12話 青海月水晶
海エリアに到着したボク。そこから見える景色は綺麗な青が広がる世界。
「見惚れてる場合じゃないな」
ボクはクロロ豚銅の潜水スーツを装備。潜水スーツは鮮やかに輝くブロンズ色。決してウンコ色と言ってはいけない。装備するとあの時の光景が甦り、ウンコの臭いがしているような気になってくる。実際のところウンコの臭いはしないのに。
「開始早々にストローハットベリーの潜水スーツを作れる人がいなくて良かった」
海エリアには誰もいない。だからボクの鮮やかに輝くブロンズ色の潜水スーツに気付く人もいない。
「早速潜るとするか」
徐々に海の中を潜っていく。青かった景色は深さを増す事に黒に変わる。
1000メートルの深さまで来ると高品質の冷凍メタン灰土が採取出来るようになるが、持てるアイテムの量を考えると余計なアイテムは採取しないようにする。目標は最高品質の冷凍メタン灰土だけだ。
さらに深く潜るとたどり着くのは海底2000メートル。青海月水晶を採取出来るだけの重さを残して、冷凍メタン灰土の採取。
手の大きさサイズの冷凍メタン灰土の採取には魔力の減少はなく、拾えば最高品質の状態で採取出来る。採取したのは30個の最高品質の冷凍メタン灰土。
30個も採取すれば青海月水晶は1個しか採取出来ない。まだ誰も採取した事のない青海月水晶を何個も採取して売ればかなりの金額になると思う。でもボクは他の人の分まで採取する気はない。
冷凍メタン灰土の採取は別にクロロ豚銅の潜水スーツがなくても採取出来る。クロロ豚銅の潜水スーツがあれば最高品質の物が採取出来るというだけ。
だけど青海月水晶だけはクロロ豚銅の潜水スーツがなければ採取出来ない。だから青海月水晶が欲しければ、クロロ豚のウンコに手突っ込んでクロロ豚銅の潜水スーツを作る必要がある。
そもそも青の石版の知識がない人はクロロ豚銅の採取方法を得る事が出来ない。もし知ったとしてても誰もやりたくない仕事。そしてこのクロロ豚銅の潜水スーツは1回使用すると壊れる。
ここに先行者利益を最大限活かせるボクの作戦がある。
神の鍛冶場を作り、神品質の装備を作る事が出来る先行者のボクがいる。
みんな神品質の装備を作りたいと思うが、神の鍛冶場を作るには臭いウンコに手を突っ込むという大きな大きな壁がある。
その大きな大きな壁を乗り越えたくない人はボクに神品質の装備を作ってほしいと頼みにくるだろう。
だから神の鍛冶場を作るまでは悪目立ちしたくなかった。本当はボクだって有名になりたいし、友達や彼女だって欲しい。
だけどなんでだろうな……気づくといつもボクは1人でいる……
「こんな事考えてちゃダメだ。前進あるのみだ」
ボクは再び深く深くと深海エリアを潜り始める。ようやくたどり着いた海底6000メートル。自分が照らし出す光以外は真っ暗な世界。
その光に青く照らし出されるのは海底に眠る青海月水晶。ボクは1個だけ採取して陸へと戻る。
「フー」
常に酸素が供給されるので酸欠になる事はないが、あそこまで暗い世界だと自分自身との戦いの世界。音も光もなく自分の鼓動だけがよく聞こえる世界。孤独なボクにとってはツラい世界。
「でもこれで4つの青はゲットする事が出来た」
次にやるのはミスリルのハンマーとポンチ作り。
ピコン
スマホに通知音。アイナさんからのメッセージだ。
『こんなにもいい武器作ってくれるなんて思ってもみなかったよ。ありがとうね。ちゃんと会ってお礼を言いたいんだけど、会えるかな?』
えっ、えっ、女の子から会いたいって言われるなんてヤバいよ。もしかしてまた何か企んでたりするのかな。だってボクに会いたいって言う女の子はボクの人生の中で誰もいなかったよ。どうしよう、なんて返事返そうかな……変にウソつくのもイヤだしな……
『これから東の王国に行くので、そこでだったら会えると思います』
ボクはメッセージを送信。すぐに返事が返ってきた。
『これから東の王国に行くって事はもう北の王国で青海月水晶をゲットしたって事なんだよね。ハヤトくんって本当にすごい人だね。東の王国で待ってるね(ハート)』
このメッセージは何か企んでいるような気はしない。ボクが今までボッチだったから悪い方に悪い方に考えるクセがついていたんだな、きっと。
ボクは海エリアを南下して、北の王国の街、馬エリア、ネズミエリアを通り抜けて始まりの街に到着。
始まりの街でアイナさんと落ち合っても良かったんだけど、東の王国でアイナさんに頼みたい事もあったので東の王国で待ち合わせをする事にした。
だからボクは始まりの街に入る事なく、オオカミ平原を通り、ウサギの丘を通り、東の王国へ到着。待ち合わせ場所は東の王国の酒場。酒場に着くとアイナさんの姿を発見。人と話をしている。っていうより絡まれてる?
