アルオの罰
9/24 15時 誤字報告ありがとうございました。
大変助かります(*^^*)
10/13 20時 誤字報告ありがとうございました。
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「アルオ、もう母親のことは諦めろ。お前は侯爵家の当主で、ナジェールの親なんだぞ。ナジェールがジローラム様の補佐を懸命に頑張っているのに、お前は子供のように我が儘で仕事を放棄するばかりか、食事も取らずに健康を崩して。自分のことばかりで嘆いて、恥ずかしくないのか?」
幼い時からの親友モンファルに叱咤されたアルオは、ベッドの上で彼を睨みつけた。
「お前に何がわかるんだよ! 母親がいなくなった俺の気持ちがわかるか? それも男と逃げたなんて。……クソッ」
躊躇せず言い返すアルオに、モンファルは続けて言葉をかけた。
「ああ。俺にはわからないよ、お前が何故母親に執着するかなんて。イッミリーさんが愛人のいるお前の元に嫁ぎ、仕事も社交も子育ても頑張っていたのに、お前は何一つ敬わなかった。挙げ句の果てに葬儀まで遅れて来たじゃないか。
その直後にニクスさんを連れて来たと聞いた時は、お前の正気を疑った程だ。よっぽど仕事も辞めようと思ったが、リオルナリーが心配で去ることも出来なかったよ。
でもあのニクスさんと一緒にいるより、使用人棟の方がマシかと思って様子を見ていたんだ。彼女は存外に幸せそうだったから。イッミリーさんが生きていた時のことは俺は知らないが、彼女の扱いについてお前に諫言した使用人を軒並みクビにしたと聞いた。俺には家族がいるからお前に文句なんて言えずにいたが、今の責任者はジローラム様だから言わせて貰う。
いい加減に目を覚ませ、アルオ。
お前はもう大人だし、子供だっているし、当主だって譲られただろう?
当主は自分の感情だけで行動できないんだよ。それが普通だ。わかってるだろお前だって、頭は良いんだから。
ジローラム様だって好きな女性と別れて、家の為に政略でアメリア様と結婚した。アメリア様の方が仕事が出来ると使用人達にもてはやされたそうだが、それは公爵家の力だったはずだ。そんなこと当時なら子供でも知ってたぞ。それを我慢して否定もせず、堅実に側近達と領地や事業運営を頑張って来たんだぞ。
それなのにお前は何だ。
イッミリーさんもリオルナリーも大事にしないで、彼女が死ぬまで邸にも来ないで仕事も丸投げして。
彼女が死んで仕事はしても、愛人達を家に入れて次期当主たる娘を使用人棟に入れて。
母親がいなくなっただけで、大騒ぎして何もしないんだから。
お前は当主に向かないよ。平民になってニクスさんと結婚してから、2人でアメリア様を探しに行けば良い。もう誰もお前を止めないから」
突然の罵声でハクハクと言葉を紡げないアルオに、モンファルは一息に告げた。もうこんな機会はないだろうと思いながら。
クビを怖がらず、もっと早く言ってやれば良かった。
学生時代はもっと素直に聞いてくれたのに、いつの間にこんな風に凝り固まった考えの男になったのだろう?
権力なのか?
アルオはもともと、自分から主張しない大人しい性格だったのに。
暫くして考えが纏まったのか、激昂したアルオが叫ぶ。
「お前なんてクビだ、モンファル。さっさと出て行け!」
モンファルはそう言われる覚悟をしていた。
それでももう、最後の友への情として告げたのだ。
荷物だって纏めていたのだから。
「ああ。世話になったな。飯だけは食えよ」
寂しげな背中を向けて去ろうとした時、ジローラムがナジェールと共に入室してきた。
「モンファル。悪いがまだ、話に付きあっておくれ。アルオに大事な話があるんだ」
◇◇◇
「俺はずっと、アメリアの浮気を疑っていた。
けれど侯爵家に利益をもたらす彼女に、直接は詰問も出来ず調査して貰っていたんだ。
その結果、俺の弟と彼女が幼い時から好き合っていたことがわかった。
弟グリーニーがいたことは、俺も知らなかった。
生まれたばかりの時に、双子は不吉だからと弟は孤児院に入れられて、その後にウィスラル公爵家に引き取られたらしい。
諜報員として育てられ、政略の駒として大事に扱われなかったアメリアと肩を寄せ合ってきたそうだ。
ここまで聞いて何となくわかったかもしれないが、アルオ、お前は俺の子ではない。アメリアとグリーニーの子供だ。
俺も驚いたが、あいつは俺と瓜二つだった。
それでも俺の子であって欲しいと願ったんだ。
でも…………。
以前に連れてきた神父にお前も会っただろう?
