秘密会議
「ホッテムズ産のボーンチャイナよ。本当は飲食店に向く強度があるかわからないけど、かなり改良は重ねてあるわ。使い勝手と消耗具合(壊れ具合)を報告してくれれば、この間に預かったお金だけで良いわよ。どうする?」
喫茶店で、落ち着いた一時を過ごして貰う茶器や食器について、ホッテムズ伯爵夫人に相談していたのだが、何とボニー夫人と侍女のエイミーが、直接商品を持って交渉に来た。勿論、護衛3人と馭者2人つきで。
以前にオレンジとレモンを、ホッテムズ伯爵夫人へ突撃して買い取って貰った時に、立て替えたお金は銀貨50枚である。
その後も無事に取り引きは継続されており、農家さんも安泰のようで安心していた。
お金の価値は、
金貨1枚……………10万円
銀貨1枚……………1万円
銅貨1枚……………千円
半銅貨1枚………500円 がだいたいの相場である。
以前に銀貨50枚(約50万円)を預けた形だが、ボーンチャイナの相場は天井知らずである。軽く見積もっても陶器の2倍はするし、ホッテムズ産の物は人気があるので、さらに高値なのだ。
銀貨50枚程度で見繕ってくれると思ったのだが、何故か最高級の食器を持って現れた夫人。それには商魂逞しい目的もあった。
ここで食器を使用して貰うことで、購入希望者を増やす宣伝をしたいらしい。
紅茶カップやコーヒーカップとソーサーが、1セット4千円から1万円くらい。
ティーポット10万円くらい。
食器が5枚セットで大きさにより、2万円から10万くらい。
銀スプーンと銀フォークが1つ千円くらい。
食事用ナイフが1つ2千円くらい。
と、そんな訳で、50万円では太刀打ち出来ない値段なのだ。安ければ安くできるが、高いのも天井がない。だいたい50人分を目安に考えていたので、食器の数もそのように伝えていた。
ボニー夫人は振動に配慮しながら、遙々持参してきてくれた。そして銀貨50枚(50万円)で実質金貨50枚(500万円くらい)の食器を提供してくれると言う。
価格だけで考えるなら、コーヒーと紅茶のカップとソーサーセットを値段分購入する手もある。
しかしこれはホッテムズ伯爵からの餞別なのだ。
良い農家さんの紹介をした感謝もあるのかもしれない。
それならば受け取り、何かのお祝い事で還元するのも良いかもしれない。
なので、
「お話ありがとう御座います。是非よろしくお願いします」と受諾したのだ。
ボニーもエイミーも嬉しそうに、「商談成立で嬉しいわ」と言って、リオルナリーを抱きしめた。いつも何かしてあげたいと騒いでいた2人の気持ちは、少し叶ったのだ。
ホッテムズ伯爵達からすれば見返りなど不要なのだが、それをすれば矜持が傷つくと思い、この提案をしたのだった。
◇◇◇
レストラン部分に置く、2人用のテーブルも6つ購入して窓側に配置した。
業務用の冷蔵庫も購入し、トレイや大鍋などの調理用具も購入している。
そしてシェフも雇うことが出来た。
なんと以前に侯爵家に勤めていた、ナジェルダ(38才)さんだ。手足は普通なのに、下っ腹だけが引っ込まないと毎朝マラソンしてたわね。黄土の髪を短くカットした優しそうな人だった。優し過ぎたのか、奥さんが浮気して離婚してたみたいだけど。余談ね。
どうやら、次に勤めた子爵家で、味が薄いと何度もクレームをつけられて心が折れて辞めたと言うのだ。
たぶんその子爵はデップリ太っていて、味覚障害があったのではないかと。他のシェフは望むまま濃い味にしたみたいだけど、ナジェルダさんは矜持もあるけど、健康面のこともありいろいろ話し合ったそうだ。その結果酷い言葉で傷つけられたそう。
「不味い物を作る、言い訳ばかりするクズ」だと。
他の人はそんなことはないと言ってくれても、料理人として辛かったそうだ。
それを聞きつけたカイルアンが、勧誘したらしい。
「俺、ナジェルダさん以上のビーフシチュー食ったことない。暇ならまた食わしてよ」と、慰めることなんかしないで、本音でぶつかった。
「そんなに、食べたいか?」
「ああ、もう顔見ただけでお腹すくよ。それに今、アカザ・テレーゼ・ルメンド・マリーと、リオルナリーお嬢様と俺でレストラン始めるんだ。人手が足りなくて困ってるんだけど、ビーフシチュー得意な料理人に心当たりない?」
ナジェルダは鼻を鳴らして、俺以上のビーフシチュー食ったことないんだろ? って、話に乗ってくれたらしい。
レストラン従業員のメンバーにも驚いていたそう。
侯爵家の元重鎮と、アルオとニクスに虐げられていると聞いた私に会えるのも大きかったそう。
「何も出来ないまま、追い出されてしまった」と悲しい顔をしていたと言う。
