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1話

新作短編ですが文字数が多くなったので分けて投稿します。

次話の投稿は本日の21時ころを予定しております。


 

「え、ええっと、この状況は、一体……?」


 私は今自分の身に起こっていることが飲み込められず、何度目か分からないつぶやきを口にした。



 私、フレアはどこにでもいる平民だ。


 いや平民でもほとんどの人が持つ魔力をひとかけらも持たないところを思えば、割と平民の中でも下の方にいるのではないだろうか。


 だが現在、目の前にはうやうやしくかしづきながら私の手に口づけを落とす見目麗しい男が1人。


 その男――アルファルド・ノブレス様は私の呟きに応えるかのように顔を上げ、微笑んで見せた。


 夜空を思わせるような美しい濃紺の瞳に捕らえられると、どうしてもその奥に宿る熱を感じてしまい、顔が徐々に熱くなる。


「これは私の誓いです。貴女を愛し続ける、と」


 口に出されると余計に恥ずかしい。


 さらに悪いことに彼は手の甲からさらに掌、手首、腕と順に口づけを落としていく。



「ああああああの、侯爵様」

「いけません。お願いしたでしょう? 私のことはアルとお呼びください」


 下から上目遣いで見上げられ、うっと言葉に詰まる。

 本来であればこの状況は絶対にありえないことのはずだった。

 なぜなら……。


「で、ですが私はただの平民で、あなた様は領主の侯爵様で……」

「私はそれでも貴女のことが好きです。この思いの前には身分の差など些細ささいなことですよ」


 ニコリと微笑みながら言い切られる。


 あなたが気にしなくても私は気にするんだって……!


 しかも彼を拒む理由はそれだけではないのだ。


「で、ですが私とあなた様はかなり歳も離れていますって!」

「8個程度でしょう? なんの問題もありませんよ」

「いや、私が気にするんですって!!」


 そうなのだ。

 私はバツイチ子持ちの32歳。


 つい先日子供が成人して巣立ったばかりである。

 夫は子供が生まれる前に死別してしまったため女手一つで育てたが、元気に巣立ってくれて一安心したところだった。


 対する侯爵様は24歳の美形。

 しかもお家は由緒正しい侯爵家。


 絶対に引手数多だろう。だから絶対にこの状況はおかしいのだ。


 私は何故こうなったのか、こうなってしまったのかを思い起こす。



 あれは数ヶ月程前、家の近くの森に自生する薬草を摘みに行った時のことだ。



 ◇



「ふう。見つかってよかったわ。暗くなってしまったし、いそいで家に戻らないと」


 採取した薬草を持ってきた籠たくさんに入れた私は帰路を急ぎ足で戻っていた。

 この日は新たな薬草の群生地を見つけたので、つい遅くまで熱中してしまったのだ。


 その森は地元民でも滅多に入らない鬱蒼うっそうとした森で、夜になると獣や賊に襲われる可能性のある場所である。

 護身用にフライパンをもってきていたが、それだけではやはり心もとない。


 ……もう一つもって来るべきだったかしら。


 そんなことを考えながら木の隙間を縫うように駆けていると、何やら争うような音が聞こえてきた。


 ……? 何かしら。


 その音はだんだんと近づいてくる。


 もしかしたら賊かもしれない。

 私はフライパンを手に持った。


 家はもう目前だし、このまま帰ったところで賊が我が家を見つけてしまえば押し入られてしまう。


 ならばこっちから打って出てやろうじゃないの!


