27話 目覚め
今日は目覚めの良い朝だった。ホテルを変わってからお腹を壊す事もなく、体調も良い。準備万端でクランハウスへ。
「おはようございます。こんな日に呼び出して申し訳ありません」
神妙な面持ちのメリーさん。メリーさんも今日が大事な日だという事はわかっている。そのタイミングでボクに話ってなんだろ?
「単刀直入に言います。ハヤトさんのクランを私の第2クランにしたいと考えております。どうか私をクランメンバーにしてください」
このゲームでは2つのクランに所属する事が出来る。このシステムを使い、自分でクランを立ち上げて、大手クランの傘下に入る人もいる。
某有名な海賊漫画で主人公の傘下に入る海賊団を思い浮かべると、このシステムは理解しやすいかもしれない。
大手クランの場合、このシステムを濫用すれば、逆に管理が大変になる事もあるため、第2クランを設定していいのは幹部候補生までと決めている。
幹部候補生クラスの人ともなれば、その人気ゆえにその人の下で活動したいという人も出てくる。
メリーさんはブラックドラゴンの幹部候補生。メリーさんはその美貌もあり、人気も高い。だからメリーさんが第2クランを立ち上げたらメリーさんのクランで活動したいと思っていた人も多いはず。
そんなメリーさんがなんでボクのクランを第2クランに選んだのだろうか?
「理由を聞いてもいいですか?」
「ブラックドラゴンの幹部候補生はリュウイチ様から言われている言葉があります。『幹部候補生が幹部になれないのは、オンリーワンがないから。幹部になりたいならオンリーオンを身につけてこい』と言われています」
オンリーワンを身につけろってこういったゲームにおいては何よりも難しい課題であるよな。
「リュウイチ様は『わかりやすいオンリーワンは亀白ナルミと赤井コジロウの2人。この2人のスキル構成は誰もマネ出来ない。強くなるためにマネしようとするのは良いが、それはただの劣化であり、自分の才能を殺すだけだ』とも言われています」
亀白ナルミは遠距離主体なのに狙撃スキルを持たない人。自動追尾の補助がつく狙撃スキルがなければ普通の人はモンスターに攻撃を与える事が出来ない。だから亀白ナルミはオンリーワン。
「自分にしか出来ないオンリーワンを私はずっと考えていました。その答えがハヤトさんのクランに入る事だと思ったため、クランメンバーになりたいと思いました」
何故だ。何故、ボクのところでオンリーワンを身につける事が出来ると思ったんだ。思うとすればサンダーラムとサンダームートンの討伐の時しかないぞ。
あの時ボクは特に思う事はなかったが、メリーさんには何か思う事があったんだろう。
メリーさんがボクのクランを第2クランにしたいと言うのであれば、ボクには断る理由はない。
「そうですか、わかりました。メリーさんをクランメンバーとして迎えたいと思います。よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
メリーさんはスマホを取り出したので、ボクもスマホを取り出し、メリーさんをクランメンバーとして招待。
メリーさんはボクのクランを第2クランとして登録。ボクのクランの初めてのメンバーはブラックドラゴンの幹部候補生、吉田メリーさん。
「本当にありがとうございます。今度ゆっくりと私のオンリーワンについてはお話したいと思います。まずは今日の永久凍土ゴーレムの討伐を頑張りましょう」
「はい、そうですね。よろしくお願いします」
ボクとメリーさんはクランハウスを出て、東の王国の火山に到着。亀梨マリナさんはすでに待っていた。
「お待たせしました。こちら灼熱の氷の杖になります。早速ですが行きましょう」
ボクはアイテム袋から灼熱の氷を杖を取り出しマリナさんへ。
「ありがとう。それじゃあ行きましょう」
ブラックドラゴンの幹部候補生でもあるメリーさんはマリナさんとも知り合いであるので特に挨拶はする事なく、火山の奥へ。
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永久凍土ゴーレムがいるエリアへ到着。ここには雑魚の凍土ゴーレムもいるエリア。
「ハヤトくんに決めて欲しい事がある。ハヤトくんがいくら黒の銀狼のマントを装備してるとはいえ、私達の戦いの足手まといになるリスクがあるの。だから始めに雑魚モンスターと戦ってハヤトくんの動きを見てみたいって思ってるところもある」
ボクが死ねば永久凍土ゴーレムの青レンガの品質は悪くなる。
「もちろん急いでいるのはわかるわ。でも死ねば余計に時間がかかるわ。安全とスピード、ハヤトくんはどちらを取る?」
どうする。
早くアテナの骨の製作にとりかかりたいなら、いきなりボスの永久凍土ゴーレムを倒す方を選びたい。
だけどリスク確認もしないでボスを倒すのも無謀な考えだとも思う。この選択でボクの運命が決まる。
考えろ、考えろ、考えろ。
アテナの骨の製作は生産職の全てが詰まっているともいえる事だろう。
生産職にとって大事な事はなんだ。
よく考えろ。
大事な事はなんだ。
よく考えろ。
……生産職にとって大事な事は安全第一だ。
製造業の作業は危険を伴う作業が多い。グライダーなどの回転工具の作業でいえば巻き込み事故や砥石の破損による怪我に注意が必要だったりもする。
動画サイトを見てたりすると、生産は楽しいっていう良い部分しか見えてこないが実際のリアルの現場では軽い切り傷やヤケドは頻繁に起こっている事でもある。
だからボクは安全第一でいく事にする。
「安全第一でいきたいと思いますのでよろしくお願いします」
「わかったわ。それじゃあみなさんよろしくお願いします」
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雑魚の凍土ゴーレムとの戦い。メリーさんは魔法剣士、マリナさんは神聖系の純魔法使い、そしてボクは純生産職。
凍土ゴーレム、永久凍土ゴーレムは硬いモンスターで物理攻撃は効きにくい。だからマリナさんの魔法攻撃主体で倒す。
火山に住む凍土ゴーレム、永久凍土ゴーレムには厄介な特徴がある。属性変更をしてくるのだ。火魔法に弱いバージョンと水魔法に弱いバージョン。
魔法使いの攻撃は発動までに溜めが必要で、頻繁に行われる属性変更と相性が悪い。灼熱の氷の杖であれば、この属性変更に対応出来る。
メリーさんの武器には錬金で水属性が付いているので、水魔法のバフをしながら近距離で戦い、ボクとマリナさんにヘイトが向かないように戦う段取り。
マリナさんは神聖系の魔法でパーティーの回復もしながら、2つの属性魔法で攻撃する段取り。
ボクは自分が死なないように立ち回る段取り。せっかくパーティーを組んでいるのにボクだけ何もしないっていうのはどうなんだろう?
