レストランのプレオープン
本日は、お世話になった方々を招くプレオープン。
雲一つない青空で、爽やかなそよ風も吹く気持ちの良い日だ。
店名は『オルヴォワール』になった。
(オルヴォワールの意味は、再会とかおかえりなさいだ。ぴったりでしょ?)
レストランでは朝早くから材料を仕込み、今か今かとお客様を待っている。レースのカーテンが揺れる店内に、ドアベルが綺麗な音を奏でた。
「カラン、コロンッ♪」
約束の時間になると、続々と招待客が入店してくる。
「お呼び頂きありがとう。楽しみにしていたんだよ」
「わ~、本当に素敵なお店ね。まあ、電気式蓄音機もあるの? なかなか手に入らないのに、よく手に入れたわね。うん、良い音色♪」
「本当にご立派になられたわ、お嬢様。このエイミー、本望で御座います」
「遠いなかご足労頂き、ありがとうございます。是非楽しんで下さいね」
カーテシーは敢えてせず、深々と頭を下げた。
今日はあくまでも給仕役なので。
後ほど領地に行った際に、改めてお礼を述べようと思い、今日は軽めのご挨拶に留めた。お世話になりっぱなしですね。いつもありがとうございます。
室内にはピアノ曲が優しく流れ、木目調の店内の雰囲気と相まってゆったりとした気分になれる。
「お料理楽しみにしていたの。たくさん食べるわよ」
「短期間の準備で、よくここまで出来たね。制服もお洒落じゃないか? 外注? え、リオルナリー様の手縫いだって? それはすごいな」
「旨そうな匂いだ。おっしゃあ、食べるぞぉ!」
「ふふっ。お褒め頂き嬉しいです。コース料理なのですが、ご希望であればパンとサラダはたくさんありますので、申し付け下さい」
人により、料理のボリュームを変えてはいるが、騎士にはコース料理は物足りないかもしれない。そう思い、大量にパンを焼いて貰っている。余ったらお土産にしよう。
ホッテムズ伯爵夫妻と、侍女、護衛達は、少し早めに到着していたが、時間まで楽しみにすると言って、馬車で待機していたのだ。
「ルナさん。私達まで呼んで下さるなんて、ありがとうね。今日は新作の、数種類の花の香油を持って来ました。是非プレゼントさせて下さい。こちらの方がお世話になってますよ」
「ルナお嬢様、開店おめでとうございます。私まで呼んで頂けて嬉しいです。素敵なお店ですね」
「こちらこそ、いつも助かっています。お花もとても綺麗で、お店を華やかにしてくれました。香油は後ほど、この店での売買をご相談させて下さいね」
そして礼をして、仲の良い父子に微笑んだ。
カトレイア造園商会店主エクリストと娘ミリアは、リオルナリーが関わって以来、毎日忙しく走り回っている。ワンマン経営と言われ、口を出されることを嫌っていたエクリストは変わった。人の意見を聞き入れ、どんどん新商品を開発している。
最近は余った花(形の悪いものや育ち過ぎのもの)の花びらを纏めて搾り、香油や化粧水作りに着手しているそう。これも女性陣の意見から取り入れたようで、以前より団結力があがったみたい。
今度は、家族で来てくれるそう。
店の前の花壇も、室内の植木や窓辺やテーブルの花瓶の花も、この日に合わせて準備してくれた彼らなのだ。
色とりどりの植物は、とても元気が出る。
「今日はありがとうございます。
あのぉ。私達ったら、場違いじゃないですか? 大事なお客様なんて、そんな。それでは、家の野菜達を楽しませて頂きますわ」
「き、緊張します。そんな俺達がいないと始まらないなんて、嬉しいこと言ってくれるね。こっちの方が数倍ありがたいと思ってるのに」
「本当に感謝しております。
お二人と出会わなければ、このレストランの発想は出ませんでした。実際に頼ることばかりですしね。これからもよろしくお願いします」
深く礼をして感謝を述べる。いつも王都までは仕事でしか来ないと言うお二人に、ゆったりと過ごして欲しいと思うの。初対面の時も、私みたいな子供を信じてくれてありがとうございます。
言わずと知れた秘密兵器、アンマンとユリーナご夫婦。甘い果物と美味しい野菜の農家さんだ。ケーキじゃなくて、果物だけでも甘味に満足できる安心感。注文野菜が自宅にない時は、周辺農家さんから買い付けてくれる親切さ。ホッテムズ伯爵領と提携し、独自アイスやシェイクを作り出しており、特別にここにも販売してくれる手筈だ。
「ルナ様、私にまでお声がけ下さるなんて。今後も便宜を図りますので、よろしくお願いします」
「本当にお世話になっています。せめてものお礼ですので、楽しんでくださいね」
