15話 金白金鉱石
「ゲーム終了・スペードのクイーン」
一瞬の暗転。現実世界に戻ったボクはすぐさまトイレに駆け込む。
「予定通りお腹が壊れたな」
ぐっすりと寝ていたが便意で起きる。ゲームに夢中になって食事を取らないでいると、強制的に栄養ゼリーが身体に流れ込む。栄養ゼリーと相性が悪いボクは寝坊しないようこの仕様を利用した。
「ゲーム起動・スペードのクイーン」
一瞬の暗転。見えてきた景色はマイハウスの景色。
「起きる時間もバッチリ。全ては予定通りだ」
今日はやるのはプラチナ鉱石の採取。
銀鉱山の隣にある金鉱山。ここでは金と白金が採取出来る。でもこの鉱山の最奥で何が採取出来るのかは誰も知らない。そう、ボク以外は。
最奥で採取出来るのはゴールドプラチナメタル、金白金鉱石。
この金鉱山にある鉱石はミスリルのハンマーとポンチを使用しなければ、品質が悪くなる。そのせいで、ここで採取出来る金、白金の品質は低品質や最低品質だらけ。でもここ以外で金や白金を採取しようとしても、そもそも金や白金の採取場所を見つけるのが困難。だからみんな仕方なくここで金や白金を採取している。
ボクとアイナさんは金鉱山に到着。ここのエリアは銀鉱山と同じくアクティブモンスターはいない。
昨日と同じように最奥を目指し歩き始めると、すぐに多くの人が気付き、あとを付いてくる。その姿はまるで大名行列。
いつもならどうやったら最奥な鉱石を採取出来るか議論している人達も、今日だけは道を開けて待っている。その姿はモーゼが海をパッカーンと割っている姿そのもの。
アイナさんが採取場所まで来ると、ミスリルのハンマーとポンチを取り出す。
多くの人が今日もやってくれると期待を胸に待ち望んで、アイナさんが採取を始めるのを待っている。
カンッ、カンッ、カンッ
「私にかかればこんなもんよ。ここにあるのはゴールドプラチナメタル、金白金鉱石よ」
「「「「「オーーーー」」」」」
昨日よりも多くの歓声とともにみんな見ようとして前へ前へと出てくる。
「ちょっ、ちょっ、押さないで、押さないで」
ボクは人混みに紛れてアイナさんの姿を見失ってしまった。そしてボクは後ろへ後ろへ追いやられて気付くと、人混みの最後尾。
「ここまで人が溢れるのは予定外だったな。それだけアイナさんのインパクトが強かったんだ」
ゴールドプラチナメタルは採取出来たんだ。ボクはマイハウスに戻って待っているとするか。
スマホを取り出し、マイハウスへ移動。
「さてと……そういえばもう自動焼成は終わってるよな」
ボクは鍛冶場の焼成炉に行き、溶けたミスリルを取り出し、インゴットの型に入れる。
「さてと……まだアイナさんから何もないなぁ……何もしないで待ってはいたくないな……寝不足だから寝たいところだけど、寝ると起きなさそうな気がする。とりあえず作業工程の確認をするか」
これからゴールドプラチナメタルとミスリルのハンマーとポンチが届く。
ゴールドプラチナメタルを切削加工して鋳造してインゴットを作る。
インゴットが出来たら、それを使って神の錬金鍋を作る。
「これで工程確認完了」
ピコン
スマホに通知音。アイナさんからアイテム譲渡とメッセージ。届いたのはミスリルのハンマーとポンチ、3個のゴールドプラチナメタル鉱石。
『遅くなってごめんなさい。予想以上にバズったみたいで私も焦っちゃった。でもハヤトくんのおかげで有名になる夢が叶ったよ。ありがとうね(ハート)』
ボクのおかげで縁があった人の夢が叶うというのは心がハッピーになるね。
『ボクもあまりの人の多さに焦りました。本当の意味でアイナさんの夢が叶うのはまだまだこれから先です。アイナさんがもっともっと有名になれるようにボク頑張ります』
『私はこれからちょっと忙しくなるからハヤトくんとなかなか会うのも難しくなると思うけど、ハヤトくんも頑張ってね』
『お互い頑張りましょう』
『頑張ろうね』
アイナさんのおかげで元気が出たぞ。よし、作業開始だ。
「一点集中スキル・オン」
「切削加工作業・開始」