今はそんな事を考えてる場合じゃない。今は死なないように立ち回るだけだ。
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やはりボクは運動音痴で鈍臭い。雑魚1体目の戦いはあっけなく死んでしまった。
3体目でようやく死ぬ事はなくなったが、2人が不安そうな顔をするので、まだボスには挑まない事にした。
7体目までくるとボクも立ち回り方を覚え、少し余裕も出てきた。
「そろそろ行けそうね。念のためもう1回戦って、次で最後にしましょう」
「はい」
雑魚の凍土ゴーレムとの戦いもこれで最後。少し余裕が出てきたからボクも戦いに参加したい。と言ってもボクに出来る事はポーションで回復する事くらいしか出来ない。
立ち回りを覚える前の時、ボクが死ぬパターンは決まっていた。マリナさんの魔法攻撃で一定以上のダメージを与えると、凍土ゴーレムは全体攻撃を仕掛けてくる。その攻撃で死ぬ事はないが、マリナさんの全体回復魔法が間に合わずに、2回目の全体攻撃でやられるパターン。
立ち回りを覚えてからは、この全体攻撃が当たらない遠くの位置までボクはその都度下がっていた。少し余裕も出来てきた今なら逆に援護する事も出来るかもしれない。もし、失敗したら安全策をとってまた遠くの位置まで下がればいいだけだ。
そうと決まれば段取り確認だ。
凍土ゴーレムは全体攻撃をする前にあるクセを見せる。右肩が少し上がるのだ。それから右腕をぶん回し、全体攻撃。
なので右肩が少し上がったら、メリーさんとマリナさんをポーションで回復。最大HPを超えてオーバー回復するポーションなので、攻撃を受ける前に回復すれば、マリナさんは全体回復する手間がなくなる。
ある程度近くないとパーティーメンバーの回復は出来ないため、ボクも全体攻撃を受けるが、ボクの回復は全体攻撃を受けた後でも自分のポーションで余裕で回復出来る。
段取り確認完了。
凍土ゴーレムとの最後の戦いが始まった。
「火魔法・レーザーファイア・発動」
マリナさんの攻撃は凍土ゴーレムを直撃。すると凍土ゴーレムの右肩が上がった。
「今だ!」
「ポーション回復・メリーとマリナ」
メリーさんとマリナさんは驚いた表情を見せる。さっきまでのボクは右腕を回し始めてから遠くに逃げていたからだ。
凍土ゴーレムは右腕を回し、全体攻撃。
「ポーション回復・自分」
ボクは自分を回復。クラブのマークを選んだボクのポーション回復は他のマークの人より効果が高くなる。
そのためマリナさんは回復を一切しなくなり、攻撃に集中。先程とは比べ物にならないほど早く凍土ゴーレムを討伐。
「……ハヤトくん、回復ありがとうね。これならボスの永久凍土ゴーレムも行けそうだね」
ちょっと不思議そうな顔をしている2人。気にはなるけど、今は永久凍土ゴーレムの討伐が先だ。
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ボスの永久凍土ゴーレムの討伐はすぐだった。
実は永久凍土ゴーレムが1番無防備になるのは全体攻撃の後。本来ならそこで攻撃をしたいマリナさんだったが、ボクが死なないように立ち回りをしていたため、絶好のチャンスで攻撃出来ていなかったのだ。
「剥ぎ取り採取作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
最高品質の青レンガを手に入れる事が出来た。これで全ての素材が揃った。
これからアテナの骨の製作に取り掛かる。
アテナの骨を作り、メインストーリーが第2章になれば公式アナウンスがある。
まだそのアナウンスがないという事はまだ誰もアテナの骨を作れていないという事でもある。
まだボクにもチャンスはある。諦めるのはまだ早い。
ボク達は火山を出て、ボクはマイハウスへ戻った。
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「ねぇ、マリナ。今のハヤトくんの動きってアレだよね?」
「あなたもやっぱり感じた?」
「まさかあの動きを出来る人がいるなんてね……」




