6話
そして現在に至る。
私は彼に手を握られながら何度目か分からない溜息を吐いた。
「あのですね、私確かにお断り申し上げたはずですけど」
「そうでしたっけ?」
侯爵様はこんな調子でいつものらりくらりと躱してくる。
あれだけバッサリと断ったしもう来ないだろうと思っていたのだけど、その次の日から毎日侯爵様は押しかけて来た。
「このやり取りももうすぐ100回目になりますけど」
「何度だって告げますよ。私は貴女を愛しています」
「うっ」
東の国では百夜通うまで結婚を認めないというやり方で拒んだという話を聞いたことがあった。
だから私はその戦法を用いて侯爵様に無理難題を言っているのだが、今のところ毎日欠かすことなく通ってきている。
正直選択を誤ったかもしれないと思う程に、毎回侯爵様は私へのプレゼントをもって現れる。
ある日は花束を、ある日は流行りのアクセサリーを、そしてある日は貴重な薬草を。
聞けば何と屋敷の中に薬草畑を作ったのだそうだ。
若干遠い目になってしまったのも仕方がないだろう。
「はあ……」
「おや、溜息なんて。何かお悩みがあるのですか?」
「ええ、今まさにその方が目の前にいるのですが」
「嬉しいですね。私のことでお悩みですか」
「……」
毎回こんな調子だ。
最近ではスキンシップも多くなってきていて、今日のように手への口づけをされることもしばしば。
「それよりも、ほら。言葉遣いは前のままでいいと言ったでしょう?」
「侯爵様に対してあの口調で話すとか、無理言わないでください」
そればかりは絶対に無理だ。
知らなかったとはいえ散々侯爵様に対して無礼を働いた自覚がある今、再びあの口調でしゃべるなんてできるはずがない。
「仕方がありませんね。そちらは諦めるとしましょう。その代わりに私の気持ちを受け入れるつもりはありませんか?」
「その代わりっていうのもどうなんだい」
そっちの方が受け入れがたいと思うが。
思わず元の口調に戻ってツッコミを入れてしまう。
途端に嬉しそうな顔を至近距離で見せてくるのだから、心臓に悪いったらありゃあしない。
「私にとってはどちらでも嬉しいことなので」
「……そうですか」
ニコニコと微笑んでくる侯爵様。
……別に彼のことが嫌いという訳ではない。
どちらかと言えば顔は整っていて好みだし、決してこっちのいやがることはしてこない点でも好感が持てる。
身分がこれだけ違うのだから彼が命令すれば私に拒否権などないに等しいのだが、強要してくることは一度たりともなかった。
だが周囲の目というものがあるだろう。
……まあこの町の人たちからは祝われてしまったが。
「すっごい! 玉の輿じゃないか!!」
「あたしゃ心配してたんだよ! でもお相手が領主様なら安心だね!」
なんてお祝いの言葉は一つや二つではなく、行く先々で祝われるのだ。
侯爵様の通いはたちまち町の者の知るところとなってしまったのだ。
何かと目立つ方だからそれは仕方がないにしても、外堀から埋められて行っているような気がしないでもない。
何が困るって、それが嫌だと感じていない自分に困っている。
頭では絶対に無理だと分かっているのに、一体いつの間にこんな考えになってしまったんだか。
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