リオルナリーは、花屋さん?
10/13 15時 誤字報告ありがとうございました。
大変助かります(*^^*)
「貯金、貯金、ちょっきん、きん。カニじゃないよ♪ お金だよ♪ 甲羅のように、かたく貯めよう♪」
適当な歌を歌いながら、買い物前に銀行に行く途中のリオルナリー。
昼休みの時間に銀行を利用することを伝え、許可も出ている。例の臨時ボーナスの件で、みんなも手元に置くことが怖いと思っていたからだ。
まずは銀行に行って、遠い方から順繰りと八百屋、肉屋、味噌屋に寄って、邸に戻る予定だ。
通りを歩いていると、恰幅の良いおじさんが幼児を抱っこしながら歩いて来る。子供が泣いて手足をバタつかせていた。
リオルナリーの前を歩いている女の子が、突然幼児の動かした足にぶつかり転んでしまう。
「きゃあ」
「おお、悪い悪い。子供のやった事だから許せよ。可愛い顔が傷つかなくて良かったな。あははっ」
(嫌なおっさんだ。きちんと謝りもしないで、良かっただなんて、呆れるわ)静かな怒りを灯すリオルナリー。
おじさんは女の子の身なりを見て、止まることもなく歩き去って行く。
平民の子だと思ってずいぶんいい加減なものだ。
貴族にぶつかったら平謝りするだろうに。
駆け寄るリオルナリーは声をかけた。
「大丈夫? 怪我はない?」
ミリアと名乗るその女の子は、膝に擦り傷が出来ていたが強い痛みはないと言う。
だがそれよりも、売り物の花の茎が折れて落ち込んでいた。
「せっかく育てたのに。もう売れないわ、どうしよう」
彼女は、花や木を売る花屋さんの子だそうで、家が道路沿いにないから、通りまで売りに来たのだと言う。
その子を花屋さんまで送ると、お店は赤茶の煉瓦で建てられた立派な老舗の店舗だった。店前にはたくさんの切り花が、その後ろには畑とハウスが広がっていた。
鉢植えの物は温室で管理され、保管されているようだ。
代々此処に根づく花屋さんだそう。
今まではある伯爵家と定期の契約を結び、造園の手入れや花の購入もされていたそうで、店舗が目立たなくても支障がなかったそうだ。
けれど当主が代わり造園の手入れの契約を切られ、花の購入もされなくなったそうで、途端に収入が減少した。遣り繰りが大変そうなのを見て、ミリアは子供なりに現金収入を得られるように頑張ったそう。
何度か上手く行ったみたいだが、今回は花を駄目にしてしまいガッカリしていた。
(たぶん庭師は、代々受け継いできた仕事だったのだろう。家が立派でお花も高い。でも今の時代は当主の手腕で収入が変化する。件の伯爵家も恥を忍んで断ったのかもしれない。この家も時代に合った経営をしなければ潰れるだろう)
ミリアに聞けば、他の貴族家に同じような仕事を売り込みに行っているが、軒並み断られていると言う。
それはそうだろう。
元々お抱えの庭師がいれば新しく契約はしないし、新しく貴族になった者はそう言う概念自体がないだろうし。
その時リアルナリーは、パンツ売りを思い出していた。
コンテナや荷台を可愛く飾り立て、切り花は可愛い包装紙でラッピングし、いろんな色のリボンをお好みで括るのはどうだろう?
鉢植えの花は巾着のようにまるごと鉢を、可愛い布で囲むとかも可愛いかも。1つ1つでは脆弱に見える切り花も、たくさんの種類の花を纏めて並べれば花畑のように素敵に見えそう。
そんなビジョンが脳裏に浮かび、リオルナリーは彼女の父親エクリストに提案することにした。
このまま収入が無ければ、この家は借金で潰れるだろう。
私と年の変わらないミリアの方が現金を入れているのに、それを認めず足掻く親を見て情けないと思う。
と言うか、お金のなかった(お金があっても使えなかった)リオルナリーは思う。
『プライドでお腹は膨れない』のだ。
出来ることがあるのだから、やってみなきゃ駄目だと。
「お仕事を依頼します。取り合えず前金で金貨6枚を払います。このアイディアを紙面に纏めて、ルナ・マンダリン名義でギルドで特許を取ってください。
・荷台にたくさんの切り花や鉢植えを揃えて売ること
もし特許が取れなくても、今回が元祖と認められれば十分です。必ず話をしに行って下さいね。特許が取れない時は “カトレイヤ造園商会” が初めて移動販売をしますと伝えてください。
許可に資金がいるなら、その場で支払ってください。
売り歩く時は、
カトレイヤ造園商会と、荷台にバッチリ名前を布で張り付けて宣伝するんですよ。店の場所の説明と、ハウスにも花や鉢植えがドッカリあって、新鮮な花を提供しますよって言いながら売り歩いてください。
可愛い包装紙を何種類か揃えて、お客さんの好きなもの選んで貰ってください。
それを括るリボンは10種類は揃えてくださいね。
出来るなら簡易の契約書をすぐに作成してください。
