第五十七話 晩さん会の始まり
トールさんたちも呼ばれて挨拶をしている間、飲み物が配られました。
グミちゃんとタマちゃん用に、小さいグラスも用意してくれました。
そして全員の挨拶が終わったタイミングで、グランツ様の挨拶が始まりました。
「この度は、多くの勇敢なものによりこのライザンツ子爵領の危機を救う事ができた。領主として、深く感謝する。ささやかなもてなしだが、今宵は楽しんでくれ。では、乾杯をする。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「アオン!」
こうして乾杯が終わり食事を食べようとしたら、またもやブライアンさんが私の事を呼んだ。
凄く嫌な感じがしたけど、ブライアンさんの隣にはグランツ様が控えているので断る訳にはいかない。
ライアー様は、他の人たちのところに行って話を聞いていた。
私もそっちが良いと思って、グラスを手に持ちながら二人のところに向かった。
「マイ、悪いな。マイがどうやってゴブリンキングを倒したか、領主様が話を聞きたいそうだ」
「これほどの凄腕の冒険者は中々お目にかかれないし、うちの凄腕の守備隊員も倒したそうではないか」
グランツ様が、ものすごくニコニコしながら私の事を待っていた。
うーん、どのあたりから説明すれば良いのだろうかと思ったけど、ゴブリンキングの件って言ったのでそこだけ話をしよう。
「戦闘中に話を聞いたのですけど、ゴブリンキングは集団の中で一番強いものに戦闘を仕掛けるそうです。そして、ゴブリンキングは私をターゲットとして襲い始めました」
「最初から、ゴブリンキングはマイをターゲットにしていたのだな。これは中々凄いことだな」
今思うと、何でギルドマスターや強い守備隊員がいるのに私がターゲットになった時点で苦労の始まりだったんだよね。
せめて、ゴブリンキングじゃなくてゴブリンジェネラルを相手にしたかったよ。
グランツ様はとっても関心を持っているけど、私としては予想外の展開でした。
「ゴブリンキングの皮膚はとても硬く、胸や腹などを攻撃しても全く通じませんでした。なので、戦い方を変えました。人型なので、関節を狙って動きを止めることにしました。ヒットアンドアウェイ方式でゴブリンキングの膝にダメージを与えて、動きを止めることに成功しました」
ここは格闘家らしい攻め方をする事ができた。
もしかしたら、剣士スタイルのギルドマスターと守備隊員は硬い皮膚に剣撃を弾かれた可能性がある。
剣士ならどうやってゴブリンキングを倒したのか、ちょっと気になるなあ。
「その後、本日も晩さん会に参加しているマナさんに魔力を体の一部に溜めて攻撃する方法を教えて頂き、ゴブリンキングの頭部目がけて攻撃をしてトドメを刺しました。確実にトドメを刺すのなら、胸部や腹部よりも頭部の方が良いと判断しました」
「うむ、素晴らしい判断だ。まるで、熟練の格闘家のようだ。最小限の攻撃で相手を仕留める為の工夫が施されている。これなら、武道大会に出てもかなり良い成績を残せるだろう」
おや?
グランツ様から、何やら面白そうな話が出てきたよ。
私の興味は、既にゴブリンキングの件から武道大会に移っていた。
この格闘技大会については、ブライアンさんが詳細を教えてくれた。
「王国の各地で予選会を兼ねた武道大会が行われ、成績優秀者が王都で行われる本戦に参加する。様々なスタイルの格闘家が武道大会に参加し、王都での本戦優勝者には国王陛下より直々に商品が贈られる。四年に一回の大会で、ちょうど来月に隣のセレスティア伯爵領で武道大会が開かれる。ライザンツ子爵領からも何人か参加予定で、この分だとマイは強制参加だな」
「ライザンツ子爵領で冒険者登録をしたものが、予選を勝ち抜いて王都の本戦でも好成績を収める。我が領にとって、とても名誉なことだ」
既にグランツ様の頭の中では私が好成績を収めることになっているけど、強制参加はともかくとして武道大会自体はとっても興味があります。
ブライアンさん曰く、一週間後にまとめて隣のセレスティア伯爵領に移動する
らしいので、私も一緒に移動するそうです。
話はこれで終わりで、次にジェフさんとアクアさんが呼ばれました。
ふう、ようやく解放されました。
「あら、タマちゃんもゴブリンを倒したの。とっても頑張ったのね」
「アオン!」
そしてグミちゃんとタマちゃんのところに戻ると、タマちゃんがライアー様に抱っこされながらニコニコ顔で話をしていた。
その横のテーブルでは、グミちゃんが次々と料理を平らげていた。
私はまたかと思って、ライアー様とタマちゃんのところに駆け寄った。
でも、ライアー様曰く「とても素直で可愛らしいコボルトね」と、にこやかにされていた。
私はもう諦めて、グミちゃんと一緒に食事を始めたのだった。




