明かされた真実 その1
「急に呼び出して済まないな。各々に関わる事実が明らかになり、みんなで相談したいと思ってな」
ここは休日の『オルヴォワール』
リオルナリーのレストランだ。
仕切るのはホッテムズ伯爵家当主、ランドバーグ(45才)だ。
騎士団長を度々輩出する、鍛えられし騎士が多い領地の当主に相応しく、細身に見えるのに上着を脱げばすごい筋肉の持ち主だ。ストレスが溜まると今でも現役騎士との打ち合いに参加し、未だ負けなしの最強。陰ではいろんな意味を含めて鬼と言われている。
気晴らしで参加される方は、堪ったものではない。
今回、関係者を集わせたのには理由があった。
集められたのはリオルナリー、リオ、ナミビア、
リオルナリーの事情を知るルメンド、テレーゼ、アカザ、マリー、カイルアン。シェフのナジェルダは、以前に侯爵家にいた時から仕事に忠実で、あまり家族間の深い事情を知らない。侯爵家の裏を知ることで、危険に巻き込む可能性がある為、暫く秘密にしておくことにした。
そして侯爵家の使用人として働いている料理人のケイシーと、情報伝達役のロザンナも、ランドバーグの部下としてこの場に姿を現したのだ。
「初めて顔を会わすものもいるだろう。彼らは協力者だから、これからも頼ってくれて良いからな」
そう言ってランドバーグは、二人を紹介した。
立ち上がり礼をして名乗る2人は、余計なことは口にせず着席する。主の言葉を遮らせない配慮だろう。
「この2人は、私の部下なのだ。今までも侯爵家のことを調べて貰っていた。リオルナリーはケイシーを知っているだろう?」
諜報員とは言わず、部下で押し通す。ルメンドやテレーゼは、何となくその正体に気づいていたが。
「うん。料理人のケイシーよ。いつも美味しいものを作ってくれるのよ、伯爵様」
屈託なく話す彼女に、ランドバーグは寂しげに呟いた。
「リオルナリー、伯爵様はよしてくれよ。ここではランドバーグでも爺様とでも呼んでおくれ」
切なげに彼女を見るランドバーグに、慌てるリオルナリー。
「いやいや、爺様なんてとんでもないし。今はただのメイドのルナが、ランドバーグ様と呼ぶのは不敬ですよ。勘弁して下さい」
「だがここは侯爵邸ではないぞ。この場でなら問題はないだろう?」
食い下がるランドバーグに、リオルナリー仕方なく折れた。
「では、以前と同じように、ランドバーグ伯父様とお呼びしていいですか?」
「まあ、今はそれで良いか。はははっ」
久しぶりに呼びかけると、何だか照れ臭い。今まで表面上は仕事の出来るメイド、『ルナ』を演じて来たつもりだったから、何となく慣れなくて落ち着かなくなるのだ。逆にランドバーグはご満悦だ。
でもここで戸惑うと話が進まないので、 “もう、仕方ない” と割りきったリオルナリーだ。
(もしかして、わざと? まあ、良いや)
そしてナミビアは驚愕する。
この時彼女は極度の緊張で、ルナのことをリオルナリーだと呼ぶ、ランドバーグの言葉が聞こえていなかった。
(伯爵がルナの伯父様? どう言うことなの? もしかして寄り親なのかしら? そんなに懇意だと知らずに、私ったらルメンド様のこととか、無理矢理いろいろ頼んでしまったわ。もしかしたら、断罪されるのかしら? どうしよう。せめて、リオだけは助けて貰わなきゃ。ああ、ごめんなさいね、リオ。ダメなお母さんを許して)
なんて見当外れのことを考えていた彼女だが、その後とんでもない情報の嵐でさらに混乱するのだった。
まずは話の直後に、ルナがリオルナリーだと気づいたリオは、ナミビアと顔を合わせてフリーズした。本物のお嬢様に自分のメイドをさせたことや、代わりに受けていた教育のことを謝り通した。
しかし、「知ってたから問題ないよ。逆にごめんね。テヘヘッ」と軽く言われたので、呆然としまうリオだった。
◇◇◇
「ずっと調べていたことに、やっと答えが出た。アラキュリ侯爵夫人アメリア。彼女はダニーラル・ウィスラル公爵の第二夫人の子だ。第二夫人は子爵令嬢だと言うことで、かなり肩身の狭い思いをしていたらしい。その娘アメリアもな。