その神父にハッキリ言われたよ。
俺のオーラに良く似ているが、僅かに波動が違うらしい。
そしてグリーニーを密かに見て貰ったら、お前と同じだとね。
ショックだった。
けれど俺も家の為だと言って犠牲にした者はいたし、後継者であるお前には期待をかけてきた。
血縁はなくとも、お前のことを可愛がってきた思い出があるから、お前のことが好きだったよ。
でも俺が甘やかしたせいで、さらに大勢の者が不幸になってしまった。
だからこれからは、それも含めて贖罪だと思って生きようと覚悟したのに、アメリアがいなくなっただけで変貌したお前を見て失望したんだ。
お前だけでなく、そんな風にしか育てられなかった自分自身にもな。
だからもう自由にして良い。
アメリアを探したいなら、自分の足で行くんだ。
お金もやるし、護衛もつけてやる。
アメリアの手紙の消印の都市もわかっているから、体を治してから行ってみると良い。
だけど、お前を貴族籍からは外す。
そしてナジェールを俺の養子にして侯爵家を継がせる。
ただニクスは、ナジェールとの縁を切って貰うぞ。
これは国に申請し、当主権限を戻した俺の決定だ。
従わなければ、平民であるニクスは命を落とすだろう。
だからお前は早く体を治してニクスと出て行くんだ。
良いね、アルオ。
ナジェールとモンファルが証人だ」
ナジェールは泣いていた。
ここに来る前に、ジローラムに話を聞いていたのだろう。
そしてモンファルもまた、衝撃を受け信じられない思いで愕然としていた。
ジローラムはモンファルをアルオの友人として信じ、先ほどの彼からの諫言もドア前で聞いていたから、頼りない息子を託そうと思ったのだ。彼を家令の一人としたままで。
「嘘でしょ、父上? 俺は他人なの?」
「他人ではない。血縁で言えば甥だ。
だからこの家でゆっくりして、療養しなさい」
アルオがもっとしっかりとして、侯爵家を維持してくれれば口を出すつもりはなかった。そう育ててしまったのだから、様子を見ながら補佐だけをしようと思っていたのだ。
けれど、先人達が躓きながらも残してきた侯爵家は、ジローラムにとっても生涯をかけて守ってきたものだから、それが出来ないアルオには任せられなかったのだ。
「アルオ。お前のことは大事だよ。ただ後継者じゃなくなっただけだ。父であることに代わりはないのだから」
聞こえているかわからない、魂の抜けたような呆然としたアルオの瞳は、何も映さずに涙を流し続けていた。
アルオを残して部屋を出た3人。
ジローラムは息を深く吐き出してから2人に言う。
「お前達には悪いけど、アルオの様子をたまに見てくれないか」
ナジェールとモンファルは深く頷き応じた。
「ジローラム様、後のことはお任せください」
「父のことは私が見ていきます。情けをかけて頂き、ありがとうございます」
「ああ。頼んだよ」
2人に託して執務室へ歩くジローラム。
まだ仕事は山のようにある。アメリアが担当していた分までが彼の肩にかかっているのだ。
歩きながら自分の眦が濡れているのに気づく。
ギリギリまで言わずにいようと思っていた限界は、もうとうに過ぎ、ここまでにいろいろと戒めて宥め透かしを繰り返したが駄目だった。
恐らく親子だからと甘えがあったのだろう。
だから今日、その繋がりを切ったのだ。




