母との別れ
9/24 15時 誤字報告ありがとうございました。
大変助かります(*^^*)
「もう、邪魔! 本当にお前は目障りね!
どっかに引っ込んで、姿を見せないでちょうだい!」
政略結婚の前妻は病の為に亡くなった。
その夫には結婚前から懇意にする恋人がいた。
夫の恋人は後妻に納まり、アラキュリ侯爵夫人となった。
夫の名前はアルオ、後妻の名前はニクス、二人の子はナジェール(男)である。
そして前妻はイッミリー、その子供はリオルナリー(女)である。
れっきとしたアルオとの子だが、リオルナリーはアルオに殆ど構われた記憶がなく、顔さえもうろ覚えである。
アルオも同じで、覚えているのは娘の髪が黄色かったと言うことだけ。
イッミリーが死ぬまで、自宅にろくに戻って来なかったので、娘の顔も瞳の色も忘れていた。覚えていないと言った方が正しいかもしれない。
アルオは取りあえず教育だけはしようと思い、家庭教師が来たらスカートを履いた黄色い頭の子供を連れて行った。黄色の髪は目立つから見つけやすい。裏手にある洗濯場の周囲で遊んでいるから、声もかけやすかった。
そこならニクスの目も届かず、彼女の機嫌が悪くなることもないから安心だ。
「わたしはリオよ。リオルナリーじゃないわ」
「ああ。名前なんてどうでも良いから、さっさと来い!」
抵抗する少女の腕を乱暴に掴んで、応接室に彼女を運ぶアルオ。その時彼は思った。
イッミリーがきちんとフルネームで呼んでおらず、愛称のリオを自分の名前だと思っているだけで、成長すれば、自然と名前くらいわかるようになるだろうと。
応接室に来た彼女を見て、雇われたばかりの家庭教師はそばかすにおちょぼ口がリオルナリーだと覚えたし、使用人達も彼女がリオルナリーだと思い込んだ。
ただ使用人は、イッミリーが死んでから全員入れ換えていた。
ニクスはイッミリーが病に伏している時から、図々しくも時々侯爵邸に出入りしており、その時に伏し目がちに歩くリオルナリーを見かけて、イライラしていたのだ。
(私と息子が此処に住めないで辛い思いをしているのに、あんな立派なドレスを自慢気に着ているなんて、許せないわ!)
そう思っていたので、葬儀が終わった時点で使用人棟に放り込んだのだ。ちなみに彼女もリオルナリーの顔や瞳をまともに見ていない。
勤めていた使用人達も、まさか全員解雇されるとは思っていなかったので、リオルナリーのことまで気を回す者は居ないだろう。
一方で彼女は、初めてニクスを見た時からピンと来ていた。
ニクスと言う女は、たぶん “ヤバそうな奴だ” と野生の勘が働いたのだ。まあ、イライラした感情を父親の愛人にぶつけられ続けたら、そう思うかもしれないが。
そして彼女はその勘で、母親の生前から、母親の死が近いことを悟っていた。だから使用人棟の台所の床にある、鍵のかかる荷物庫を使う許可をメイド長に貰ったのだ(床下は腰が辛くなるからと敬遠され、未使用だった)。
メイド長はリオルナリーを気の毒に思っていたから、そんなことくらいはと、気にも止めていなかった。
(母親が寝たきりだから、心配で外にも行けないのね。父親だって戻ってこないし。ここに何かを隠して、宝探しごっこでもするのかしら?)
そう思い、使っていない鍵も彼女に渡した。
その上に、6才の子供が転んでも安心なタオルケットも置いてくれたのだ。
だが彼女は思った。
この場所は目立たない方が良いだろうと。
その為メイド長に、 「忍者ごっこで隠しっこをするかもしれないから、この秘密の場所を隠すような、床と同じ色の薄いビニールの板みたいが欲しいの」と頼んだのだ。
台所は水や土で汚れやすい。
成る程それなら、拭けば綺麗になるから長く使えるし、目新しくないから扉も見つかりづらいだろう。
「それは良いですね。この場所にもぴったりです」
数日後に床の荷物庫が隠れるビニール板が到着した。
クルクルと巻けば、すぐに荷物庫を開けられることも確認したのだ。
リオルナリーは夜な夜な、夜勤などがある為に鍵のかからない使用人棟に訪れた。
そして動けない母親の宝石類を、そこに隠し始めたのだ。
所謂タンス貯金ならぬ、床下貯金である。
怪しまれないように、ちゃんとファスナーのあるぬいぐるみの中に、パンパンに宝石やアクセサリーを詰め込んで。
ぬいぐるみならば、抱えているのを見られてもホッコリされるだけだから。
母親が眠りに就く度に、こっそり部屋を漁ってぬいぐるみに詰めていくリオルナリー。実は母親は気がついていた。
けれど自分の目を盗み楽しそうな娘に、微笑みながら知らない振りをしていたのだった。
(私が死んだら、あの子にはこの家で味方がいなくなるわ。今のうちに伯父様にお願いしておこう)
そう考えたイッミリーは、手紙を認めてランドバーグ・ホッテムズ伯爵へ送った。すぐに返信が来て、「リオルナリーのことは様子を見るから、病を癒しなさいと記載されていた」のだ。
「伯父様、ありがとう」
娘の糧になる人物がいたことを、今日ほど嬉しく思ったことはなかった。
そして弁護士に頼み、自分の持てる全財産を銀行の貸し金庫に預け、受け取り証書をリオルナリーの大好きな絵本の背表紙に挟みこんだ。
自分の財産を目につかない場所に隠したのは、それが娘に使われないと解っていたからだ。
医師にはっきり言われずとも、体調は改善せずに悪化するばかりだから、娘の為にふらつきながらも出来る限りの行動をしたのだ。この時ばかりは、夫がいないことが幸いした。
「この本を大事にしなさい。出来れば隠しておくと良いわね。本当に困ったら、これを銀行に持っていきなさい」
微笑んだ母親の顔は、娘に対する心配が滲んでいた。
「大丈夫だよ。私には野生の勘があるから」
いつも以上におどけて、母親を笑わそうとしたリオルナリーだが、痩けた頬と顔色の悪さから涙が出てしまい、それを隠そうと抱きついてしまう。
(ああ、お母様。こんなに痩せてしまって、お可哀想に)
「あらあら、甘えん坊ね。うちのカワイ子ちゃんは」
イッミリーも娘を弱々しくも抱き締め返した。
それが母と子の、最期の抱擁だった。
8/21 1時 日間ヒューマンドラマ(連載)36位、11時、16位、14時、13位でした。 ありがとうございます(*^^*)
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10/12 17時 ヒューマンドラマ(完結済) まさかの5位でした。
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