第二十二話 新たな仲間
その後も、森に潜むオオカミを倒したりしながら薬草採取を進めました。
ジェフさんが言った通り、初心者が一人で薬草を採るのは本当に大変です。
私にはグミちゃんという優秀なパートナーがいるので何とかなったけど、腕に自信のある人と一緒じゃないと駄目だね。
因みに、ようやく顔を潰さないで魔法を放てる様になりました。
魔法の練習台になってしまったオオカミには、ある意味申し訳ないです。
倒した獲物は全てグミちゃんが血抜きをしてくれて、今は魔法袋に仕舞っています。
さて、ちょっと早いけど昼食にしよう。
私とグミちゃんは、森の中から街道まで引き返しました。
「さてと、パンを食べながら少し休憩して街に戻らないと」
私は、街道沿いの草むらに座ると魔法袋から二つのパンを取り出しました。
念の為にと、市場でパンを購入しておきました。
魔法袋の中に入れておけば、いつでも新鮮なパンが食べられるね。
水筒に入れておいたジュースも飲みながら、ちょっと休憩します。
「はあ、気持ちいい天気だね。朝晩は少し冷えるけど、日中はぽかぽかだね」
私は、グミちゃんとお喋りしながらパンを食べます。
何だか、街の近くにピクニックに来た気分です。
そして、もう少しでパンを食べ終える時に私とグミちゃんの勘が働きました。
「うん? 何か小さいものが近づいている。でも、悪意は感じられないね」
食事を中断して、私とグミちゃんは草むらの方を注視しました。
カサカサと草むらが微かに動いているので、私は戦闘態勢を取りました。
カサカサ、カサカサ。
「キューン……」
ぽてっ。
草むらの中から現れたのは、とても小さな犬の魔物でした。
小型犬くらいの大きさしかなく、栗毛の柴犬っぽい風貌です。
そして、草むらから私の前に現れると、か細い声を上げてパタリと倒れてしまった。
「えっ、お腹空いたって?」
グミちゃんが犬の魔物のか細い声を訳してくれたけど、流石に敵意の無いものを目の前で死なせるのは気が引ける。
なので、私は犬の魔物を抱き上げてパンと別の水筒に入れていた水をお皿に入れました。
すると、犬の魔物が前足で器用にパンを掴んで食べ始めました。
「ハグハグハグハグ」
「一心不乱って感じだね。よっぽどお腹が空いていたんだ」
小さい体なのにパンの残りを綺麗に食べて、コップを持ってこれまた器用に水を飲みました。
何だか小さい子が一生懸命にご飯を食べているみたいで、ちょっと可愛いな。
少し落ち着いたところで、グミちゃんの通訳を加えつつ犬の魔物から話を聞くことにしました。
「キューン、キューン」
「えーっと、君はコボルトという種族でまだ生後三ヶ月で、体が小さくて弱いからと群れを追い出されたと」
「アオーン、キューン……」
「それで、森を彷徨って空腹状態で私の前に現れたと。よく、他の魔物に食べられなかったわね」
弱肉強食の世界とはいえ、生後まだ僅かな子を追い出すとは。
魔物も、生きるのに厳しい世界なんだ。
「それで、君はどうしたいかな?」
「アオーン、アオン!」
「もっと、もっと、大きくなって強くなっりたいのね」
もう生きるのを諦めていたのかと思っていたけど、この子はとても強い意志を持っていた。
私とグミちゃんで少し話してから、コボルトの子に問いかけた。
「じゃあ、私と一緒に来る?」
「アオン!」
グミちゃん通訳も不要なくらい、元気の良い声だった。
私達に、新たな仲間が加わりました。
あっ、この子って名前があるのかな?
「ねえ、君に名前ってあるのかな?」
「アオン」
「タマ? 犬なのにタマって名前なんだ」
ちょっと面白い名前にビックリしつつ、私はタマちゃんに生活魔法をかけて綺麗にします。
ふわふわもこもこの、とっても気持ちいい毛並みになりました。
あっ、そうだ。
タマちゃんが魔物として駆除されない様に、何か目印をつけないと。
魔法袋の中に首輪はないし、うーん、何が良いかな?
あっ、良いのがあったよ。
「このスカーフを首に巻いてあげるね。これなら、ひと目で魔物じゃないって分かるよ」
「アオン!」
赤いスカーフを首に巻いて上げると、タマちゃんはご機嫌な声を上げていた。
さてさて、ちょうどいい時間だし街に戻りましょう。
トテトテ。
あっ、四本脚で歩く事もできるんだ。
何だか、コボルトって面白い存在だね。
こうして、少しゆっくり歩きながら私達は街の防壁の門に到着しました。
「おお、君か。また、面白いものを連れているね」
「はい、仲間になったコボルトのタマちゃんです」
「アオン!」
前に対応してくれた兵が出迎えてくれて、タマちゃんも立ち上がって両手をフリフリしてアピールしています。
何だか、ほんわかとする光景ですね。
「君は、テイマーとしての素質もありそうだ。中々貴重な存在だよ」
魔物を使役する種類をテイマーというらしいけど、私はタマちゃんの様に使役するのではなくて仲間として迎えたいなと思っています。
そんな事を思いながら、私達は冒険者ギルドに向かって歩いていきました。




