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勝手に生きてます  作者: ねこまんまときみどりのことり


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11/56

いざ銀行へ

9/24  15時 誤字報告ありがとうございました。

大変助かります(*^^*)

 「大きくなりましたね。リオルナリー様」

 「お久し振りです。今日はよろしくお願いします」



前もって手紙を書き、弁護士に連絡をしていた今日。勿論封印は、こっそり執務室で押したものを送った。


ドレスは屋根裏部屋からイッミリーの服を手に入れて、夜間にチクチクと縫い合わせ、簡易のちょっと良さそうな黄色いドレスが出来上がり。布地の良さの勝利だろう。

靴は以前購入した新品だ。白いショールをすれば、首元の飾り気の無さが誤魔化せた。

喫茶店で待ち合わせ、向かいの銀行まで移動する。




リオルナリーは母の遺言通り、未成年なので弁護士ハインツを伴って銀行へ足を運んだのだ。

受け取り証書をハインツと共に銀行員に確認して貰い、金庫から取り出し預金することにした。お金はアタッシュケースに入っているので、金額はハインツには知られていない。



預金の書類作成は、リオルナリーが一人で行う為、ハインツには応接室で待機して貰う。

2/3を架空の男爵令嬢、ルナ・マンダリンに入れ、1/3をリオルナリー名義に。


1/3としても大金であるが。


リオルナリーに対応してくれた銀行頭取は、母親の貸金庫の対応をする為に、伯爵家に来てくれた人と同じだった。

ランドバーグ・ホッテムズ伯爵の親戚に当たると言う。


だからリオルナリーは、こっそり2つの口座を持つことをハインツには内緒にして貰ったのだ。


「内緒にする件。賜りましたよ、お嬢様」

「信頼しておりますわ。ビル・シュバイツ様」


さっそく訓練と称して、窓口でハインツへ依頼料を支払う。その際に後ろにいた彼に、金額を見られた気がした。


そして感謝の言葉と共に、お金を渡したのだ。

「ご苦労様でした、ハインツ。助かりました」

「お役に立てて何よりです。それでは」


ハインツが帰った後、リオルナリーは通帳を再び貸金庫に入れた。

それも別々の貸金庫に。

使用料はかかるが、そこは目を瞑ることにした。

ケチって盗まれたら、目も当てられないから。


入れる前に金貨、銀貨、銅貨を、背負っているリュックいっぱいに引き落とし、袋別に分けて貰った。


そして先程の応接室を借り、持参したお仕着せに着替えさせて貰った。

上に大きめのショールを羽織るので、一見お仕着せには見えないだろう。胸に大きめのブローチを付け、服に目がいかないように工夫する。



その後にビルが、カートでお茶を運んで来てくれた。

人目を忍んでいるので、人を介さずに来てくれたことに感謝だ。


「何か事情がおありですかな?」

「そうね。私は貴方も知る通り、若くて後ろ盾がないから。父親も味方ではないわ」

「…………そうで御座いますか。お嬢様にそこまで言わせる程に」

「ええ。なので私は自立する必要があるのです。何か良い投資先はないかしら?」


ビルは目を見張る。

子供が投資などと言うから、面食らったのだろう。

でもそれは一瞬で、通常の顔に戻っていた。


“資料をお持ちします” と、一旦部屋を出てからたくさんの書類を抱えて戻って来た。

「現状の最優良さならこちら、これとこれも優良で、今後の見込みとしては、こちらもよろしいでしょう」


リオルナリーは良く解らず、うんうんと頷く。

お母様の教えで、 “解らなくてもしっかりと話を聞いて頷き、適当なところで質問をしなさい” と言われてきたから。


ビルは信頼出来そうだけど、こちらの手の内を全て晒すつもりはない。先程の銀行口座の件は、信頼される銀行家としては当たり前のことで、それを破ればホッテムズ伯爵に抗議すれば何とかなるだろう。


