87話
悪魔王サタンの子どもは不思議の国の赤の女王だという事はわかった。だが、それだけじゃないような気がする。ボクは再び考え始めた。
「そもそも羊は卵から産まれてこないのになんで卵から産まれた事にしたのだろうか……卵から産まれたっていう事も必ず何かのヒントのはずだ……そういえば、始めのなぞなぞを解いた時にハンプティダンプティからもらったのは玉子焼きだ。これは玉子から王子が産まれたという風にも捉える事が出来るな」
ボクはスマホを取り出して、メモを書き始める。
【玉子から王子が産まれる】
「玉子から王子が産まれるというのは一見すると王子=男のイメージになってしまうので赤の女王には結び付かなくなるミスリードのように思えてしまう。だからこそ、ここに何か隠し要素があるはずだ。玉子の点がなくなって王子になった……とすると卵から点がなくなると……十二支の卯になる。そうか、わかったぞ!!」
その時、遠くの方から3人が近づいてくるのが見えた。
「ハヤトさん、悪魔王サタンの子どもが何者かわかったんですか?!」
「わかりました。悪魔王サタンの子どもの正体はウサギです!!」
「えっ!!!私って事?」
「あっ、イヤ、そうじゃないです。死獣の月影の白兎の方のウサギです」
「あっ、そっちの方の兎ね」
「早速ですがハンプティダンプティのところに行って確認して来てもいいですか」
「もちろん」
悪魔ベルゼブブを倒した3人と合流したボクは再びハンプティダンプティのところに到着。
「悪魔王サタンの子どもの正体がわかりました」
「おー、そうか。それで悪魔王サタンの子どもは一体何者なんだ?」
「悪魔王サタンの子ども……それは死獣の月影の白兎です」
「……………」
「ちょっと、ハヤトさん。何も答えないって事は違うじゃないですか」
「えっ!そんなはずはないと思ったんだけどなぁ。鏡の国のアリスの白の女王は羊だから、鏡写しの赤の女王も羊って事でしょ。赤い羊はレッドラムで鏡写しにするとMURDERになって殺人鬼になる。だから不思議の国の赤の女王が一見すると悪魔王サタンの子どもに見えると思うんだけど、実は…」
「お主、悪魔王サタンの子どもが不思議の国の赤の女王だとよく気がついたな」
えっ!ちょっと待ってよ。こんな簡単な答えで良かったの。じゃあ卵と卯のボクの考察はなんだったの。
「だが今のお前達の実力では赤の女王を倒す事は出来ない。スペードのクイーンでもある女神アテナから実力を認められ、キング級の実力を持たないとハートのクイーンでもある赤の女王を倒す事は出来ないだろう」
ん?ちょっと待って。最後ってエース級だと思ってたんだけど……
「そしてお主、赤の女王を操っていたのが月影の白兎だという事によく気がついたな」
やっぱり関係あったみたいだ。ボクの考察が間違ってなくて良かったよ。
「月影の白兎は裏切り者の13番目の死獣。エース級の実力がなければ倒せない相手だ」
やっぱり最後はエース級なんじゃん。っていうか13番目の死獣ってどういう事だろ。
「エース級になるには非常に厳しい条件をクリアしないとならない。隠しボスの存在を見抜いたお主には役に立つアイテムを渡そう」
[エレメンタルゴッドギア(EGG)を手に入れました]
「このアイテムは弓に取り付けると属性を一瞬にして変える事が出来るようになるアイテム。そしてこのアイテムは最強の神器であり、4秘宝の内の1つ。大切に使うがよい」
「わかりました」
「すごいアイテムを手に入れたみたいですね」
「そうですね」
「しかも隠しボスの存在まで明らかにするってどんだけすごいですか。今のハヤトさんはまるでリュウイチ様を見てるみたいでしたよ」
この感じだとみんなはやっぱりリュウイチさんと直接繋がっているんだな。そうでなければこんなに段取り良く進む事なんてないはず。
「ウ、ウサギ。ちょっ、ちょっと」
「あっ………」