 私はそう考え音のする方へと向った。




 気配を殺し音源を探すと数分もしないうちにたどり着いた。

 暗がりで剣が触れ合う音が聞こえる。


「さっさとくたばれっ!! この死にぞこないが!!」

「おい、こいつ毒飲んでるんじゃなかったか!? なんでこんなに動けるんだよ!?」


 聞いていれば男2人が1人の人間を襲っているようだ。

 闇に目も慣れてきて、なんとなく男達の輪郭が分かる。


 襲われている人影は、ふらふらとしていたが一瞬の隙をついて襲い掛かる男達に反撃を入れた。



「ぐわあああ!!」

「くそっ!!」


 次いでもう一閃。

 それだけで男達は静かになった。


 辺りに静寂が戻る。



「っ!!」


 残っていた人影がふら付き、地面に倒れる。


「ちょ、ちょっとあんた! 大丈夫かい!?」


 私は思わず飛び出してしまった。

 人影に駆け寄り支える。


 人影は荒い息を吐き、辛そうにうめき声を上げた。

 まだ死んではいない。


 見た所、賊に襲われたのだろう。

 早く手当をしなければ。


 私はその人を支えながら家へと向かった。




「ほら、しっかりしなっ!!」


 ぐったりとした人を半ば引きずるように家へと運ぶと急いで床に寝せて傷を見る。


 ぎょっとした。

 服に赤黒いシミが広がっていたからだ。


 しかも悪いことに症状はそれだけではなかった。


 運び込んだ人(男性だった)の顔からは血の気が失せ、麻痺があるのか体が硬直しだしていた。

 先ほどの賊が、毒がなんとかと言っていたから中毒症状かもしれない。


 ことは一刻を争う。


「考えている時間はなさそうね」


 私は頬を叩くと気合を入れた。


 血が流れている左腕にきれいな布をあてがい止血する。

 その後男性の手首をとり脈を量った。


 思った通り、異常に早くなっている。


 家に着くまでに嘔吐おうとと吐血もあったし、今は息がし辛そうに苦しがっているから放っておいたら呼吸困難に陥る可能性もある。


「この症状だと、トラフィアナの毒……いやイリンテールの毒ね」


 私は素早く棚へ向かうと中から薬箱を取り出した。

 目的の木の実と葉を取り出すとすり鉢で潰し、乳白色の水滴を3滴たらす。


 ねばり気が出てきたところでもう一つ必要な薬草を箱から取り出そうとしたが、あいにく空になっていた。


 そうだった。今日はこれを補充しに森へと向かっていたのだ。


「今日薬草を採りに行っていてよかった」


 今し方取ってきたばかりの薬草。それをすり鉢の中に入れてさらに混ぜる。

 するとだんだんと緑色の液体が透明になってきた。


「あとはこれを30分熱してゼリー状にしなきゃなんだけど……」


 今はそんな時間が惜しい。


 しょうがない、少しだけ火を通してとろみを出して飲ませよう。




「よし、こんなもんならいいだろう」


 出来上がった薬を男性の口に流し込みしっかり飲み込ませる。


「がっ!! ごほごほっ!!」

「吐き出さないで、しっかり飲みなさい!」


 私は男性の口を両手で閉じさせた。


 この薬はとてつもなく苦いのだ。

 だが、効き目は保証する。


 男性の喉がごくりと飲み込んだのが見えた。


「いいこね」


 毒の方はこれで少し中和されただろう。


「よし、次は……」


 衣服を脱がせて体の傷を見る。

 細かい傷はたくさんあるものの、幸い深い傷は左腕の1か所だけのようだ。

 服のシミは全てここから出た血によるものだろう。


 私は再び薬箱に向かうと調剤を始め、全ての傷を治療した。



 ◇



「ふう。これで何とかなったかしら」


 私は床の上に転がり寝息を立てている男を見る。

 全身軟膏なんこうだらけの包帯だらけ。

 我ながらよくやったのではないだろうか。


「よくもまあ、こんな状態で生きてたもんだ」


 心配していた毒の方も、症状が収まってきているようで穏やかに眠っている。

 1週間程度薬を飲み続けなければならないと思うけれど、まあそれは仕方がない。


 傷の深い左腕を始め、すべての傷の消毒と止血剤や軟膏を塗り終わったのは外がどっぷりと闇に包まれた深夜だった。


 私は使ったものを片付けながら我ながらよくやったもんだと思う。



 薬箱を棚に戻すと上に置いてあった男物のネックレスが目に入った。

 死別した夫の遺品だ。


「……あんたを助けたかったから必死に覚えた知識がこの人を救ったんだねぇ」


 ネックレスを手に取り微笑む。


 私には魔法が使えない。

 平民でも当たり前のように使える魔力がないからだ。


「本当に、魔法が使えてたらあんたも助けられたのかねぇ」


 魔力がないということは当たり前だが怪我をきれいに治せる治癒魔法なども使えない。

 だから夫が苦しむ間、私は何もできなかった。


 それが悔しくて薬草や薬の知識を身に着けたのだ。



 この国では治癒魔法が発展した影響で薬に関する研究が廃れてしまった。

 百年くらい前にはちゃんと薬草などの知識があったらしいが今では遠い昔になっている。


 そういう訳でこの国で今も薬草や生薬しょうやくを使った治療をするものは私くらいなのではないだろうか。


 まあ私の知識も先祖代々受け継いできたと言われている一冊の本での知識しかないのだが。


 もっと早くにあの本を読みあさっていたら、もしかしたら夫は今も生きていたかもしれない。


「……って、いけないね。けが人を見たからしんみりしちゃったよ」


 私は切り替える様にネックレスを棚に戻し片づけを再開した。




ここまでお読みいただきありがとうございました!


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「今後が気になる」

「キャラが好き」


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