「アイナさん、遅くなりました。こちらの方は?」
「知らない人よ」
「テメー、誰だよ。ってテメーは昨日オオカミ平原を駆け抜けていったヤツだな。テメーのせいで俺の人生狂ちまったじゃねーかよ」
男は突然殴りかかってきた。昨日ホワイトスネークのリーダーと一緒にいた人だ。そんな事考えていたボクは避ける事もなく、普通に殴られ吹き飛んだ。
「暴力事件発生、対処お願いします」
アイナさんの言葉と共に消え去った男。男は暴力行為のペナルティで強制的に何処かへ飛ばされた。
「アイナさん、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ助けてもらってありがとうね。酒場には人は少ないけど、場所変えようか」
「はい」
酒場を出て、街の中央にある公園へ。公園ではマーケットを行う人もいるが、東の王国に来れる人が開始直後で少ないため、人はほとんどいない。ここならゆっくり話が出来そうだ。
「さっきの人はなんでアイナさんに絡んでたんですか?」
「あの人そうとう酔っ払ってたみたい。で私を飲み屋の姉ちゃんと勘違いして絡んできたのよ」
たしかにアイナさんの見た目は飲み屋の姉ちゃんっていう感じがある。
「あー、ハヤトくんもそう思ってるんだ」
なぜ、バレた。
「ひどいなぁ、これでも清純派アイドルなのよ」
せ、清純派……
「っていうか私でも清純派アイドルはないわぁって思ってるんだけどさぁ。っていうか聞いてよ」
「は、はい」
「事務所の社長がさ、正式リリースに合わせて君にはユニットを組んでもらう事にした。山中と山下で『山ガール姉妹』だ。で、山下のイメージカラーは青で魔法使いキャラな。って言って強引にユニット組ませたのよ。マジありえないと思わない?」
「た、たしかにそうですね」
「私、オープンベータの時は暗黒タンカーやってたから魔法使いの事なんか知らねぇよって感じでさ」
だから魔法使いのチュートリアルやってたんだ。
「だからハヤトくんにお願いがあるの」
やっぱり何か企んでた。でもボクの目をじっと見てくるそのお顔は見惚れるほど綺麗。
「な、なんでしょうか?」
「私、もっともっと有名になりたいの。一緒にユニット組んだ山中はバリドルのくせに全然ゲーム出来ないし」
「具体的にボクはどうしたらいいのかな?」
「ハヤトくんの作ってくれる武器があって、私の才能があればもっともっと有名になれる。って思ってるんだけどそれだけだと有名になるのに時間かかると思ってるんだ」
「そうかもしれないですね」
「ハヤトくんは今誰よりも先にメインストーリーを進めていると思うんだ。で、まだ誰もやっていない事を私が出来たら有名になれると思うんだよね。たしかプラチナ鉱石やアダマンタイト鉱石ってまだ誰も採取出来ていないよね?」
「は、はい」
「で、ハヤトくんはこれからプラチナ鉱石やアダマンタイト鉱石を採取するのかなって思ってるんだけど、どうかな?」
「おっしゃる通りでございます」
なんか全部見透かされているみたいで恐怖すら感じるよ。
「って事でハヤトくんのお手伝いするよ。戦闘面で今困ってる事ない?」
「あ、あります」
ボクがアイナさんに頼みたかった事。それはサーベルウルフ討伐。
「じゃあ一緒に行こう」
「は、はい。よろしくお願いします」
ボクはアイナさんとオオカミ平原へと向かった。