たぶんビルは、良いものしか持って来ていないはずだ。

その中でも私は、食べ物の商会を4つ投資することにした。


「ほほぉ、そうですか。賜りました。何口に致しますか?」

「リュックにある金貨で足りる口数でお願い」

「そんなに、ですか? 損害の可能性もありますよ」

「良いのよ。投資リスクは覚悟しているわ」

「なるほど、失礼しました。それでは此方にサインを。ありがとうございます」

「お手数かけるけど、証券はまた金庫にお願いするわ」

「ルナ様名義ですね」

「……ええ、御願いします」


今後の金庫の出し入れについては、ビルが対応する場合であれば弁護士不要で良いと確約してくれた。


初交渉し、ドキドキで帰るリオルナリー。

ハッキリ言って儲かるとは思わない。

たぶんほぼ変わらないだろう。

けれど、まずはやってみないとね。



銀行を後にしたリオルナリーを、真剣な眼差しで見送るビル。

「何でも儲かると思われては危険なので、下落する投資物件を交ぜておいたのに。さすがホッテムズ伯爵の秘蔵っ子の娘だ。あの若さで感心するよ」


適当に選んだものをさすがと感心するビル。

ただの親切で頭取までは登れないだろう。

『あるものからは若くても搾取を。もの知らぬ金持ちからはさらに搾取を』


投資を遊びで行わないように、戒めを込めて適当に損もさせる冷静なビル。勿論適正に収益を上げる商会も併せ、利益を享受させることも忘れない。


ただでは転ばないビルは、リオルナリーの名を呟きながら薄く笑った。


まだ29才で、子爵家次男の秀才と言われた男。

異例の出世頭で、美形の長身。

黒髪を後ろに全て撫で付け、濃紺の瞳を黒縁眼鏡で光らせる野心家だった。




◇◇◇

初めての投資にドキドキが止まらないリオルナリー。


激しい動悸は空腹を促した。


「お腹減った。何か食べていこう」


そうして入ったレストランの裏手で、争う声が聞こえた。


「今日はたくさん仕入れたから、もういらないんだ。持って帰ってくれ!」

「ええっ、そんなことをしたら、腐ってしまうよ」

「お宅とは、決まった取り引きをしていないだろ? 文句言うなら、もう買わないぞ」

「そんなぁ」


どうやら少し遠くの農家さんが、不定期で王都に来て果物を売っているようだ。

レストランでは既に果物を購入し、これ以上は必要ないと言われて落ち込む農家さん。



リオルナリーは放って置けず、声をかけた。


「あのぉ、どのくらいあるのですか?」


今日のリオルナリーは、ちょっと上品モード。

お仕着せを着ているが、ショールとブローチで上品なお嬢さんに見える。お化粧もバッチリだ。


農家さんは荷台いっぱいのオレンジとレモンを見せてくれた。とても美味しそうで、甘い香りがする。


私は取りあえず1つずつ買い取り、食べてみることにする。

(うん。やっぱり甘い。侯爵家で食べるものより濃厚な甘味だ。これならランドバーグ・ホッテムズ伯爵に買って貰える)


「ねえ、おじさま達。私はランドバーグ・ホッテムズの親戚なの。ホッテムズ領地まで私と一緒に行けば全て購入して貰えるはずよ。そこまで行きましょう。ここにある物が全て売れたらいくらになるの? 銀貨50枚ね。それなら先渡しで私が払うから、運んで下さいな」


リオルナリーは、少し高飛車に彼らに言う。

そうしないと子供だからと言って、舐められそうだったからだ。

そして彼女には、先程おろして来た資金がたくさんある。


「はい。銀貨50枚と輸送賃にもう一枚。早く行きましょう」

たった数分の出来事に、農家さんの思考がついていかない。けれどリオルナリーは、大きな声で喋り続ける。


「私、こんなに美味しい果物を食べたことがないわ。それにもう、ホッテムズ伯爵優先になるから、暫く私も食べられなくなりそうね」


「優先? 本当に?」

困惑気味の農家のご夫婦は、希望に目を輝かせた。


何気なくホッテムズ伯爵の話を前面に出し、そこに行けば美味しい物があると意識づけしたのだ。


そして周囲に宣伝とばかりに、オレンジをポンポンと渡していく。既にお金を貰っている夫婦に文句はない。


「今日は良い取り引きが出来たから、皆さんにもお裾分けよ。はい、はい、はい、はい、はい。また食べたい時は、ホッテムズ領に行って頂戴ね。では、ごきげんよう」



手を振って、荷台に乗って去っていくリオルナリー。


手綱を持つ農夫、その横に座る農婦、そしてその隣にちょこんとリオルナリーだ。ミスマッチにも程がある。


そんなリオルナリーを遠くで見ていたケイシーは、頭を抱えて馬を借りに走る。


「あいつまた、何考えてんだ。まったくもう」


そうして変装し、ホッテムズ領地まで馬を走らせるのだった。



◇◇◇

「あまーい。これ凄く甘いわ。砂糖が要らないなんて、なんて騎士向きなのかしら?


