全く知らず、ルナは知る由もない。そもそも数十年、タルーシアラ国では3人以外の紫の瞳の者はいなかった。
食事で幸せだったルナは顔色を悪くし、混乱で倒れそうになった。
それを見たリオは彼女に駆け寄る。
「ルナ、大丈夫?」
「う、ん。ちょっとビックリしただけ。でも………」
トレシはそれにも躊躇せず、声をかけ続ける。
「悩ませたことについては、申し訳ありません。ですが長年その病『パープルロスト』を研究している研究者オルドリンが、現在命の危機にあります。いきなり来て、何を言い出すのかと思われているかもしれません。でもその研究は、彼の生涯をかけた研究なのです。どうか力をお貸しください!」
力を貸す?
どうやって?
「「魔法陣に置いたポーションに、病を治せ」と、紫の瞳を持つ者が声を乗せて手を翳してくだされば、どんな病も治せる薬が出来るのです。ですがそれは、(手を翳した)作成者だけには効かないようになっているのです」
その発端は、過去のアイスグラウンド国の国王が病に倒れた時に、王妃が妖精と交わした約束で結ばれた祝福。
王妃の寿命を減らす代わりに、国王は健康体に戻ることが出来た。
その時だけのことだと思っていた。
王妃は満足して、その2年後にこの世を去った。
けれどその祝福は、時を超えて時々子孫に現れ出したのだ。
明確な誓約書がなかったことと、悪戯好きな妖精が思い出した時に、王妃と血の繋がりのある者の胎児に祝福をかけたからだ。
詳しい伝承も伝わらないまま、紫の瞳を持つと早世すると言われ続け、産まれた瞬間から悲しみを向けられ続けたのだ。
今、死の淵をさ迷う研究者は、若い頃に紫の瞳の王女と婚約した公爵子息だった。その頃は、長く紫の瞳の子が生まれず、伝承など信じられていなかった。
だが彼女は病を発症してしまった。
国王も彼も国中の魔法使い、魔術師、医者、精霊使いを集めたが、王女の病には効かず彼女はこの世を去った。悲しみに打ちひしがれた彼は、後継を弟に譲り研究の道に進んだ。
「この病で亡くなる人がいなくなれば良いのに」と最期に笑って逝った時の言葉。彼女は別に、薬を作れと言った訳ではない。もっと生きたかったと言う気持ちだった。
それでも彼は公爵になった弟の協力を得て、妖精の祝福を中和する薬を、何度も何度も作り続けた。長年の研究の末、精霊使いに鑑定をして貰い、やっと後一つ珍しい木の実を混ぜれば完成になると言われていた。そこに肺の病で倒れたのだと言う。トレシは彼の大甥(甥の子)だ。
結婚もせずに研究に人生を捧げ、時に金食い虫だと揶揄された大叔父オルドリンだが、トレシは彼が大好きなのだ。
彼が誰かを救えれば、彼の人生は報われるに違いないのだ。
だからトレシは、ルナに依頼した。
大叔父オルドリンを救って欲しいと。
気持ちがついていかないルナだが、真剣なトレシを見て彼女は頷いた。自分の力が役立つなら、 “やってやろうじゃないか” と。
「私で力になれるなら、行くわ」
躊躇なんてなかった。
「一瞬で決めるのかよ」と、ルナと共にデバルム帝国に渡ったケイシーは言う。
「何かあってもケイシーが守ってくれるんでしょ?」
ルナは目を細めて彼を見て微笑む。
「当たり前だ、馬鹿」
少し怒り気味のケイシーは、ルナに対して既に遠慮はない。
そのやり取りにリオやルアニート達は、満面の笑みを浮かべる。
「では、向かいましょう」
「はい。お願いします」
そしてルナとケイシーは、オルドリンの元へトレシと共に向かうのだった。




