表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勝手に生きてます  作者: ねこまんまときみどりのことり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/56

ジローラムの後悔

 「(ジローラム)の父の代で沈められた貿易船は、アメリアの父親ウィスラル公爵のせいだったと。全ては事業拡大を企んだあいつ(ウィスラル公爵)の仕組んだことだと言うのか。

何故、今さらそれを俺に伝えるのだ。ホッテムズ伯爵よ」


応接室にお茶の用意をしたメイドが去った後、信じられない言葉を耳にして目の前がクラクラした。




俺がまだただの令息だった頃、侯爵家の事業は好調で潤う財政により全てが上手くいくと思っていた。それを疑う者さえいなかった。


けれど沈没船の引き揚げや積み荷の賠償、乗組員の見舞金等で借金を抱えた俺達(侯爵家)は、ウィスラル公爵に頼ることになった。全ての元凶だった男に。



「何故今さら…………」

「ずっと調査を重ねて来た。アラキュリ侯爵も知るようにウィスラル公爵は狡猾だった。だが66才でまだ血気盛んだったあやつ(公爵)は、公開されていない病で死の淵にある。それらしい不調もなかったから、毒殺未遂とも呪いとも言われている。不正を隠せない状態で寝たきりになり、手を染めた配下の貴族が証拠隠滅に乗り出しているが、指示系統も崩れ悪事に関しての証言も容易に取れるようになった。正式な家宅捜査で書類の閲覧・調査は進み、さら公爵の傍に潜んで勤務していた諜報員が証拠文書(裏帳簿など)も回収した。


やっと長年の苦労が実り、調査結果は国王にも報告できた。そして最大の被害者であるアラキュリ侯爵に、本日報告に来たのだ」


「そうだったのか。ご苦労だったな」



公爵の後継者ウルゴスは、性格的に汚職など出来ない男だったからそれらの件には関わっていないそうだ。代わりに(ジローラム)が知るように、アメリアやグリーニーが公爵の手駒だった。

ウルゴスは父親の悪行を聞き爵位を返上すると訴えたが、筆頭公爵が退いては国が混乱するとして、王命により存続をするように言われ従ったそうだ。


今後の侯爵家への賠償もウルゴスの仕事になると言う。

そして侯爵夫人だったアメリアや双子の弟グリーニーの処分は、ウィスラル公爵に逆らえず強要されたとして、国外への追放処分になったと言う。

罪状から見ればかなり軽い処分だが、二人の境遇を聞けば責める気持ちにはならなかった。

(ジローラム)は自分が辛いと思っていた境遇より、更に悲惨だった彼らのことを知り、自分のことばかりが不幸だと嘆いていたことに羞恥を感じた。


嫌なら投げ出すことも出来た自分は、逃げれば命すら危うい彼女らから見れば、ずいぶんと甘ちゃんに思えただろう。


ホッテムズ伯爵の言うことには、アメリアとグリーニーは姿を消す前も命を狙われ続けていたらしい。

ダニーラルが病床につき、ダニーラルと私腹を肥やした寄り子のチャーク伯爵とスデンク子爵、彼らに唆されたジーンクル男爵が、ダニーラルを恨んでいるアメリアが侯爵家の力を使って報復に出るとか、自首すると思っていたらしい。


その報復の噂が何処から出たものかは解らないが、恐らく何となく彼らの悪事を知り、過剰な繁栄を羨む者達ではないかとホッテムズ伯爵は言う。

様々な噂が多く、有力な特定はまだ出来ていないそうだ。




最近の業務の疲れから、(ホッテムズ伯爵)の言うことににわかに現実味が湧かない。けれどその事件のせいでフローラを失い、アメリアが嫁いで来てグリーニーの子であるアルオを生んだ。


全てがウィスラル公爵の掌で弄ばれて来たのだ。



「ああ、どこまでがウィスラル公爵の計画だったのだろう? 彼だけは思ったように生きられたのか?」


泣きそうにホッテムズ伯爵に呟くが、彼はまだ(ジローラム)に伝えることがあると言う。


「なあ、アラキュリ伯爵。君の知るフローラとナミビアがどうしていたか、貴方は知っているか?」


項垂れていた顔を上げ、(ジローラム)は首を横に振る。


「いいや、知らない。俺の行動は半ば監視されていて、金も多く動かせなかったし。フローラのことも自分が出来る範囲で探偵に依頼したが、金が続かなかった。侯爵家を継いでからは、ルメンドが個別に調査してくれていたが、行方は途絶えてしまった。………何処かで殺されてしまったかもしれない。