貴族位を持っている、アカザやカイルアンの言うことも聞かなかった父親だから、平民のナジェルダが何か言って罰せられなくて良かったと思う。特にルメンドは祖父ジローラムの親友で、侯爵家を支えて来た人なのに。
いくつもの貴族家との繋がりを切った父親には、失望しかない。
切られたのかもしれないけど、そこら辺はよくわからない。
けれど私達は、強い味方をまた1人手に入れたのだ。
◇◇◇
そしてみんなと相談の上、お針子希望のナミビアを臨時で雇うことになった。
確かに彼女は祖父ジローラムと不倫をしたが、彼女は真剣だったらしい。
ナミビア自身はファンではあったけれど、手を出したのはジローラムである。彼女を求めて不倫を続けたのも、彼なのだ。けっして若かった彼女だけが悪い訳ではなく、権力のある方が戒める必要があった。
ナミビアは依頼された2人用のテーブルクロスと、ランチョンマットを指定された枚数作成してきた。大きいテーブルを参考にした刺繍も入れて、丁寧に仕上げられている。
コットンとシルクの制服も、みんなのサイズを仕上げてくれた。縫い方も丁寧で、天候に合わせてすぐに着替えられる程の着心地だった。
「とても良い出来だわ。納期も早いし、大変だったでしょ」
「いいえ、そんなことないです。皆さんに着て貰えると思うと楽しく縫えました」
「本当よ、すごく良いわ。そうだわ、ナミビア。貴女、ベストやスカートを、貴女のデザインで縫ってみたら良いわ。商品棚もたくさんあるから、並べて売りなさいよ?」
「そんな、私なんて無理ですよ。今回の仕事だけで十分です」
「貴女には、子供がいるのでしょう? いつか嫁に出す時に、少しでも持参金を持たせてあげなさいな。そう言うチャンスは、進んで掴むものよ。才能を知る者にアピールする機会なんて、そうそうないのだから」
「貴女の技術が、素晴らしいから提案しているのよ。この年でお世辞なんてもう言わないわよ。する必要ないもの」
「そうよ、ナミビア。
布地はこの店にあるし、衣装を見せる場所代も含めて、6割が貴女の手取りね。出来高制よ。文句があるなら、今言いなさい」
以前に働いていた憧れの二人に薦められ、ナミビアは声を震わせて応じた。
「よろしくお願いします。頑張ります」と、そう言って。
アカザもテレーゼも、頷いてナミビアと握手をした。
ナミビアはもう泣いていた。
ナミビアはずっと、リオを育てる為だけに生きてきた。
そんな時にルメンドと出会い、楽しい時期を思い出していたのだろう。彼女がまだ真っ白で大人に憧れていた瞬間に。だから少しでも、ルメンドと話をしたいと思い、リオルナリーに無理を言ってしまったのだ。
彼女はまだ希望に満ちていた瞬間に戻れたようで、侍女長とメイド長に褒められて、心の底から嬉しさが込み上げた。
特にテレーゼは彼女の気持ちが強くわかる。
家を追い出されて、1人で子供を育てることは大変なことだ。一歩間違えば、何処までも落ちかねないからだ。
幸いにして自分はホッテムズ伯爵が後見についてくれただけなのだ。
結局ジローラムは、妻のアメリアが、彼女の生家の公爵家が怖くて逆らえなかった。仕事の紹介状と僅かなお金を渡して彼女を捨てたのだから。
◇◇◇
(リオルナリーには内緒の秘密会議)
「お嬢様の話と、ナミビアの話を聞いたことでハッキリしましたね」
「ああ、リオはジローラムの子だ。黄色の髪に、緑の瞳。彼女がリオルナリーとばれたら、大変だな」
「ええでも、リオルナリーの眼鏡には認識阻害がかかっています。リオルナリーの瞳の色は、残念ながらアルオもジローラムもアメリアも知らないでしょう。生まれてずっと、普段から目を隠していましたし、あの人達が会いに来ることも殆んどなかったですしね」
「そうですね。皮肉なことに、近場では私達5人だけが知っているのですね。料理人のナジェルダも、お嬢様の瞳の色は知りませんわ」
「そうなんですか? 親なのに目の色も知らないなんて、バカにしてるね」
「本当よ。普通じゃないのよ、あの侯爵家は。だからイッミリー様が嫁入りさせられたのだもの」
「彼女の養子先と、ホッテムズ伯爵達は、全てご存じなんでしょ?」
「そうよ。私は、少しだけボニー様とお話したけど、お嬢様が楽しんでいるから、手出ししないみたい。成人になる15才まで、このまま不穏がなければお嬢様の好きにさせると言っていたわ。そして15才になったらーーーーーーーーーーーですって」
「そうか。ならば、見守ろうじゃないか。お嬢様の心のままに」
「「「「了解です」」」」
これからもリオルナリーを見守ることで、結束は固まったのだ。