結婚前に彼女が、多くの男と噂になっていたことは知っているな? それはダニーラルの指示で、アメリアが対象に近づいて油断させ、酔わせて情報を聞き出したり醜聞を握ることを繰り返して出てきた話だ。
彼女は母親と同じピンクブロンドの髪と、水色の瞳を持つ美しい容姿をしていたから、声をかけられた男はたいがいが靡いた。そうやって利用されても男達は、こんなに美しい悪女なら仕方がないと言って侍っていたらしい。だがジローラムは別だった。
既にジローラムには、フローラと言う最愛がいたからだ。
ダニーラルはそれでも、アラキュリ侯爵家の主導する新区画への鉄道開発事業の参入を果たしたいと思っていた。鉄道周辺区画の土地の開発には、莫大な利益が絡むからな。
だからダニーラルは、アラキュリ侯爵家が他にも経営する他国との貿易事業に目をつけ、乗組員達を金で買収した。彼らの1年分の賃金を全員に渡して、他国へ移住して貰う約束をさせてな。
乗っていた貨物は船を沈める前に、別の船に移動させて公爵家で売りさばいたらしい。
そして侯爵家が他国から取り寄せるように依頼していた、胡椒やターメリック、ナツメグなどの調味料となる食材も沈んだことになり、依頼料として預かった資金の返金が出来なくなった。仕入れられない時の違約金は2倍となっていたからだ。さらに買収されて他国へ逃げた従業員家族への見舞金や船の引き上げ金など、他にも多額の資金が必要だった。
その後の侯爵は、ダニーラルからの差し伸べる資金援助の手を取るしかなかったのだ。
そこに出された条件が、アメリアとジローラムの結婚だった。家族に頭を下げられて、アメリアとの結婚を願われるも、到底納得など出来ないジローラム。だがその間にフローラは襲撃され、遠方へ逃亡した。行方不明になった件はその後の話だ。
そしてジローラムは、全てを諦めてアメリアと結婚した。
ダニーラルはフローラが戻ってこなければそれで良いと思って放置した。たぶん油断があったんだな。結婚前に彼女が妊娠していた可能性なんて、失念していたようだ。
そして逃げた先の教会で、フローラはイッミリーを産んだのだ。
フローラはイッミリーが公爵家から見つからないようにする為、世話になったシスターに身元を明かさないで欲しいと頼んだ。そのシスターも秘密を守り続けて来たが、天寿を全うしそうな年齢になりその重圧に堪えられなくなったそうだ。
どうして俺が知ったのかと言えば、そのシスターが俺にその秘密を書いた手紙をくれたからだ。ただ周囲には誰にも言っていないそうだから、この情報を知っているのは、俺とここにいる者達だけとなる。
そしてイッミリーを養女にしてくれたキルスタン伯爵家は、元はキルスタン子爵家だ。思ったよりも大事になったフローラの行方不明事件を黙らせる為に、ダニーラルが適当な話を国王にでっち上げて話し、伯爵へと陞爵させたらしい。
それにより収入が増えて、滞っていた資金繰りが出来るようになったそうだ。フローラの気持ちなどを考えない対応に憤りはあれど、王命として報奨を受け取れば、もう何も言えなかったそうだ。
だからリオルナリー、お前は本当にキルスタン伯爵と血縁のある孫なのだよ」
信用出来る者はいても、血縁などいない孤独な存在だと思っていたリオルナリー。
「ほ、本当に? 血が繋がってるの? お祖父様とお祖母様と! うわあぁぁぁん、嬉しいよぉ」
心の底から安堵してその幸福を喜ぶ姿に、貰い泣きしそうな一同。
でも…………。イッミリーがジローラムの娘なら、アルオと異母兄妹になるのではないか?
それが脳裏に過るが、ランドバーグは続ける。
「アルオはジローラムの息子ではない。彼の双子の弟グリーニーとアメリアの息子だ。アメリアはダニーラルの指示で、侯爵家の簒奪を目論んだことが判明した」
次々と新たな事実が明かされ、戸惑うリオルナリー達。そして、その後も深刻な話は続けられるのだ。
ナミビアとリオが呼ばれたことも、ちゃんとした理由があった。




