29話 アテナの骨②
未完成のアテナの骨を焼成すればアテナの骨は完成する。
まずは焼成炉に永久凍土ゴーレムの青レンガを取り付けだ。
3つの青。青白金の温度計、青海月水晶の時計、永久凍土ゴーレムの青レンガを持って、神の鍛冶場の完成。
青レンガを鍛冶場に取り付けると青く燃えさかる青龍のエフェクトが発生。
「これでついに完成だ。さっきのエフェクトは燃えるドラゴンだったな……なんだ、きちんと考えていたら答えは出てたじゃん」
3つの青、それはブルースリーとも言う。
有名な映画の主役の人が言った言葉。「考えるな、感じろ。それは月を指差すようなものだ。指に気をとられるんじゃない。そうしないと栄光はつかめないぞ」
よく考えば、きちんと答えに導かれるんだ。
「アテナの骨の焼成頑張るぞ」
「一点集中スキル・オン」
「鋳造作業・開始」
焼成炉に未完成のアテナの骨を投入。
「よし、集中だ、集中」
ボクは炉の温度計と時計を見ながら、魔力を流し込んでゆっくりと温度を上げていく。
すると温度計と時計に輝く点が見える。
温度計は185度、時計は40分。
温度計は525度、時計は68分。
温度計は965度、時計は110分。
次は・・・
温度計は1555度、時計は59分11.92296秒。
「温度の調整は問題ない。問題があるとすれば上手く時間を合わせられるかどうかだ。集中だ、集中」
…………
「もう少しで59分経過する。集中だ、集中」
59分を過ぎたところで青く燃えさかる青龍のエフェクトが発生。時計のデジタル表示がゆっくりと進み始める。
59分11.9229&秒
59分11.9229$秒
59分11.9229☆秒
59分11.9229%秒
59分11.9229#秒
59分11.9229※秒
「最後の1桁がわからないがここでどうだ!!」
「鋳造作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
品質は……
未完成のアテナの骨、100%の神品質。
「やはりダメだったか」
……アテナの骨が完成したとのアナウンスがまだないって事は多分あの2人も同じようになっているんだろう。
それならば運頼みで鋳造を繰り返したとしても神品質のアテナの骨は出来ないはずだ。
……運頼み……運……やっぱりあれがないと作れないようだな。
ボクは地下倉庫の奥深くに眠っているクロロ豚のウンコを装備して、再び鋳造に取り掛かる。
「改めて思うがこのウンコすごい臭いな。でもこれで女神の加護は+10されて100になった。これならいける」
…………
青く燃えさかる青龍のエフェクトが発生。時計のデジタル表示がゆっくりと進み始める。
59分11.9229&秒
59分11.9229$秒
59分11.9229☆秒
59分11.9229%秒
59分11.9229#秒
59分11.9229※秒
「か、変わらないだと……」
59分12秒
「あっ、ヤバい。」
「鋳造作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
品質は・・・
未完成のアテナの骨、100%の神品質。
「ウンコを使ってもダメだった。最後にはこのウンコの出番が来ると思っていたけど違った。じゃあこの臭いだけのアイテムは何のためにあるんだよ」
……臭い……ニオイを感じるという事は完全に鋳造作業に集中出来ていないという事でもあるのかもしれない。
普段の生活であればニオイを感じるのは重要な事だ。このゲームにおいては不快に思うニオイはシャットアウトされていて臭いと思うのはこのクロロ豚のウンコだけ。
だからこそこのウンコのニオイが強調されて臭いと思ってしまう。
もっともっと集中して感覚を研ぎ澄まして嗅覚をシャットアウトしなければいけない。
イヤ、それだけではダメだ。今までの行動全てにヒントが隠されているんだ。
考えろ、考えろ、考えろ
クロロ豚のウンコがなければアテナの骨を作れないというのであれば、多くのプレイヤーは作れない可能性がある。でもこのウンコはヒントでもあるはず。
クロロ豚のウンコはクロロ豚銅の採取の時に手に入れたものだ。ウンコの採取は多くの人が嫌がり、他の人に青海月水晶の採取を任せる人もいるだろう。
始めの4つの青を全部自分で採取した人にしかわからない事。青海月水晶の採取にヒントがあるんだ。
あの時、ボクは何を感じた。深海エリアで暗く孤独を感じたあの場所で何を感じたんだ。
考えるな、感じろ。
始めのブループラチナメタルの採取の時、ボクは目を閉じて、切削加工をしたんだ。
ボクは目を閉じて集中する。すると次第に耳鳴りがしてくる。
キーーーーーン…………
それも過ぎていくとやがて気にならなくなる。すると今度は鼻が敏感になってくる。イヤなニオイというのはしばらく時間が経つと麻痺して気にならなくなるが、再びウンコのニオイが気になってくる。
……………
それも過ぎると心臓の鼓動が手に取るようにわかる。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
青海月水晶の採取の時に強く聞いた心臓の鼓動。心臓の鼓動をシャットアウトするのは非常に難しい。それは自分が生きている証でもあるから。
今ボクがいるのはゲームの中の世界であり、リアルの現実世界ではない。だからこそこの生きている証でもある心臓の鼓動は消せるはずだ。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…………
これで生を司る感覚はシャットアウトできた。でもまだこれだけだとダメだ。パラジウムを採取した時、シロウさんはファントムセンスと言っていた。第6感、霊感とも言われる感覚。
次はファントムセンスのシャットアウト。霊を感じる感覚があるから人は不安だったり恐怖に囚われる。この感覚がなければ人は無謀な事をいとも簡単に行なって死んでしまう。
ここはゲームの中の世界だから本当の意味での死というものはない世界。だったら死を恐れるな。
死を恐れ生きる現実世界と死のない仮想世界を融合させて生と死を超越させる。
生と死を超越した先にある感覚。それがドラゴンセンス。龍を感じる感覚。
目に見えない龍は一体どんな時に姿を現すのだろうか。
死の恐怖に怯えている時に龍が現れるとは聞いた事はない。
龍と聞くと人はなぜか心がワクワクする。じゃあワクワクする時に姿を現すはず。
人はどんな時にワクワクするんだ。
それは……希望ある未来を描いた時だ。
もっともっとイメージするんだ。青く燃えさかる青龍と共にアテナの骨を製作する自分の姿を。
今まで気づいていないだけで、いつも自分と共に一緒にいてくれていた龍を思い描け。
これから作るのはモノじゃない。未来を創るんだ。
…………
「よし、今ならいける」
「一点集中スキル・オン」
「鋳造作業・開始」
ボクは目を閉じて温度計や時計を見る事なく、魔力を込めて温度を上げていく。
「ここだ!!!」
「鋳造作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
品質は……
辺りは眩しい光に包まれて、気づくとボクは真っ白な空間の中に立っていた。