頭を下げると、下げ返してくれていた。いつもの企んだ顔はしておらず、素直に喜んでくれた。 “同伴されたい方がいればお連れください” と伝えていたが、私が時々声をかけてくれれば嬉しいと言うので、従うことにした。私の秘密がバレないように、気を使ってくれているのかもしれない。
初手からお世話になっている銀行頭取、ビル・シュバイツ。仕事と言えば仕事上の付き合いだが、いろいろ優遇して貰っているのでお呼びしたのだ。思った以上に動いて貰ってるしね。
一応全員に直接聞いたのだけど、絶対来ると返答してくれたので、強制じゃないのよ。
こんな感じでお世話になった方を呼んで、おもてなしのプレオープンを開始した。
あと追加として、ルナは少額を出資しただけでオーナーは “ルメンド” だからと、ホッテムズ関係以外の人には説明した。
あまり話が大きくなるとメイド業務に支障がある為、 “制服を作ったりお手伝いが主 なのだ” とみんなに強調すると、暖かく “他言しないです” と約束してくれたのだ。
どうやら訳あり令嬢だと理解してくれた模様。
事情を知らない人は、 “リオルナリーが貴族の庶子か何かで、目立って店主と名乗れないのだろう” と理解してくれたようだ。
まずはOK。
まあバレても、ルナとして活動しているので、実家の援助があると思われるだけだろう。実際平民にだってお金持ちは多いからね。
◇◇◇
パンは3種を用意し、
小前菜・前菜・ポタージュ・魚料理・ 氷菓・肉料理・デザートと、順番に食事を運び食してもらう。
メニュー表にはフルコース以外もあるけど、今日は料理の感想を聞きたいので、コース料理で設定したのだ。
ゆっくりとした、いつもと違う時間を感じて貰えるように、正装した6人で料理を運んでいく。今日はリオルナリーも、制服で配膳している。昼間なので、間接照明のようなロマンチックさはないが、食事は楽しんで貰えたし雰囲気も合格点のようだ。
みんな満足げに、また来たいと言ってくれた。材料も最高なので値段はわりとお高めだが、ランチ価格は良心的だと思う。夜間は2人で銀貨1枚くらいだけど、日中は銅貨5枚くらいにしたから。
ただ夜の営業時間は暫く様子見で、日中18時までと考えていた。
勿論定休日もあるけど、年齢的にも人数的にも難しい。新人を雇うにしても教育が必要だと思うし。
「「「「美味しかったよ。ご馳走さま」」」」
お客様が帰った後、表にクローズの札をかける。
片付けをしてからみんなの晩餐の準備をする。今日はホールで食べることにした。
「おつかれさまです」「おつかれさまです」と、言い合いながら、料理をテーブルにどんどん運んでいく。
大皿に料理を入れて、小皿で好きな量を取り分けた。
ジュースやワインで乾杯をしてから、いざ実食。
どれも美味しくて、みんなが笑顔になる。
「お嬢様、お疲れになりませんか?」
「ルメンドこそ、大丈夫? ずっと立っていると辛くない?」
「まだまだ若い者には負けませんし、久しぶりに背筋が伸びましたわい。ほほっ」
ルメンドの余裕な感じは嘘ではないと思う。
元気で良かった。制服も似合うよ。
「ナジェルダは一人で大丈夫? 大変だったでしょ?」
「いえいえ、お嬢様。予め準備が出来ているので、やり易かったですよ。貴族のパーティーよりも楽でした。ははっ。………それに楽しかったです。ありがとうございます」
「そう、良かった」
ふふっ、ナジェルダも大丈夫みたいね。
コックコートが少し緩そう。でもきっと、これからもっと健康的になると思うから大丈夫よね。
「俺は運ぶ度に食べたくなったよ。旨そうでさ」
そう言ってガツガツと食べるカイルアンは、 “ウマイ” と美味しそうにかきこんでいた。
味わって食べた方が………まあ、良いか。
頑張ったもんね。お疲れ様。
アカザ・テレーゼ・マリーは、何でもないように、ゆったりと食事をしていた。疲れもなく、 “これぐらい、軽い” という感じだ。そりゃあそうか、あの忙しい侯爵家でしれっと動ける人達だものね。
「お嬢様、配膳時の背筋の伸びが今一つでした」
「そうですね。その方が歩いた時に美しいですわ」
「はい。気をつけます」
「マリーも慌てないように。ここのコンセプトは、いつもと違う優雅なひとときでしょ? 私達は空気に徹するのですよ」
「優雅な空気?」
「そうよ。店の一部のような、目立たないようなね。お客様が主人。主役になるのですから」
「「「はい。テレーゼ先生」」」
「何よ、アカザまで。ふふっ」
「くすっ、何ですか? 先生」
「へへへっ」
「ふふふっ」
大笑いじゃなく、優雅に微笑んだ “ひととき” でした。
その後のオープンでは、私達が宣伝しなくてもプレオープンに招いた人達の口コミで店内が賑わった。
早く夜間帯の営業もして欲しいと、多くの人から希望が上がっていた。