金色に輝くゴールドプラチナメタルの周りにある余計な石のところどころに輝く点が見えてきた。ミスリルのハンマーとポンチを使って叩いていく。
カンッ、カンッ、カンッ
出来上がったゴールドプラチナメタルは99%の最高品質。
「よし、この感じで残り2個もいくぞ」
カンッ、カンッ、カンッ、カンッ
「切削加工作業・終了」
「よし、次は鋳造だ。ゴールドプラチナメタルの鋳造は今まで誰もやった事のない作業だ。どれだけ時間がかかるのか予想がつかない。気合い入れていくぞ」
ゴールドプラチナメタルは新しい金とも言われ金とネオリウムとの化合物。
ゴールドプラチナメタルはミスリルと同じように電気を流すと強力な磁石にもなる。
それにゴールドプラチナメタルは金とプラチナのいいところを合わせたような性能も持っている。
金の融点は1064度
プラチナの融点は1768度。
ゴールドプラチナメタルの融点は一体何度になるのだろう。
「鋳造作業・開始」
ボクは炉の温度計と時計を見ながら、魔力を流し込んでゆっくりと温度を上げていく。
すると温度計と時計に輝く点が見える。
温度計は185度、時計は40分。
次は……
温度計は525度、時計は68分。
温度計は965度、時計は110分。
温度計は1065度、時計は100分。
ここまではほぼミスリルと同じ。
次は……
温度計は3214度、時計は36分。
約1秒間に1度上げるのか。
温度を上げていくとプラチナの融点を過ぎた辺りで温度計が壊れた。温度計が壊れると輝く点も見えなくなった。
「温度センサーはプラチナ仕様。耐熱保護膜があっても溶けたのか。だけど、ここで止めるわけにはいかないぞ」
1秒間に1度を上げる作業をリズムを刻みながら体内時計で計りながら温度を上げていく。
その時間、約23分。
ボクにはこの23分が何よりも長く感じた。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10
何度も何度も秒数を数えながらゆっくりと時間が過ぎるのを待つ。
「ここだ!!!」
「鋳造作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
焼成炉から溶けたゴールドプラチナメタルを取り出し、インゴットの型に流し込む。
「フゥー、なんだかとても疲れたよ……品質はどうだ」
ゴールドプラチナメタルのインゴット、90%の最高品質。
「温度計が壊れたから、誤差があって品質が下がった。でもなんとか最高品質を作れたからオッケーだ」
なんとか上手くいったが、やらかすところだった。きっと寝不足で頭が回っていなかったんだな。先にブループラチナの切削加工をして温度計を作るべきだった。
ボクは未加工のブループラチナメタルを取り出した。
「一点集中スキル・オン」
「切削加工作業・開始」
ブループラチナメタルから点が見えてきた。ボクはミスリルのハンマーとポンチでその点を叩く。
カンッ、カンッ、カンッ
「切削加工作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
ブループラチナメタル、99%の最高品質。
「さすがは生産3種の神器と言われる事はあるな」
これで神の鍛冶場に必要なブループラチナの温度計が作れる。
「一点集中スキル・オン」
「成形作業・開始」
ブループラチナメタルに魔力を通して糸状にしていく。
それから耐熱保護膜を付けて、ブループラチナの温度計の完成だ。
「成形作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
ボクは青海月水晶をアイテム袋から取り出し、時計にセット。壊れた温度計のところに出来たばかりのブループラチナの温度計をセット。
神の鍛冶場の完成には永久凍土ゴーレムの青レンガが必要だが、ゲット出来るのはまだ先の事。ここまで来れば鋳造で困る事はない。
次はゴールドプラチナメタルを使って神の錬金鍋を作るぞ。