リオルナリーの睨んだ通り、ジュースにしてもケーキに入れても、干し果物にしても最高だわ。


魔法で冷凍して、そのままクラッシュすれば、甘いシェイクも即出来上がるわ。なんて素晴らしい!」


ホッテムズ伯爵夫人、ボニーや侍女のエイミーが、果物を食べて感動していた。


ホッテムズ領地は、健康増進の為に砂糖を控えるメニュー作りを考案していた。勿論甘味があるものは糖度が高いのでカロリーは高いが、その分自分で気をつけることができるし、満足感も強い。それに遠征先に持っていくドライフルーツを作るには、もってこいの素材である。


クラッシュアイスにすれば果物だけで、カロリー控えめで美味しく作れるだろう。



「そ、そんなに喜んで貰えるなんて。くぅ、涙が」

「貴方、良かったですね」

「お前のお陰だよ。ありがとう」


感動の2人だが、リオルナリーには帰宅時間が迫っている。


「お二人共、今度こそ契約ですよ、契約」

「ああ、そうですね。それでは契約して頂けますでしょうか?」


唐突な物言いも、リオルナリーに促されたのが解るのでみんな笑顔である。


それにもう、リオルナリーが前金で銀貨50枚支払っているというから、苦笑いに変わる。途中で試食を配ったり、自分で食べたので貰う銀貨分から減らして此処でストックして置いてと言うのだから。


「もう。行動的なのは母親にそっくりね。勝手に決めて。でも良いわ。良い取り引き相手を連れてきてくれたから」


「お嬢様はお変わりないですね。心なしか逞しいような」



ギクッとするリオルナリーだが、またオレンジに手を伸ばし、かじりついて誤魔化す。

実はみんなにリオルナリーの行動は駄々漏れで、ただただ心配している。けれどイッミリーの遺言、「リオルナリーは自由に育って欲しい」を実践しているのだ。


もう木の陰にはケイシーがいて、こちらを見守っている。自由だが過保護状態なのだ。


ランドバーグ伯爵も傍にいるのだが、ケイシーの報告に笑いが止まらず出てこれないのだ。


「もうあいつ、メチャメチャだな。誘拐されたらどうするんだよ。まあ勘でそこらへん解るか、便利なもんだな」



そんな感じで、農家のアンマンとユリーナ夫妻は無事契約した。

農地には魔法使いがいないので、輸送距離が長くて大変だと言うと、魔法使いを1人派遣して、コンテナに保冷魔法をかけたり、その地で凍らせてアイスを作って売ることも可能にした契約も追加した。

アイスなどの場合は魔法使いの歩合制で、1ついくらで賃金を発生させることになった。周辺で希望する農家さんにも出稼ぎに行く魔法使い。魔法付加単価を安く設定しているので、頼みやすいと評判だ。


農家さんでも、売れない果物をシェイクにしたりアイスにする技術がなく、捨てることが多かったので喜んでいた。その後交代で魔法使いが派遣され、みんな特産品の料理が美味しくて若干ふっくらして帰ってくる。その時ばかりは健康増進は中止し、戻ってからトレーニングし、また赴ける日を楽しみにしていると言う。


どうやらWin-Winになったようだ。


そんな感じでその農地付近の生産性が高まり、リオルナリーの投資した商会の商品だったことで、投資金が増えていた。



リオルナリーの帰り道は、ケイシーが変装して連れて帰った。

「丁度良く、王都に行く人がいてラッキーでした」

「ええ、本当。偶然ってあるんですね」



満面の笑みのリオルナリーと、疲労気味のケイシー。

そしてリオルナリーに貰った、オレンジにかぶりつくケイシー。


(疲れた。あ、これ、旨いな。もう一つ食べよ) 


もう少し頑張れそうなケイシー。

そして荷台で寝転がるリオルナリーだった。


「あぶねーな。アホ面して。ふははっ」


野生の勘で安堵し、きっと気を許したのだろう。

落ちるなよ、リオルナリー。



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