4話
「おお、もうだいぶ良くなったわね」
2週間後、毎日薬を塗っていたおかげか左腕の傷もだいぶ良くなっていた。
もう日常生活に支障はなさそうだし、ここに留まる理由もないだろう。
「おめでとう。もう薬は必要なさそうよ」
アルは体を軽く動かしている。
見ている限りではすんなり動いているし、毒の方も完全に体外に出せただろう。
顔色も初めて出会った時とは比べ物にならないほど良い。
とった包帯を巻き取っていると、アルは何やら真剣な表情でこちらを見ていた。
「……何だい?」
沈黙に耐えられずに私の方から口を開く。
アルは何かを決意したような表情で私の肩に手を置き目線を合わせた。
「フレアさん、貴女のおかげで私は生き延びることができました。このお礼は返しても返しきれるものじゃありません」
真剣な表情はそのままに、少しだけ寂しそうな顔をしていた。
アルの性格はこの数週間でなんとなく分かった。
真面目で穏やか。そして頭が回り気配りも上手。
改めて考えると、とてつもなくハイスペックだ。
そんな彼だからこそ、私に対して恩を感じているのだろう。
「いいんだよ。そんなことは。前にも言ったろう? 私があんたを見捨てられなかっただけなんだからって」
私には目の前のアルが息子のように思えてきた。
もちろん息子より年は上だろうが、それでも一緒に過ごしていたら愛着も沸くという物だろう。
何よりアルは薬にも興味を持ってくれて、なんだか弟子ができたみたいで嬉しかったのだ。
「もう怪我するんじゃないよ」
弟子の門出は祝ってあげねば。
アルが抱えているものは私には分からない。
一緒に暮らしていてもお互い踏み入ったことは聞かなかったからだ。
だが厄介ごとを抱えているというのは分かっている。
アルの元いた場所に帰れば再び何者かに狙われることになるのだろう。
だから私が言えるのはそれだけだった。
柔らかい微笑みをアルに向ける。
アルは少しだけ切なそうに眼を伏せたけれど、強い眼差しで私を見た。
「フレアさん、私は必ずこの街を安心して住めるようにするので……その時は迎えに来てもいいですか?」
迎えに?
少し悩んだけど、やがてああ、と納得する。
恐らく調薬の師として迎えたいとかそういう話だろう。
「ああ、その時はまたいろんな知識を教えてやるから、元気でやるんだよ」
そうしてアルは出ていった。
私は今まで住んでいた家を広く感じつつ薬草を摘みに出かけるのだった。
◇
「あら、フレアさん!! 聞いた? 領主が交代したそうだよ!」
あれから1か月程経った時、市場で買い物をした帰りにその話を聞いた。
「そうなのかい?」
「なんでも新しい領主様は良い方らしくてね。税が随分と安くなるらしいわよ!」
「ふうん?」
「嬉しいわ~! これで生活も楽になるかもしれないねぇ」
奥様方はキャッキャと盛り上がっている。
「その領主様なんだけどね、とってもハンサムらしいのよ!」
「へえ~」
「へえ~ってあなた、興味ないの?」
そう言ってにじり寄る奥さんの目は輝いていた。
「あなたも随分長いこと一人じゃない。子供も巣立ったところだし、やっぱり男手は必要だと思うのよ。そろそろ新しい旦那をとる気はないの?」
「ええ……。そうは言っても私はもう30越えているのよ?」
「あら! 女はまだまだこれからも盛りよ? それにあなた薬草のおかげかすごく若々しいじゃない!」
「そうかしら? でももし旦那を取るんだったらこの町から離れることになるわね?」
「ええ!? それは困るわ!!」
奥様方はこっちに移ってもらえるような旦那を探しましょうだとか、通い婚がどうだとかいろいろな話で盛り上がっている。
そろそろお暇しようかしら。
薬草も切れかけのやつがあったし。
「ねえ、私そろそろ行くわね」
私はそう言い残すと家へと向かった。
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