第五十一話 良い教材
「どうした? やけに疲れているな」
冒険者ギルドに向かうと、疲れている私達をギルドマスターが不思議そうに見ていました。
理由は言わずもがなです。
「個人的には、午後も森の調査をしたかったです」
「アオン……」
「はは、そうか。なら、今日はさっさと終わりにするか」
ギルドマスターがバンバンと強めに私の肩を叩いたけど、私のやる気は低空飛行です。
グミちゃんもタマちゃんもやる気がないけど、新人冒険者には関係のない事なので何とか気合を入れ直します。
座学の部屋に入ると……
あれ?
今日は八歳くらいの小さい子だけだ。
「情けない事に、昨日のゴブリン騒ぎが街に伝わって少し様子見をしているみたいだ。子ども達はそんなの関係ないからな」
森で活動ができないからって、別に街での依頼もあると思うけど。
そんな事を思いながら、講義が始まります。
「じゃあマイ、あと宜しくな」
「へっ?」
バタン。
ギルドマスターが、私に全部を押しつけて部屋を出ていきました。
そんなのないですよ……
とほほと思いながら、私は講義を始めます。
「えー、講師のマイです。皆さん、宜しくお願いします。冊子を元に説明しますので、手元に用意して下さい」
「「「はい!」」」
うんうん、小さい子はやる気が違うね。
とっても癒されます。
一通り説明をするけど、特に重要なところは強調します。
「悪いことは、絶対にしちゃ駄目ですよ。特に他人に迷惑をかけると、偉い人に怒られちゃいます。分からないことがあったら、必ず大人に聞きましょう」
「「「はい!」」」
大体話が終わったところで、実技試験に移るので全員が部屋を出ます。
すると、ここで良い教材が目の前に現れました。
「ははは、子連れのカモみたいなのがいるぞ?」
「そうだな、魚のふんみたいにゾロゾロと引き連れてやがる」
昼間から酔っ払って騒いでいる馬鹿二人組が、私たちの前に現れました。
うーん、テンプレ通りの馬鹿ですね。
「はい、みんな注目です。冒険者ギルド内では、他人の迷惑になるので騒いではいけませんよ」
「「「はい!」」」
「「「ガハハハ、アホがいるぞ」」」
私が子ども達に注意すると、周りにいた冒険者が大笑いしています。
子ども達も、素直に返事をしています。
すると、当たり前に酔っ払いがヒートアップしました。
「おうおう、嬢ちゃんよ。俺たちに喧嘩を売っているのか?」
「ふざけてるんじゃねーぞ!」
うん、酔っ払いがテンプレ通りに怒り始めたぞ。
でも、私も普通に対応しましょう。
「こうやって、他人を脅したり喧嘩を売ったりしてはいけません。冒険者に限らず基本な事ですよ」
「「「はーい」」」
「「「ガハハ!」」」
「「テメー!」」
うん、ここまでテンプレ通りの馬鹿だとある意味清々しいなあ。
周りにいた冒険者は大笑いしているし、もしかしたらこの酔っぱらいはギルド内で問題を起こす常習犯なのかもしれない。
こうなると、冒険者ギルドの偉い人が登場します。
「お前ら、ちょっとこっちに来い! 前も暴れていたな?」
「「げっ、ギルドマスター!」」
やっぱりというか、冒険者ギルド内で騒いだからギルドマスターが私達の前に現れた。
そして、二人の首根っこを掴んで、ズルズルとカウンターの奥に消えていった。
「この様に、冒険者ギルド内で騒ぐと冒険者ギルドの偉い人がやってきます。冒険者ライセンスの停止、酷いと剥奪になるので気をつけましょう」
「そうだぞ、気をつけろよ」
「ちょうど良い教材がいたな」
「「「はーい」」」
周りにいた冒険者も、子ども達に色々と注意をしていた。
うん、良い教材をありがとうと言いましょう。
因みに、子ども達は実技経験が少ないので、武器の取り扱いをメインに教えました。
その代わりに、荷物講習はキッチリと行います。
こうして何とか初心者向け冒険者講習は終わり、受付に戻りました。
すると、何故か副ギルドマスターが私達を待っていました。
「マイちゃん、明日調査のついでに子ども達の薬草採取講座をしてあげて。薬草採取名人のおじいさんに頼んでいたんだけど、ぎっくり腰になっちゃったのよ。いきなり現地で良いわ」
あの、確かまだ森は全開放していないはずでは?
またまたの展開に、私は再びがっくりとしてしまいました。