「大丈夫ですよ。薄々は気付いていましたから。リュウイチさんの段取りでなければ、こんなにスムーズに行く事もなかったし、みんなが仲間になる事もなかった。ボクもそれを勘付いていながら、そのまま流れに乗ってしまったんです」
こうなった以上はこのパーティーでの活動は終わりだな………
「……あ、あの、ちょっといいですか?」
「なんでしょうか」
「リュウイチ様から伝言を頼まれています」
伝言か……リュウイチさんはこういう状況になる事も想定して段取りもしてるんだね。
「マリナと付き合いたいと思ってるみたいだが、俺に勝たない限りマリナとは付き合えないからな」
誰よりも段取りの良いリュウイチさんに勝てる人なんているのだろうか。でもリュウイチさんに勝たないとマリナさんとは付き合えない………
「こ、この伝言を聞いてハヤトさんはリュウイチ様に勝負を挑みますか?そ、それともマリナさんの事を諦めて、身を引きますか?」
ここで諦めたらボクはこの先ワクワクしながらこのゲームを楽しめるのだろうか……考えるまでもない。
楽しめるわけがない。ボクはマリナさんの事を諦めたくない。諦めなければリュウイチさんに勝てる時が来るかもしれない。
ボクがマリナさん達の元からいなくなって、ボクが思ってた以上にリュウイチさんのストーリーの進み方は遅かった。そこに勝機はあるかもしれない。
考えろ!どんな段取りを組んだらリュウイチさんに勝てるのか考えろ!!
リュウイチさんに勝てる未来をワクワクしながら考えるんだ!!!
!!!!!
「ボクはリュウイチさんに勝負を挑みます。そしてリュウイチさんに勝って、マリナさんと付き合いたいです!!!」
「え………」
「わ、わかりました。それでは一度リュウイチ様に連絡いたします」
ツバメさんはスマホを取り出して、リュウイチさんにメッセージを送るとボクのスマホにメッセージが届いた。
『俺に勝ちたいそうだな。勝負は先に隠しボスを倒した方が勝ち。4日後の10時になったら俺は行動を開始する。先に言っておくが俺はもうエース級になっているぞ』
やっぱりリュウイチさんの段取りはすごいな。もうエース級になっているんだ。
「あの、ハヤトさん」
「はい」
「ハヤトさんがリュウイチ様に勝負を挑もうとした時、私達はハヤトさんの力になって欲しいとリュウイチ様から頼まれていました。でも私達はリュウイチ様に勝負を挑む人はいないと思っていました」
リュウイチさんを知らないイキってる人は自分なら勝てると勝負を挑む事はあるが、リュウイチさんを知ってる人で勝負を挑もうとする人はいない。
カゲトラさん達は勝負を挑むというよりはリュウイチさんに貸し借りを作って勝った気になっているだけで、本気で勝ち負けの勝負を挑もうとはしていない。
それだけリュウイチさんの段取りはすごいもので、トップオブトップと言われる人。そんな人にボクは勝負を挑もうとしている。
「リュウイチ様に勝負を挑む人はいないから、リュウイチ様との関係がバレた時はハヤトさんとの関係も終わりなんだなと心のどこかでずっと考えていました。でもハヤトさんはリュウイチ様に勝負を挑む事を決めた。私達では心許ないかもしれませんが、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。と言ってもまだどんな段取りを組んだらいいのかわからないです。ボクに少し時間を下さい」
「この後はてっきり今際の国に行くものだと思っていたんですが……」
「このまま今際の国に行くと段取りが悪くなると思っています。ですのでとりあえず今日のところはここで解散して、みなさんはゆっくりと身体を休めて下さい。きっと明日からはハードになると思います」
「わかりました。そういう事で今日のところはゆっくりと休ませていただきます。お疲れ様でした」
「お疲れ」
「お、お疲れ様でした」
3人がいなくなるのを見届けて、ボクはマイハウスへと戻った。