ナミビアのことは完全に俺の失態だ。

主人として慕ってくれた若い彼女に、酒の力もあり縋ってしまった。孤独が辛過ぎて、自分に向けられる愛情に溺れてしまったんだ。だけどアメリアに、殺してしまうかもしれないと脅されて追い出した。僅かな金と紹介状だけを渡して。……とても可愛い子だった。一緒にいて安らいだんだ。


俺に関わった二人を不幸にしてしまった。ああっ」



今ならアメリアがナミビアのことを脅した気持ちが解る。ウィスラル公爵に目を付けられる前に、逃がそうとしてくれたんだろう。そのまま付き合っていたら、殺されていたかもしれない。



思い出すだけで辛くなる過去。

なるべく仕事に打ち込み、隠居してからはアルオの幸せだけを願って暮らしていた。結局アルオもグリーニーの子で、自分には母親以外近しい身内もいなくなった。



そんな(ジローラム)に、フローラのことを話すホッテムズ伯爵。


「フローラは暗殺者から逃れて、遠くの教会で子を産んだ。そこで暮らし、子供が2才の時に死んだ。その子供を偶然引き取ったのが俺だ。それを知ったのも、フローラに内緒にしてくれと頼まれたシスターが、死ぬ前に打ち明けてくれたからなんだ。


アラキュリ侯爵。その引き取った子供はイッミリーだ。だからリオルナリーは、貴方と血の繋がりのある孫だ。


だけど貴方はリオルナリーには関心を示さなかったね。彼女はアルオに使用人棟に入れられて、ずっと使用人として暮らしていたんだ。知らなかっただろう?



そしてナミビアは貴方と別れた後、女の子を産んだ。家族とも縁を切られて、最近まで侯爵家のメイドとして働いていたのだよ。1人で娘を育てながら、頑張っていたんだ。責任も持てないのに避妊もしなかった男に、同じ男として軽蔑するところだが、もうナミビアは何とも思っていないそうだ。貴方のことを恨んでもいない。


君は女性を不幸にしたと言いながら、まるで自分以外に興味がない。少なくともリオルナリーのことだけは、君は救えたはずだ。


でももう学園に通って頑張っているし、ずっと俺が後見してきた。だから彼女達のことはこれからも俺に任せてくれ。国王にも俺の好きにしてくれと委任されたからな。


貴方は今までと同じように生きていけば良い。


いつか彼女達が、会いたいと思ったら会いに来るかもしれないから。


俺からは以上だよ。


でも彼女達に無理強いして会うのとかは止めろよ。

…………俺の仕事は知っているよな。彼女達には最強のガードも付いているから、手は出すなよ」


そう言って、さっさと踵を返して去っていったホッテムズ伯爵。


俺は辛くなったり嬉しくなったりと、いろんな感情で脱力して膝を突いた。



「俺にも娘や孫がいたんだ。…………そしてもう、何も出来ないのだな。ああ、リオルナリー。お前はどんな顔をしていただろうか? もう思い出せないよ」


日が陰り暗くなった部屋で、項垂れたまま声を出して泣き続けた。後になって後悔しても、遅いこともあるのだと漸く気づいた。



◇◇◇

ランドバーグ・ホッテムズは、ジローラムに全てのことを伝えた。一部省いた部分はあるが、それは今のジローラムにはそれほど必要のないものだろう。


リオルナリーが既に、ルナ・キルスタン子爵令嬢として暮らしていること。リオがリオルナリーの戸籍で生きていること。

そしてリオの戸籍もそのまま残っていること。



諜報員の長たるランドバーグは、いつかこの戸籍も利用するかもしれないと、大切に預かることにしている。



ウィスラル公爵が貿易船を沈め、当時の国王が賄賂を受け取った時、王妃と王太子(現国王)は国王を見限っていた。ウィスラル公爵の従兄である国王は、以前からウィスラル公爵の悪行を自分の権力で揉み消したり優遇して、他貴族から不満が噴出していたからだ。


そしてリンドバーグはその他の簒奪についても王妃達へ報告を続け、国王の横暴を一部ぼかしながら貴族員議会にかけて国王の罷免を成功させた後、王太子を王位に就けたのだ。

それでもウィスラル公爵は、狡猾に証拠を隠滅しながら立ち回り、前国王が退位しても力を落とすことはなかった。


その為事件の解決に、ここまで時間がかかってしまったのだ。


「たくさんの不幸な者が出てしまった。俺の目が黒いうちに、国民の負担を少しでも減らしたいものだ。やれやれ、先は長いのぉ」



ジローラムへの告白したことで、心の負担が少し減ったランドバーグ。彼の仕事も尽きることはないのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