私には後40分しかないのです。
金貨6枚は今お渡しします。
売り上げの一割を、毎月私に渡してください。
もし収入がマイナスならば、銅貨1枚もいりませんから。
それでも、よろしいですか?」
捲し立てるように言う、リオルナリー。
出来るなら、自分でやってみたい商売。
でも今は侯爵家から離れられないから、例え損をしても根性のあるミリアに託しても良いと思えたのだ。
さすがに荷台は一人で押せないが、大人がいれば安心だ。ミリアは可愛いから、下手をしたら本人が拐われてしまいかねないし。
金貨6枚に、エクリストは悩んだ末に契約をした。
今のままでは金貸しに、高金利で借りなければならなかったからだ。
このお金があれば、金貨3枚で十分にいろいろな未払いの支払いも出来るし、残りの金貨で先程の提案を十分受けられると思ったのだ。後は今までの媚びないというプライドを捨てれば、出来ないことはない。
そして、エクリストも商売人だ。
依頼を受けたなら、言われるようにやって結果を出してみようと思ったのだ。
リオルナリーの貫禄 (大人相手に時間がないと言う)は、お忍びのお嬢様のように思えたのだ。
ただ今回のリオルナリーは、昼休みを潰しているので時間がなかっただけ。もう銀行には行かないから、パンでも買って食べ歩きしようと思ってたくらいだった。
「それでは、よろしくお願いします」
「こちらこそ、ありがとうございました」
リオルナリーはジャムパンを牛乳で流し込んで、 “ほぉ、旨い” と満足して八百屋に走った。
そしてエクリストはリオルナリーに深く頭を下げた後、商業ギルドに走った。
やはり荷台で何かを売る特許は貰えなかった。
ただ店舗がある荷台売りは、毎月銅貨5枚で済むそうだ。そう言うことも知らなかったので、エクリストにも学びがあった。
何より毎日上手く行かずもんもんとしていた時より、何だか楽しい気持ちで、妻と娘と従業員で準備を進められた。
時は丁度月始め、月末が楽しみである。
◇◇◇
「デートにお花はいかがですか? いろいろな種類が揃っていますよ」
可愛らしく飾りつけをした荷台が、綺麗な花をたくさん積んで公園に止まった。遠くから見ても、ピンクの屋根を付けた可愛い花屋さんが目に入る。
父親のエクリストとミリアと従業員が1人。
笑顔で呼び込みをしている。
それを見た人々が、記念日やデートの為に花を求め始めた。そんな人達の表情からは優しさが滲んでいる。
水につけたコンテナから選ばれた花の高さを整え、包装紙で包んで綺麗なリボンで持ち手を括って渡す。
値段もホドホドで、それほど高額ではない。もし特別な花が欲しいなら、店舗から直接届ける注文を受け付けている。
「可愛いわ、ありがとう」
「今日が妻の誕生日だったのを思い出したよ。花なら喜ぶよ、ありがとう」
「お母さん用に1本ください、誕生日なんです。すごく綺麗、選ぶだけで私も嬉しくなります」
「ああ、綺麗。今は買えないけど、来月は買うからね」
「彼女に薔薇をください。プロポーズ頑張ります」
たくさんの人が花を楽しんで買ってくれる。
店で待っているだけでは出会えなかった人達だ。
こんなに近くで喜ぶ顔を見るのも、久しぶりで感動する。
初回は珍しいから多いだけかもしれない、けれど需要はあると思えた。
宣伝しつつ切り花や鉢植えを売り、カトレイヤ造園商会の知名度は上昇した。店舗に来てくれる人も日々増えている。
リオルナリーが月末に受け取ったのは、なんと金貨1枚。
前金も金貨2枚余っていると正直に話してくれた。
でもそれは先行準備金だからと、エクリストが持つように伝えた。
結果、毎月金貨1枚と銀貨が数枚手に入ることになった。元手金も侯爵家の侍女のやらかしで手に入った金貨なので、誰かに聞かれても内緒にするほどのこともない。
だがエクリストは、リオルナリーをお忍びのお嬢様だと思っており、拡散せずにこっそり感謝するのだった。
「ルナ、ありがとうね」
「私こそ、儲かったよ。ありがとう」
満面の笑みのミリアに、微笑み返すリオルナリー。
ミリアは誓った。
ルナが困った時は、絶対に助けてあげるんだと。
思いがけず、味方が出来たリオルナリーだった。
今後の1割の収入分は、銀行に直接送金して貰うことにしたリオルナリーに、銀行頭取ビル・シュバイツの黒縁眼鏡の奥が光る。
「大したものだ。潰れそうな造園商会を立て直し、毎月利益の1割を懐に入れるなんて。さすがリオルナリー」
不適に笑う29才だった。
ケイシーは思った。
「子供はちゃんとご飯の時間を取れ! 何金儲けしてるのさ。まあ、すごいけどね」と一人、健康を心配して呟く。
この契約時はケイシーは昼食を作っており、後から聞いた情報なのだった。




